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50話 ちょっと付き合え

 「ま…… まぁ気にする事ないじゃない 」


 会長席に突っ伏して真っ白になっていた俺に、藍が優しく言葉をかけてくれた。 紫苑と伊藤は未だに真っ赤な顔をして言葉を失っていたけど、楓だけは平然とコーヒーをすすっていた。


 「いいじゃん、別に減るものじゃあるまいし 」


 「減るわ! ゴリゴリ削られたわ! 」


 紫苑達の前で容赦なく制服を脱がされ、あれやこれやと…… 思い出すだけでもおぞましい。


 「もうお婿に行けない…… 」


 泣きながら言うと、藍は笑いながら優しく肩を揉んでくれた。


 「誰も貰い手いなかったらウチが貰ってあげるから。 でも良かったの? みどり先輩の囮作戦を認めちゃって 」


 「良いもクソもないだろ。 認めなきゃ昇天しちまうわ 」


 結局蒼仁先輩には抗えず、息絶え絶えに囮作戦を容認してしまった。 蒼仁先輩は、遠藤に警察関係の叔父に連絡を取るよう指示し、吹石先輩の後を追うと生徒会室を出て行った。 全てを任せる訳ではないけど、今の俺達に出来ることもないので今日は解散とする。


 「紫苑、送っていこうか? 」


 昨日は私服だったから紫苑の身元がバレてる訳ではないけど、昨日の今日なので心配になった。


 「ううん、大丈夫。 バス停までは藍もいるから 」


 紫苑達を見送って、遠藤達にも気をつけるよう伝えると、『お前もな』と笑顔で返された。 伊藤に至ってはまだ俺の顔をまともに見れないらしい。


 「ほら、生徒会室を閉めるぞ 」


 最後まで残っていた楓に生徒会室を出るよう促すと、『うん』と気のない返事でゆっくりと立ち上がっていた。


 「どうした? 調子悪いのか? 」


 「…… なんでもないわよ 」


 なんでもないわけがないのは見てすぐに分かる。 さっきの寂しそうな表情といい…… はぁ、めんどくさい奴だな。


 「楓、ちょっと時間作れるか? 」


 「え? まぁ少しくらいなら 」


 「んじゃちょっと付き合え。 奢ってやるから 」


 俺は楓を学校近くのコンビニへと誘った。 ファーストフード店やファミレスなんかに誘えばスマートなんだろうけど、あいにく俺の財布にそんな余裕はない。 ちょっとお高めのスイーツを選ばせて、裏通りにある公園のベンチに連れてきた。


 「何を企んでるのよ? 奢ってくれるなんて 」


 「はあ? なんだ、クリームたっぷりロールケーキは嫌いだったか? 」


 「大好きよ! そうじゃなくて、その…… 珍しく優しいじゃない 」


 確かにツンケンしてるかも知れないけど、別に前ほど嫌ってる訳じゃない。


 「なにテンション下がってんだよ? 除け者扱いされてるとでも思ってるのか? 」


 あぁ…… ビンゴでした。 ロールケーキに刺したスプーンの手を止めて俯いている。


 「あのなぁ、少なくてもあの場の全員はお前を除け者にしようとは考えてねぇよ。 もしかして囮になるって言ったのもそれか? 」


 「そうじゃないけど…… アタシだけ相手にされてないみたいで…… 」


 「まだ皆はお前に遠慮してるんだよ。 どんな性格なのか、どんな趣味なのか…… 分からない相手には話し掛けづらいだろ? 」


 「…… うん 」


 「ゆっくりでいいんだよ。 皆は冷たい連中じゃない、俺が保証する 」


 「…… うん 」


 少しだけ元気を取り戻した楓は、再びロールケーキを少しずつ口に運んだ。


 「…… やっぱりクラスでうまくいってないのか? 」


 「やっぱりって何よ! そりゃあ…… うん…… 」


 また楓のテンションが一気に下がる。 聞くと、今日は誰とも話せなかったそうだ。


 「覚悟はしてたのよ。 歳も違えば、転校じゃなくて編入っていう異例の事だし。 編入したてでいきなり生徒会副会長だなんて、目立ち過ぎだもの 」


 最後の言い分は俺のせいだよな…… なんだか責任を感じてしまう。 パクパクとロールケーキを平らげた楓は、包装紙を綺麗に畳んでポケットに入れ、スマホを取り出してタクシーを呼んでいた。

 

 「アンタがそんな顔をすることないでしょ? 友達がいないのは慣れてるし、友達が出来ないのはアタシが悪いだけなんだから 」


 楓は俺を見上げて微笑んでいたけど、どこか寂しげな感じがした。


 「俺に何か出来ないか? 」


 「…… 別にしなくてもいいわよ。 アンタは妹を構ってればいいんじゃない? シスコンで有名なんだから 」


 ベンチから立ち上がった楓は『ごちそうさま』と素っ気なく言うと、公園横に停車したタクシーに手を上げた。


 「それに、アタシを構ってる暇があるなら佐伯さんを追いかけたら? 好きなんでしょ? 」


 …… なんだよそれ。 カチンときて、タクシーに向かって歩いていく楓に突っかからずにいられなかった。


 「それとこれとは関係ないだろ。 心配だったからお前の話を聞こうと思ったんじゃねぇか! 」


 振り返った楓は目を見開いていたが、すぐに蔑んだ目で俺を睨めつけた。


 「人の事を構ってる余裕あるのかって言ってんの! アンタはもっと自分を大事にしなさいよ! 」


 はぁ!? 


 「元はと言えば誰のせいで生徒会長までやらなきゃならない状況になったんだよ! 」


 しまった…… 口に出してから自分の言葉の重大さに気付く。 無表情になった楓は口を真一文字に結び、何も言わずにタクシーに乗り込んでいった。


 「クソ! 」


 飲み終えたコーヒーの空き缶をベンチに投げ付ける。


 「あだっ!? 」


 跳ね返ってきたコーヒー缶に額に反撃されたけど、その痛みよりも心が苦しかった。


 「サイテーだ、俺…… 」


 誰のせいで? それは言ってはならない言葉だ。 楓が悪い訳じゃない…… アイツは2年間も彷徨って、やっと見つけたのがおれだっただけの事。 暴走もしたけど、振り回されたけど、それだって悪意を持ってやらかした訳じゃない。 謝ろうと思って楓に電話を掛けたが、2コールもしないで着信拒否をくらった。 何度掛け直しても『この電話番号はお客様の都合により……』とブロックされてしまった。


 ― お兄ちゃん、晩御飯どうするの? ―


 呆然とスマホを見ていた時に菜のはから電話が入る。 すぐ帰ると返事をして、俺は公園を飛び出した。


 明日、しっかり頭を下げて謝ろう…… 






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