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35話 飴と鞭?

 ― バッカじゃないの! なんであのチャンスを逃すのよアンタは! ―


 電話口で藍に思いっきり怒鳴られてしまった。 あの後、他愛もない話で盛り上がり、昼過ぎには菜のはを迎えに行く準備をすると紫苑と別れた。 紫苑と呼べるようになった喜びと、赤西からの告白は断ったと聞けただけで満足してしまった俺は、やはり紫苑に告白する勇気が出なかったのだ。


 「そんな事言ったって、男がらみの嫌な思い出話の後に告白なんて出来ないだろ 」


 ― 渉みたいに次に誰か告ってきたらどうするのよ? その度にへこむアンタの顔見るのはウチは御免だからね! ―


 ごもっともです。 何かある度に気にかけてくれる藍には頭が上がらない。


 ― まぁ、荒療治だったけど紫苑の事名前で呼べるようになったのは大した進歩だよ ―


 「そういやお前、俺が公園に行かなかったらどうしてたんだよ? 」


 ― アンタなら絶対来るだろうと思ってたからね、そんな心配はしてなかった ―


 「…… なんでわかる? 」


 ― んー…… 長年の付き合い? 女の勘? そんなところ ―


 長年って、まだ出会って一年半だろうに。 でも俺も藍が紫苑を引き留めていると決めつけて行動したんだっけ。 人の事は言えないな……


 「お前はどうなんだよ? 」


 ― 何が? ―


 「気になるとか、好きな男はいないのかってことだよ 」


 どうでもいいとは思っていないけど、紫苑と話をしてて気になっていたことだ。


 ― アンタがそれ…… じゃなかった、別にウチはしばらく弓道が恋人だし。 人の心配するより自分の心配しなさい! じゃあね ―


 言いたい事だけ言ってあっという間に通話を切られてしまった。 まあアイツがそう言うのならいいんだけど……


 「お兄ちゃん、スパリゾートって今度の日曜だったっけ? 」


 藍と電話が終わった頃合いを見計らっていたのか、菜のはが水着を持って俺の部屋に入ってきた。 星院祭の景品のスパリゾートは一泊二日。 菜のはを一人で留守番させるのが不安で、親父に連絡を入れたところ、親父の部隊は今インド洋沖に出ていて戻れないと言う。 そこで俺は実費で一部屋を予約し、菜のはも一緒にスパリゾートに連れて行くことにしたのだ。


 「今から気合入れてると当日バテるぞ? 」


 「いいじゃん! 藍さんどんな水着なのかな? 私の水着子供くさくないかな? どんなトコなんだろ!? 美味しいものあるかなぁ? 」


 悪いけどお兄ちゃんは一度に二つくらいしか考えられないぞ。 そのうち一つは紫苑の水着姿で頭がいっぱいだ。


 「うーん…… アイツはスポーティだからな、ハイネックなんか似合うんじゃないか? 」


 と答えながらも、俺の頭は三角ビキニを着けた紫苑を妄想していた。





 休み明け、早速廊下で赤西と顔を合わせた。 『撃沈したよ』と笑う赤西に、そっかと結果を知らないフリをして答える。 意外にさっぱりした顔をしていた赤西に、お疲れさんという意味を込めて拳を突き出してみる。 赤西もその意味が分かったようで、少し強めに拳をぶつけてきた。


 「冗談はやめろよ。 たった一回フラれただけで諦めてたまるかよ 」


 「たくましいな。 諦めてくれないと俺が困るんだけどな 」


 『困れよ』と赤西は笑って教室に入っていく。 俺も続いて教室に入ると、皆はもう週末の話題で持ちきりだった。


 「おはよう、燈馬君 」


 教室に入ってすぐの席の紫苑が挨拶をしてくれる。


 「おはよ、紫苑 」


 あはあぁぁ…… 朝の幸せな瞬間。 いつまでもこの気分に浸っていたい……


 「早く入んなさいよ、邪魔! 」


 尻に強烈な一撃を食らって前のめりにつんのめる。


 「なにすんだよ藍! って、おい! 」


 蹴りを入れてきたのは藍だけではなく保木も一緒だった。 なんでお前まで蹴りを入れてくるんだよ! と睨んでやる。


 「アンタが凄んでも別に怖くはないのよね。 いつまでも紫苑ちゃんに見惚れてるから悪いのよ! 」


 うわバカ! 本人目の前にしてそんな事言うなよ!


 「そ、そんなことないぞぅ! 」


 緊張して変な言い回しになってしまった。 二人は腹を抱えて笑い、紫苑は苦笑いになっていた。 今はこの関係がちょうどいいのかもしれない……


 「ねぇ紫苑ちゃん、金曜の放課後に買い物行かない? 」


 唐突に保木が紫苑に話題を振っていた。 俺には関係のない話だと思って自分の席に着くが、青葉の相手をしながらしっかりと聞き耳を立てる。


 「せっかくだから水着新調しようって紅葉がしつこいのよ。 付き合わない? 」


 「うーん、去年買ったワンピースがあるけど…… 今時期水着なんて置いてるのかな? 」


 「下調べちゃんとしてあるから大丈夫! そこは競泳水着も置いてる所だから年中置いてるみたいだよ! 」


 やっぱり女子はそういうことを気にするもんなんだな。


 「めんどくさがってるけど、藍こそ新調しなきゃならないんじゃない? 今のスク水、少しキツイって言ってたじゃない 」


 んん?


 「アンタこそこの前の体育、胸が苦しそうだったじゃん。 最近また大きくなったんじゃないの? 」


 んんん!? なんですと!?


 「二人ともいいなぁ…… あたしなんか身長伸びたから買い替えだっていうのに! 」


 「そんなことないじゃん。 紅葉だって最近お尻も胸も大きくなったよ? 身長伸びても変わらない体型ってそういう事じゃない? 」


 なるほど、そういう見方もあるのか。 皆成長期なりの悩みがあるんだなぁ……


 「妄想はいっぱいできた? と・う・ま! 」


 「うわああぁ! 」


 気付けば藍が俺の耳元で囁いていた。 俺の大声にクラス中がシーンと静まり返ったが、一つ咳ばらいをするとすぐに騒がしくなる。


 「ということでアンタも付き合いなさいね、燈馬 」


 「は? なんで俺まで…… 」


 「妄想全開だったの、紫苑にバラすよ? 」


 くうううぅ! キスしそうな勢いで藍を睨んでやったが、藍は『荷物持ち確保ー!』と平然とニコッとするだけだった。 






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