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52話 フラれたけれど……

 「お、思い過ごしなんかじゃない! 俺は中学校からずっと紫苑が好きで、だから頑張って星院東にも入って…… ちょっと待ってくれ! 」


 「…… そうだったんだ、じゃあ尚更悔しいな…… 」


 「悔しい? って、なんで? 」


 紫苑は頬を真っ赤に染めながら俺を上目遣いで見上げる。 うわ…… メッチャ可愛い……


 「正直に言うね。 中学2年の時、燈馬君が私の事を見てたのは知ってたの 」


 「へ…… え? うぇ!? 」


 そんなにガン見してたっけ……


 「睨まれてると思ってて凄く怖かった。 今、好きだったって聞いてから改めて思うと、私自信が荒んでたんだなって思った。 あの時はボッチにされて酷かった時期だったから 」


 「そっか…… 俺から見たら、高嶺の花でみんな手が出せないんだなって思ってた 」


 「高嶺の花だなんて…… 私はお嬢様なんかじゃないよ 」


 エヘヘと照れ笑いするのがまた可愛い。 それと同時に、あの頃俺の目が如何に節穴だったかを思い知らされる。


 「ごめん…… 全然気が付かなかった…… 」


 「ううん、そう言う事を言いたいんじゃないの。 あの時、勇気出して橙馬君に声を掛けられてたら、今よりもっと仲良くなれたんじゃないかなって 」


 もっと…… 俺も勇気出して紫苑に声を掛けられてたなら…… と後悔しても、もう時間は巻き戻らない。


 「私も好きだよ。 お友達じゃなくて、男の子として。 でもね…… お付き合いは出来ないかな 」


 俯いて優しい笑顔を見せる中に、寂しそうな色もあった。 フラれたけど、好きだよと言われてなんだか嬉しい。


 「じゃあ、もっとガツンとフッてくれよ。 なんだかお前の方がツラそうに見えるぞ? 」


 「わかってないなぁこの鈍感君は。 だから藍も苦労してるんだね 」


 「なんでそこで藍が出てくるんだよ? 」


 やれやれとため息をつかれてジト目で見られた。 いや、アイツが俺の事を好きはないだろ…… 前にオトモダチとしてってハッキリと言われたし。


 「まぁその鈍感なのがまたいいところでもあるんだけどね 」


 「わかんねぇ…… 」


 「フフ…… 悩んでくれたまえ橙馬君! ほら、美味しいビーフシチュー作ってくれるんでしょ? 」


 止まっていた手を動かすよう催促された。 好きなのに、両想いなのに付き合えないとは、恋って本当に難しい。 付き合ってる連中はどんな事をして付き合い始めるのか不思議に思う。


