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46話 気遣い

  信じてたのに…… 橙馬君……


  違うんだ紫苑! 俺はお前を!


  見損なったよ橙馬! ウチの努力を全て無駄にして何が面白いのさ!


  待ってくれ藍! こんな筈じゃ……


 「なかったんだよぉ…… 」


 という絞るような情けない自分の声で目が覚めた。


 「何がなかったんだよぅ? お兄ちゃん 」


 仰向けに寝ている俺の腰の上には、パジャマ姿の菜のはが馬乗りになっていた。 朝はヤバいって…… いや、今日はヤバくない。


 「お…… おはよう 」


 「おはよ。 生徒会長様が就任翌日から遅刻していいの? 」


 「いや、今日土曜日だし 」


 「昨日お兄ちゃんが言ってたじゃない、明日は登校しなきゃならないって。 私とデートの(・・・・・・)約束やぶって(・・・・・・) 」


 ふおおぉ忘れてた! 生徒会長業務の引き継ぎと、楓に校内を案内してくれと二ノ宮会長…… じゃなく蒼仁先輩から頼まれてたんだっけ! 時計を見ると既に8時半…… 遅刻確定。 勢い良く菜のはを押し倒してタオルケットにくるみ、すぐに蒼仁先輩にメールを打つ。


 「もう…… 生徒会には入らないって言ったの誰なのさ…… 」


 菜のはは朝からすこぶる機嫌が悪い。 まあ一週間前から一緒に買い物に行く約束をして、それを破ったんだから無理もないか。


 「必ず埋め合わせするから! 引き継ぎもあるから今日は外せないんだよ、ゴメンな 」


 「…… 途中で投げ出さないのがお兄ちゃんだから仕方ないけどさ。 いいよ、大人しく留守番してる 」


 タオルケットから顔だけを出し、菜のはは俺のベッドで寝に入った。 昨日からずっとこんな調子で、怒りのやり場がなくてどうしていいか分からないといった感じだ。 素直に俺にぶつければいいのに、俺の気持ちも汲んでくれる妹にジーンときてしまった。


 「パッと終わらせてすぐ戻ってくる。 約束だ 」


 頭を撫でてやると、菜のははニコッと笑って頷いた。


 「んで、菜のはさんは兄貴の着替えに興味がおありで? 」


 「うん! 」


 お年頃とはいえまだ早い! 脱いだTシャツを顔に投げ付け、菜のはがもがいている間に着替えを済ませた。





 「すいませんでした! 」


 大急ぎで登校した俺は、蒼仁先輩に腰から頭を下げる。


 「連絡は貰ったのだし、僕と君の仲なんだ。 そんなに畏まることはないよ。 それでもと言うなら…… 」


 「いやいや! 力の抜けるアレは勘弁して下さい! 」


 伸ばしてきた蒼仁先輩の手を丁重にお断りする。


 「遅いわよバカ! まさか妹とイチャイチャしてて遅れたんじゃないでしょうね? 」


 「アホか。 兄妹はお前が想像してるような関係にはならねーよ 」


 真っ赤な顔の楓を軽くあしらい、俺は蒼仁先輩と引き継ぎの話を進めた。


 「橙馬は楓君に冷たいねぇ 」


 書類を整理しながら蒼仁先輩はクスクスと笑っている。


 「アイツとはこのくらいが丁度いいんですよ 」


 「本当は優しくしたいけど…… とかかな? 」


 「そんな感情は持ってませんよ。 ただ…… 」


 関わるとろくな事にならない。 そう思っていたけど、本人が横にいるとそうは言えなかった。


 「ただ…… ね。 まあそういうことにしておこうか 」


 机の中の物を乱雑に段ボールに詰め込んだ蒼仁先輩は『どうぞ』と会長席を俺に譲る。 昨日も座ったけど、改めて会長席に一礼してちょっと豪華な椅子に座った。


 「それじゃ、パソコンに入っているファイルから説明していくよ。 一度しか言わないからそのつもりで 」


 一瞬で蒼仁先輩の雰囲気が引き締まったものに変わった。 仕事モードの先輩は怖いくらい真剣で、きっとこれが上に立つ者の威厳なんだと思わされる。 この雰囲気は俺も見習うべき…… と、ふと視線が気になって横を見ると、瞳にハートマークを浮かべた楓が蒼仁先輩をガン見していた。


 「よそ見をしている暇はないよ橙馬。 パッと終わらせようじゃないか 」


 キツイ口調で蒼仁先輩に怒られた。 が、パッと終わらせる? 急がなきゃならない用事でもあるのか?


