45話 第36期生徒会
生徒会長のプレートが置かれた豪華な書斎デスク。 歴代の生徒会や学校の歴史を物語る綺麗に整頓された本棚。 差し込む西日を背に、俺はその書斎デスクに力なく突っ伏して呆けていた。
「まったく、何を考えているのか僕には理解できん 」
カタカタと静かにキーボードを叩いている遠藤の口調は少し荒かった。 生徒会長選挙ならぬ、二ノ宮会長監督の後任生徒会長任命式は、大盛況のうちに終了した。
「ボクニモリカイデキマセン…… 」
副会長を楓と言ったことで、会場の生徒の中に同じ名前の生徒が何人もいたらしく、あちこちから悲鳴が飛んでいた。 混乱する会場を収めようとフルネームで鳥栖楓と叫ぶと、納得しなかったのが紫苑と藍だった。 二人は俺を見てその場に立ち上がり、唖然としてお互いの顔を見ていた。さすがに二人がステージに殴り込んでくることはなかったが、代わりに遠藤に胸ぐらを掴まれて問い詰められた。
「デキマセンではない。 僕までしっかり巻き込んでおいて何を言うんだ 」
収拾がつかなくなった会場を二ノ宮会長が収め、頭が真っ白になった俺は他の役員指名を遠藤に一任したのだ。 こうなったら遠藤も公開告白の道連れに…… なんて考えたのかもしれないが、俺はよく覚えていない。
「さすが蘇芳は冷静だね。 でもまさか三千院君を副会長に選ぶとは予想外だったけどね 」
ソファにゆったりと座る二ノ宮会長は、優雅にコーヒーを飲みながら微笑んでいた。 遠藤はそれを横目にため息をついている。
生徒会役員は、会長の俺を含めて5人。 補佐になる副会長が鳥栖楓と三千院驍樹、書記が遠藤蘇芳と伊藤雪乃というメンバーになった。 『大所帯になったね』と二ノ宮会長が笑うと、『本来の形です』と遠藤が釘を刺す。
「反抗勢力対策ですよ。 三千院を崇拝する生徒は半数近くいるのだから、奴をないがしろにすると何かと障害になりそうですから。 役員に入れておけばそれも心配なくなるかと 」
楓と三千院は吹石副会長に連れられて風紀委員会に顔を出しに行っている。 本人がいないのをいいことに、会長と遠藤は三千なにがし君対策の話を繰り広げていた。
「それはそうと貝塚、何故に佐伯や楠木ではないんだ? 鳥栖は眼中にないと言っていただろう 」
二ノ宮会長を見習って、副会長には紫苑を…… と決めていたが、なぜ楓の名前を口にしたか俺にも分からない。 心の奥ではそうなのか? アイツとキスしたからか? 考えれば考えるほど分からなくなって今に至る。
「そうだよ? 私は絶対紫苑ちゃんだと思ってたもん。 告白のチャンスを棒に振って、何やってるの君は! 」
伊藤さんが仰るのが正解です。 俺が生徒会長に決まった時、紫苑は藍が副会長に、藍は紫苑が副会長に指名されると思っていたんだろう。 任命式が終わってから顔を合わせていないから確認しようがないし、なんだか気まずくて連絡も取る気になれない。
「僕は楓君一択だと思っていたけどねぇ。 本当に君は期待を裏切らない男だよ 」
「そんなんじゃないですよ、俺は紫苑を…… 佐伯を追いかけてこの学校に入ったんです。 それなのに…… わかんねぇ…… 」
「まあ、流れ的には微妙な所だけど、副会長の立ち位置が恋人限定というわけじゃない。 燈馬、君の選択はむしろ良かったと僕は思っているよ 」
「…… なんでです? 」
フフッと笑った二ノ宮会長は、飲み終えたコーヒーカップを置いて立ち上がった。
「会長? 」
「会長は君だよ? 君はもう、僕を蒼仁と呼ばなくてはいけない 」
俺の後ろに回り込んできた二ノ宮会長は、突っ伏す俺の肩に手を置いて耳元で囁く。 うわっ! また体が動かん!
「ほら、蒼仁と言ってくれ 」
「二ノ宮会長!? わわっ! 待って、まってェ! 」
「違う。 そ・う・じ・ん、だよ 」
「そ、蒼仁先輩ー! 」
遠藤は無視してるし、伊藤も真っ赤な顔して見てないで助けろよー!
「まぁ今日のところそれでいいか 」
再びポンと肩を叩かれて解放される。 何がしたいんだよこの人は!
「そ、蒼仁先輩。 良かったってどういうことですか? 」
「楓君は週明けから編入してくる予定だ。 残念ながら偏差値の問題で2学年への編入は叶わなくてね、一学年への編入なのだが、彼女の性格上クラスに馴染みづらいと思う。 一歳上というのもあって、周りからの風当たりも強いだろう 」
「つまり、楓の盾になれと? 」
「察しがいいね。 生徒会副会長の肩書きと君の目があれば、僕も安心して卒業出来るというものさ。 それを見越して、君は楓君を選んだ…… しばらくはそういうことにしておけばいいよ 」
はぁ、まあ事情を知っている人には納得するような言い訳か。
「さあ、新生徒会の方針と公約を決めてしまおうか 」
そう蒼仁先輩が言うと、タイミングを計ったように吹石副会長が生徒会室の扉を開けた。 先に入ってきたのは両手に松葉杖をついた楓で、その後に三千なにがしが続く。
「…… 何よ? 制服が似合わないとでも言いたいの? 」
「あ…… いや、なんでもない 」
取り憑かれていた頃の中学生の制服と違う、ウチの制服を着た楓が新鮮で、気付かずに見入ってしまっていたらしい。
「信じられないわ、編入手続き直後に生徒会に入れられるなんて 」
「全くだ。 俺もお前を副会長に指名するなんて思わなかった 」
「何よそれ、アンタが決めたんじゃない。 吹石先輩から一通りの説明は受けたけど、その…… 責任持って面倒見なさいよね 」
なんだ? なんでそこでモジモジするんだ?
「余計なこと言ったんじゃないですよね? 副会長 」
「もう副会長はこの子でしょ? 私はただ面倒見てもらいなさいねと言っただけよ 」
吹石先輩は綺麗な笑みをして蒼仁先輩の後ろに隠れてしまう。 まったくこの二人は……
「僕も驚きだね。 会長戦に負けたのに、まさか副会長に任命されるとは思ってなかったよ、燈馬会長 」
うわぁ…… 三千なにがし君はもうやる気モードですよ…… コツンと遠藤に腕を突っつかれて、俺は当たり障りのない言葉を考える。
「た、頼りになる片腕が欲しかったんだよ。 もう片腕は新入生だからさ 」
「昨日の敵は今日の友、というわけだね。 オーケー、僕も全力で協力しよう 」
言うことがイチイチめんどくさい。 けどこれから約1年は付き合っていかなきゃならないんだから、友好的な気持ちはありがたかった。
「では貝塚会長、進行をしてもらえるかな? 」
蒼仁先輩の言葉に、俺は第36期生徒会の第1回会議を始める。 議題は蒼仁先輩が言っていた方針と公約内容の決定。 家で待つ菜のはは、俺が生徒会長になったことを知ったらなんと言うだろう…… 方針や公約よりも、そっちの方が心配の種だった。