 「そう言えばちゃんとお礼言ってなかったね。 あの時助けてくれてありがとう、カッコ良かったよ 」


 紫苑はピトッと遠慮ぎみに俺の腕に寄り添ってきた。 うおぉ! このままギュッと抱きしめてぇ……


 「ちゃんと作ってる? お兄ちゃん! 」


 ドタドタと階段を下りてきた菜のはと藍に、紫苑がスッと離れてしまった。


 「橙馬、挽き肉あった? 菜のはちゃんがハンバーグも食べたいって 」


 「ハイハイ、お姫様のご要望にはちゃんと応えられますよ 」


 冷凍室を開けながら菜のはを見ると、紫苑と向き合って丁寧に挨拶していた。


 「したの? 」


 気になっていたのか、藍も冷凍室を覗くフリをして小声で聞いてきた。 ああ、とだけ何気に答えると、『そっか』と肩をポンと叩かれる。 おぁ!? そこはヤバ……


 「え? 」


 叩かれた肩の位置が、蒼仁先輩に押された覚えのあるツボの位置だったらしい。 瞬時に全身から力が抜けて、膝から崩れる。 


 「ちょっ! 橙馬! 」


 藍がすかさず支えようとしてくれたけど、力の抜けた俺を一人で支えられる筈がない。


 「お兄ちゃん!? 」


 「橙馬君! 」


 藍に寄りかかるように倒れた俺は、3人に囲まれるようにその場に寝かされた。


 「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! 」


 「大丈夫だ菜のは! 落ち着け! 」


 「お兄ちゃん! 死んじゃいやぁ!! 」


 俺を揺すって泣き叫ぶ菜のははパニックを起こし、俺の声は届いてない。


 「藍! 菜のはを頼む! 引っぱたいてもいい! 」


 「ちょっ! 燈馬なに人の心配してんのよ! アンタの方が…… 」


 「蒼仁先輩がいつも俺にやってるアレだ! だから心配ないから菜のはを止めてくれ! 」


 冷静な俺を見たからか、藍は菜のはを俺から引き剥がして後ろから羽交い絞めにした。 それでもパニック状態の菜のはの力は強く、一人では抑えきれないでいる。


 「紫苑、お願い! 手伝って! 」


 「菜のはちゃん!! 」


 紫苑はバチンと菜のはの頬を叩き、すぐに胸に顔を埋めるよう菜のはを抱きしめた。


 「大丈夫、燈馬君は大丈夫だよ! 」


 押さえ込まれるように抱きしめられた菜のはは、紫苑の背中を叩いたり叫びながらもがいたりしていたが、紫苑と藍に何度も『大丈夫』と言い聞かせられてやっと暴れなくなってきた。 二人がかりでやっと菜のはを押さえ込み、怪我をしてないか確認してもらう。


 「大丈夫? お兄ちゃん死なない? 」


 「うん、大丈夫! 私達がいるから 」


 優しく頭を撫でられて菜のはは紫苑を真っ直ぐ見上げ、やがて紫苑の胸で大泣きし始めた。


 「ホントに大丈夫? 救急車呼ぼうか? 」


 紫苑に菜のはを任せ、藍が俺の頭の横にひざまずいて覗き込んでくる。


 「大丈夫だから、もう一回肩のツボを押してくれ 」


 藍はパチパチと瞬きをして首を傾げる。 え? 


 「お前、もしかして偶然やってしまったってやつか? 」


 「当り前じゃん! そんな力が抜けるツボなんて知らないし、知ってたって押さないよ! 」


 そりゃそうだよな、蒼仁先輩じゃあるまいし。 仕方ない、蒼仁先輩に助けてもらうか。


 「藍、悪いけど俺のスマホで蒼仁先輩に連絡してくれないか? あの人にしか直せないと思う 」


 「う、うん 」


 すぐに藍は俺のスマホを取りに行き、発信をタップしてハンズフリーモードにしてくれた。


 ― おや、僕の声が聞きたくなったのかい? ―


 「こんばんは蒼仁先輩、ちょっと助けて欲しくて。 実は…… 」


 事の顛末を話すと、電話口の向こうで蒼仁先輩は笑っていた。


 ― いや、笑い事ではないね、失礼した。 すぐに行ってあげたいところなんだが、僕は今京都にに向かっていてね。 すぐには戻れないんだ ―


 「うぇ? じゃあ先輩が来てくれるまで俺はこのままですか? 」


 ― いや、一時的に筋肉を弛緩するものだから一時間もすれば効果は切れるんじゃないかな。 いやしかし、楠木君は大したものだね。偶然でもあのツボは押せるものでもないのに ―


 「感心するとこじゃないですよ先輩。 とりあえず大人しく寝てれば治るんですね? 」


 ― ああ。 美女3人に心行くまで介抱してもらうといい ―


 場を和ませてくれた蒼仁先輩にお礼を言って通話を終える。 藍は真っ赤な顔をしてスマホを持つ手はプルプル震えていた。


 「ということだ。 悪いけどソファまで運んでくれないか? 」


 「うん、ホントゴメン…… 菜のはちゃんも 」


 「ううん、ウチのバカお兄ちゃんが悪いんです! いきなり倒れるから…… 」


 菜のはは紫苑の胸で一生懸命首を振っていた。 もう大丈夫と紫苑は菜のはを解放し、三人がかりでソファに寝かせてくれる。 しっかり回復するまで面倒みると言った藍に、作りかけのビーフシチューを作ってもらうことにした。





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