 「菜のは君が待ってるんじゃないのか? 」


 うぇ!? 耳元で囁いた先輩に思わず振り返ってしまった。 そのまま頬にキスされそうな距離…… 近い近い!


 「なんでそれを…… 」


 「さあ続きだ。 生徒総会に使うファイルは…… 」


 怖ぇ…… どこまで知ってるんだよこの人! その後も蒼仁先輩の説明は続いたが、半分も頭に入らなかった。




 「羨ましすぎるわね、アンタ 」


 蒼仁先輩から引き継ぎを終えた俺は、楓と各教室を回る。


 「男に迫られる男の身にもなってみれよ 」


 蒼仁先輩は男から見ても超イケメンだけど、あの距離感は勘弁してほしい。 そんな事を考えていると、『違うわよ』と呆れられてしまった。


 「ねえ、あの会場でどうしてアタシがいることが分かったの? 」


 「え? 」


 ゆっくりと歩く楓は、俺と目線は合わさず教室の様子を覗きながら俺の言葉を待っているようだった。 どうしてって…… どうしてだ?


 「どうしてアンタがアタシを副会長に選んだのかなと思ってさ。 この学校の副会長って、会長にとって大事なポジションなんでしょ? 」


 「蒼仁先輩に色々聞いたのか? 」


 『うん……』と楓は短く答えた。 どこか寂しげで、どこか期待しているような楓の声に、俺は正直な気持ちを伝える。


 「何を聞いたのかは知らんけど。 俺はお前を選ぶ気はなかったよ 」


 「…… そうなんだ。 紫苑って言ったっけ? 清純そうで可愛い人だね 」


 「そうだな、俺は彼女を副会長に指名しようと思ってた 」


 「そうすれば良かったじゃない。 どうしてアタシなの? 」


 「…… 咄嗟に口に出たのがお前だったんだから仕方ねぇだろ。 俺にもわかんねぇよ…… 」


 そう口にすると、楓はチラッと俺の顔を見た。 うわ…… その上目遣いのアングル、ヤバいわ……


 「その…… だな、先輩が言ってた守るとか、俺は別に気にしちゃいないからな 」


 「なに? それ 」


 やべ…… その話はしてないのかよ。


 「お前がこんなに早く編入してくるとは思ってなかったよ。 学年は…… アレだけど、ホントに試験受かってさ。 難しかっただろ? ウチの試験 」


 「うん、めっちゃ難しかった。 幽体の時にもかなり勉強してた筈なんだけど、やっぱり鉛筆持って書かないと覚え悪いみたい 」


 「年下と同学年だけど、うまくやっていけそうか? 」


 「せっかく蒼仁先輩の学校に入れたんだから、やっていくしかないでしょ! なんかアンタ保護者みたい 」


 蒼仁先輩の(・・・・・)学校ではないけどな。 楓は口を尖らせて文句を言ったが、俺と目が合うとプルプルと首を振った。


 「ううん、保護者かも 」


 おいおい…… しれっとするな、どう反応していいか分からなくなる!


 「お前みたいな娘を持った覚えはない 」


 「違うわよバカ! 」


 「なんで俺がお前の保護者なんだよ? 」


 「だって…… なんだかんだアタシを見ててくれるじゃない。 幽体の時もそう…… 今だって 」


 は? なんの事だ?


 「無視、しないじゃない。 今だってアタシの歩調に合わせてくれてる 」


 松葉杖で歩く楓はスムーズに歩ける訳じゃない。 仮にも校内案内をしてるのだし、俺のペースに合わせれば転ぶかもしれないから。 これって普通の事じゃないのか?


 「いいなぁ…… 紫苑さん 」


 楓がボソっと呟いたその一言の意味を、どう捉えていいものか分からなかった。


 「ほ、ほら次行くぞ! 菜のはを待たせてるんだから! 」


 照れ隠しだったんだと思う。 俺はポケットに手を突っ込み、楓を置いて早足で歩き出す。


 「ちょっと待ってよ! あっ!? 」


 楓の叫び声に振り向いた時にはもう遅かった。 足をもつれさせて前のめりになった楓は、頭から廊下に突っ込んでいた。 ゴン、と廊下に響く音…… うわぁマジか……


 「いたた…… 」  


 頭を押さえて起き上がった楓の下には、松葉杖を握りしめたままうつ伏せに倒れている楓がもう一人いた。


 

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