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39話 生徒会役員

 星院祭が終わって11月に入ると、お祭りモードだった星院東高校は一気に雰囲気を変える。 国立、私立大学を合わせて合格率90パーセントを越えるこの学校では、三年生が早くも進学に向けた最後の追い込みに入るのだ。 いや、人によっては三年生に上がった時からスパートをかけるくらいだから、この時期からの追い込みは遅すぎるのかもしれない。 その余波は俺達二年生にも飛び火する。 それは生徒会の役員交代だ。


 「無理ですって! 俺はこの学校のレベルについていくのがやっとなんですから! 」


 ある日の昼休み。 二ノ宮会長に生徒会室に呼び出された俺は、例によって会長にツボを突かれてソファに押し倒されていた。


 「そうかな? 僕は君が適任だと確信しているんだが 」


 吐息が頬に掛かるくらいの距離で二ノ宮会長に口説かれる。 会長は次期生徒会長に俺を推薦したいらしい。


 「せ、生徒会長は基本的に現役員の中から選ぶのが通例でしょう? 俺は仕事内容もさっぱり分かりませんよ! 」


 「それは無理な相談だね。 それに、通例があるなら異例があって当然なんだよ、分かるかい? 」


 「哲学的なことは分かりません! 吹石副会長も会長席でニコニコしてないで助けて下さいよ! 」


 「あら? 楽しいのにどうして助けなきゃならないの? 」


 俺にスマホのカメラを向ける副会長に背筋が寒くなる。 わー!! ベルトに手を掛けないで下さい会長!


 「残念ながら現役員は僕とみどりの二人しかいない。 本来、副会長がもう一人と書記が二人就く筈なんだけど、副会長は退学してしまい、書記は就任直後に辞退してしまった。 僕達は後継ぎを見つけなくてはならないんだよ 」


 その書記の一人が、ウチのクラスの遠藤 蘇芳(すおう)だった。 当時、一年生から生徒会役員に抜擢されるのは異例で、遠藤は全生徒から注目されていた。 遠藤自身もやる気があったように見えたんだけど、なぜか就任直後に辞めてしまったのだ。 その理由は…… 今なら分かるような分からないような。


 「役員選挙は一週間後だ。 選挙前演説は勉学の邪魔になると禁止されているし、全校生徒に向けてアピールするのは選挙時の一度だけ。 勝負だよ燈馬 」


 ポンと肩を叩かれると体に力が入るようになった。 すぐさま外されたベルトのバックルを締め直す。


 「今日の放課後から選挙ポスターの開示が許可されるから、楽しみにしていてくれ。 それと、去年僕が使った演説の原稿を渡しておこう 」


 社長と秘書のように、二人は流れるような動きで俺にファイルを渡してくる。 準備良すぎ…… この二人はどうしても俺に生徒会長をやらせたいらしい。


 「…… 俺はやりますとは一言も言ってませんけど? 」


 「言ってもらわないと困る。 生徒会長と言っても、僕にできるのだから何も難しいことはないよ。 堅苦しく考えることはないさ 」


 全然説得力ありません。 吹石副会長もそこで頷かない!


 「学校の為に、なんて考えなくていいのさ。 僕達はただ、君に卒業式に送り出してもらいたいだけなんだよ 」


 「完全に生徒会を私物化してるじゃないですか 」


 二人は揃って『そんなものだよ』と笑った。


 「それに、君にとっても利益はあるんだ。 生徒会長という肩書があれば進学や就職に有利だからね 」


 なるほどと思う反面、そんな個人の損得勘定に生徒会長というものを入れていいのか疑問だ。


 「大丈夫、私達が全力でバックアップするから。 お代はそうね…… 」


 「菜のははあげませんよ? 」


 俺の意思をそっちのけで、生徒会役員選挙はすっかり二人のペースになっていた。 一通り話を聞いて俺は生徒会室を後にする。


 「二ノ宮先輩、なんのお話だったの? 」


 教室に戻ってきた俺を心配そうに迎えてくれたのは紫苑だった。 スパリゾートの旅行以来、少し距離が近くなったような気がするのは俺の妄想だろうか。 とりあえず席に戻って、食べかけの弁当箱の蓋を開く。


 「次期生徒会の相談だったよ。 俺に会長をやれなんて無茶を言ってくれるよ 」


 「燈馬君、生徒会長になるの!? 」


 突然紫苑が叫ぶ。 俺も横にいた藍も紫苑にビックリしたが、それよりもビックリして飲んでいたコーヒーを吹き出していたのは教室の角の席の遠藤だった。


 「…… 大丈夫か遠藤…… 」


 「あ、ああ…… 問題ない 」


 平然を装ってはいるけど、鼻からコーヒー出てるぞ。 向かいで一緒に食べていた伊藤までコーヒー飛んでるし。


 「そうだ遠藤、お前に聞きたい事が…… って、あれ? 」


 弁当の卵焼きを突こうとしたけど、二切れ残っていた筈の卵焼きが綺麗になくなっている。 さては青葉が食べたのかと振り返ると、そこにはそっぽを向いて口を動かしている藍と保木が立っていた。


 「お前ら…… 」


 「これ菜のはちゃんのお手製なんだって? 美味しいねぇ! 」


 「そうだけど。 菜のはの事になると容赦ないなお前も 」


 「いいなあいいなあ、私も菜のはちゃんの手料理食べたい! なんでアンタが兄貴やってんのよ! 」


 こいつとも距離が近くなった気がするのは、俺の気のせいだろうか。


 「燈馬君、よかったらこれ食べる? 」


 苦笑いで紫苑が持って来てくれたのは小さなバスケットに入った一切れのサンドイッチだ。


 「ちょっと多くて…… 美味しくないかもしれないけど 」


 んん!? もしかして紫苑さんの手作りですか!? 一口サイズの小さい一切れが食べきれないなんてなんて可愛いんだ!


 「サンキュ! 」


 デレそうになる顔を必死に抑えてそのサンドイッチを受け取り、平然を装って口に運んだ。


 「はむ! 」


 世界が白黒反転した。 目の前で藍が横から俺の指ごと一口にしたのだ。


 「うまっ! 紫苑、腕上げたねぇ! 」


  ぬおおおぉぉ! 何してくれてんだアオイー!?


  ふっふっ…… そんな甘い展開は許されないのだよ燈馬クン!


 と言わんばかりの藍の勝ち誇った笑みに、生徒会長の話などどうでもよくなっていた。





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