表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/81

53話 勝負したいんだ

 気を取り直してキッチンに立った藍は、菜のはを助手にビーフシチューに取りかかっていた。 蒼仁先輩が言うには、俺の体が動くようになるまであと30分。 側には紫苑がついてくれている。


  「ホントに平気? お兄ちゃん 」


 キッチンで藍と一緒にシチューを作りながら、菜のははひっきりなしに俺の様子を窺っていた。


 「お兄ちゃん想いの可愛い妹だよね、菜のはちゃんて。 ちょっとビックリしたけど 」


 紫苑は俺が寝そべるソファの横で床に座り、ずっと俺の様子を見守っていてくれた。


 「紫苑もありがとな。 おかげで菜のはが暴れて怪我しないで済んだよ 」


 「ううん、燈馬君と藍が落ち着いて指示してくれたからだよ。 キッチンじゃ危ない物多いもんね 」


 首はまだ動かせないので、目だけを紫苑に向けてお礼を言う。


 「前にも話したっけ? ウチは母さんを早くに亡くして、菜のはにはそれがトラウマになってる。 だから菜のはには任せられる男ができるまで、俺は何が何でも踏ん張らなきゃ 」


 「うん、聞いた。 フフッ…… 何度聞いても、お父さんみたい 」


 「よく言われる 」


 俺達は揃ってクスクスと笑った。 紫苑はおもむろに俺の頭を撫でて、しばらく俺の顔を見つめる。 これはこれで、なんだか気恥ずかしい。


 「燈馬君はいつでも他人優先だよね…… 鳥栖さんもそうなの? 」


 「うぇ? 」


 「副会長の指名、私は藍だと思って疑わなかったよ。 どうして鳥栖さんだったのか今でも分からない…… 」


 「…… 俺だって分からないよ。 ぶっちゃけ、俺は紫苑を指名するつもりだったんだ 」


 紫苑はきょとんとした後、頬を赤くして俺のおでこをペチペチと叩いた。 


 「もう…… それを今言う? 罪悪感たっぷりだよ私 」


 苦笑いの紫苑には悪いけど、もうフラれたんだからなんでもアリだろ! そう思うとスラスラと言葉が出てくる。


 「でもどうして鳥栖さんは副会長を私に譲るんだろ…… 面識ないよ? 」


 「…… 楓は俺が紫苑を好きなこと知ってるから。 アイツなりに気を利かせたつもりなんじゃないかな…… 」


 紫苑の頭を撫でる手がピタッと止まった。 じっと俺の顔を見て、不意に頬をつねられる。


 「燈馬君はやっぱり鳥栖さんの事が気になってるんだね。 好き? 」


 「そ、そんなこと…… 俺はずっとお前が…… 」


 「ある。 そんな顔をしてるよ 」


 ヤキモチを妬いてくれているんだろうか、紫音は少し膨れていた。


 「ねぇ橙馬君、お願いがあるんだけどね…… 聞いてくれる? 」


 「出来ることなら、だけど 」


 紫音はニコッと笑う。 その笑顔は、正に天使の微笑み…… 俺にはそうとしか思えなかった。


 「鳥…… 楓さんを救ってあげて欲しいな 」


 …… は? なんでそうなる?


 「救うってどういうこと? 」


 「きっとね、一人で寂しいんじゃないかな。 聞いた限りじゃ楓さんの周りには二ノ宮先輩と橙馬君しか頼れる人がいない。 でも心を許してるのって橙馬君だけなんだよ 」


 「勘弁してくれ…… 俺はアイツに振り回されっぱなし…… 」


 「じゃあどうして学校の玄関で頭下げてたの? もう関わりたくないんなら放っておいても良かったんじゃない? 」


 すぐには反論出来なかった。 柔らかい紫苑の表情を見れば責められているのではないと分かるけど、なんだか言葉が胸に刺さる。


 「あれは…… 俺が言い過ぎたからで…… 」


 「ほら、またその顔になる! 」


 自分ではどんな顔なんだか分かりませんが紫苑さん……


 「女の子の洞察力を甘く見ないで欲しいな。 すぐ分かるんだからね、特に君は 」


 いや、自分が好かれてる事は分からなかったじゃないですか紫苑さん……


 「…… 正々堂々勝負してみたいんだ、私。 藍と、楓さんと。 菜のはちゃんもかな 」


 「仰る意味がワカリマセンが…… 」


 またも『鈍感!』と頬をつねられた。 今度はちょっと痛い……


 「過去に痛い思いをしているから…… なんて、自分勝手な話だけど 」


 スタートラインを揃えるということだろうか? 紫苑と菜のは…… 藍? 楓?


 「私ね、楓さんと友達になりたいって思ってるの。 あ…… でも友達がいなさそうとか、寂しそうとかそんなことじゃないからね 」


 そう言って紫苑は苦笑いになった。 


 「出来たよー! 」


 話が一段落したタイミングで、藍が両手に皿を持ってリビングに運んできた。 いい感じにビーフシチューの美味そうな匂いが漂ってくる…… 腹の虫も鳴き出して、皆に笑われてしまった。


 「どう? 動けそう? 」


 ソファに起こしてもらったはいいけど、俺の体はまだまともに動かない。


 「いや、無理かも。 腹減ったぁ…… 」


 アハハと笑った藍は、俺の分を取り分けた皿とスプーンを持って俺の前に座り紫苑を呼ぶ。


 「ほら紫苑! 」


 ニコニコ顔で呼ぶ藍に、紫苑はツーンとそっぽを向いて『いただきます』と手を合わせていた。


 「藍が責任(・・)を持って食べさせてあげて下さい 」


 「えぇー! 」


 少し頬を赤らめた藍は、渋々ビーフシチューを掬ったスプーンを俺の口元に運ぶ。


 「あ…… あーん…… 」


 似合わん! 似合わんぞ藍! そんな照れた上目遣いで俺を見るな!


 「どぉ? 美味しい? 」


 「ん…… 美味い。 ん!? 何か隠し味入ってるな 」


 ニヤッとした藍は、菜のはと顔を見合わせてウキウキしていた。 菜のはもすっかり落ち着きを取り戻し、隠し味が何かを聞いてくる。


 「んー…… コーヒーか? 」


 「え!? コーヒー? 私全然気付かなかった 」


 「ふっふーん、今回のウチのビーフシチューはそれだけじゃないんだな 」


 勝ち誇った顔で俺の口にスプーンを突っ込んでくる藍に、紫苑も驚いた顔で食いついてくる。 正直、今は彼女うんぬんではなくこの雰囲気がとても心地いい…… 最近あまり相手にしていない青葉には悪いけど、関係なんて変わらなくていい、そんな風に思えてしまった。


 「…… 」


 藍は楓をどう思っているんだろう。 藍は幽体の楓の存在を知っているし、『あの女』と言うくらいだからきっと良くは思っていない。


 「ん? どうしたの? 熱かった? 」


 「いや、なんでもない。 もっとガバッと食わせてくれ! 」


 「そう? じゃあハイ! 」


 皿ごと食わせようとする藍に『アホか!』と返すと、菜のはと紫苑が笑った。 今は考えるのを止めよう…… そう思うも、紫苑が言った『救ってあげて』という言葉は、俺の心から離れることはなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