31話 考えてみることだな
俺にとってトラブルだらけだった星院祭は、午後4時をもって大盛況のまま閉会した。 我が2年A組の<メイドのまかないオムライス>は総合順位3位という結果に終わり、商品はスパリゾート<リラ・シャングリラ>の招待券だった。 因みに一位と二位は同列で3年生の二クラスが受賞し、地方の有名温泉旅館に2泊3日の旅だ。 ウチの高校には修学旅行がないから、三年生にはちょうどいい息抜きなのかもしれない。 というか、二ノ宮会長が温泉でゆっくりしたかっただけなのかもしれない。 最下位だった1年B組でも遊園地の一日乗り放題券というもので、生徒全員は損をしない配慮がなされていた。
「お疲れー! 」
模擬店の片付けが一通り終わった教室で、俺達は<メイドのまかないオムライス>の成功と、模擬店対抗バトル3位になった祝賀会を兼ねて打ち上げパーティーをした。 菜のはは友達と先に帰り、楓もいつの間にか母親と帰ったらしい。
「いやー、貝塚には笑わせてもらったわ 」
「あのモナ・リザはないよねぇ 」
みんなはやはり模擬店対抗バトルを中継で見ていたらしい。
「でもうちらも頑張ったよね。 売り上げで1位だよ、1位 」
ホテル・ヨネクラの名前と、飲食店というジャンルの後押しもあって、売り上げはノルマを遥かに越える112パーセントを記録した。 おかげで厨房スタッフもホールスタッフも常にフル稼働し、閉会のアナウンスが流れた時にはみんな背中を合わせて座り込むほどだった。
「スパ楽しみだなぁ 」
「あそこのスパリゾートって高いらしいよ? 会員制で中学生以下はお断りなんだって 」
今回1学級丸ごと招待できたのは二ノ宮会長だからなんだろう。 いや、もしかしたら吹石副会長の力なのかも。
「それにしてもよ燈馬、あの車椅子の女子は誰なんだよ? 」
青葉が痛いところを突いてきた。 その話題には触れて欲しくなかったなぁ……
「鳥栖だよ。 た、たまたま知り合いが来てただけ 」
そう言って誤魔化して目の前のピザを頬張る。 思わず向かいに座っていた佐伯と藍を見ると、二人とも黙々とオードブルをつまんで我関せずの姿勢を貫いていた。 なんか気まずくて声を掛けづらい……
「「おおぉ!! 」」
突然起きた歓声に振り返ると、対抗バトルに一緒に出た遠藤に厨房スタッフの伊藤雪乃が好きだと今告白したらしい。 話を聞いていると前々から気になっていて、対抗バトルで活躍した姿が良かったらしい。
「おめでとう雪乃ちゃん! 」
佐伯は伊藤に駆け寄って抱きしめ、遠藤には大事にしてねとくぎを刺す。
「貝塚君、生徒会長にもらったアレ、お祝いに渡しちゃっていいかな? 」
「ん? あぁ…… そうだな 」
俺は二ノ宮会長にもらったレストランのチケットの封筒を佐伯に渡す。 佐伯に告白するきっかけにと考えていたけど、佐伯が二人にプレゼントしたいのならそれでいい。
「貰いもので申し訳ないんだけど、レストランのチケットなんだ。 二人で楽しんできて 」
何かの贈呈式みたいに盛大な拍手が起こる。 二人とも真っ赤な顔をしながらチケットを受け取り、誰かが言い出したキスコールに、本当にキスまでして見せた。 結婚式か?
「んで? あの女はなんで星院祭に来てたわけ? アンタ知ってたの? 」
佐伯が隣からいなくなった隙を見て、藍がウインナーにフォークを突き刺しながらボソッと言う。 露骨に表には出していなかったけど、藍が不機嫌な理由は楓の存在だった。
「俺だって直前に気付いたんだ。 二ノ宮会長が呼んだらしいぞ 」
「ふーん…… 可愛い子だね、初めて見たけど 」
「なんでそんなに不機嫌なんだよ? 」
「別に。 二ノ宮先輩の仕業なんだから仕方ないけどさ、パンツガン見ってどうなのさ 」
「ガン見してねーよ。 アイツが無防備に俺の前を浮遊してたのが悪い 」
どうだか、と藍は俺と目線を合わさずウインナーをパクリ。 どうやら怒っている理由はそれだけじゃなさそうだけど、俺にはそれ以上分からなかった。
「せっかくの二人きりになるチケット、あんな簡単に渡しちゃってよかったの? 」
「いいさ。 今回は俺の為に使う物じゃなかったってことだよ 」
「そういうところは男らしいというか、アンタらしいというか 」
相変わらず目線は合わせてはくれないけど、なんとなく藍の機嫌が少し直ったような気がする。 そういえばさっきから赤西の姿が見えない。 佐伯に告白する準備でもしてるんだろうか…… いや、余計な詮索はやめておこう。
「すまないな貝塚、これはお前と佐伯が…… 」
打ち上げパーティーが終わった帰り道、少し帰り道が一緒だった遠藤と肩を並べて歩く。
「気にするなって。 それよりも伊藤の事、大事にしてやれよ? 」
「それはもちろんだが…… お前は誰を選ぶんだ? 」
「え? 」
誰…… と言われても、俺には選択肢などなく佐伯紫苑一択なんだけどな。
「え? ではない。 佐伯なのか、楠木なのか、今日のあの女子高生なのか、僕には全く分からない 」
「貝塚君は紫苑ちゃん一択だもんね? 」
遠藤の横を歩く伊藤にはバレてるらしい。 苦笑いで返すと、伊藤にも苦笑いで返された。
「でも紫苑ちゃんには悪いけど、私には藍ちゃんがお似合いだと思ってるんだけどな。 んで今日の伏兵でしょ? どうなの? 」
「どうなのって…… 楓は伏兵どころか候補にすらなってないけど 」
「えぇ!? じゃあ、あの仲の良さは訳アリな関係? 」
訳アリといえば訳アリだけど、まさか幽体離脱した楓に憑きまとわれてましたとは言えない。
「もしかして愛人? セフ…… 」
「アホかー! 」
彼女もいないのに愛人とか! それに女の子がそんなこと言っちゃいけません!
「ま、まあなんにせよその女子高生の線は消えたわけだ。 なら貝塚、佐伯と楠木には中途半端にせず正面からぶつかってやって欲しい 」
だからどうして藍がそこに出てくるんだ? もしかして気付いてないのは俺だけなのか?
「なあ、藍って俺の事…… 」
「考えてみることだな。 お前が鈍感変態男にならないよう祈ってるよ 」
ちょうど交差点で遠藤達と別れる。 結局あれから赤西を見つけることは出来なかった。 いつの間にか佐伯の姿も見なかったから、多分告白するのに連れ出したんじゃないかと思う。 藍には先に帰ると連絡がったらしいけど、詳細まで聞くわけにはいかない。
「告白、できなかったな…… 」
出遅れたと見るべきか、今はまだ期ではないと見るべきか。 俺はおもむろに星の見えない空を見上げ、考えるのをやめた。 赤西の告白の結果がどうであれ、俺は俺の気持ちを佐伯に伝えるだけだ。
「名前、練習しとこ…… 」
重苦しい空気を振り払うように、俺は両手を大きく振りながら菜のはが待っているであろう家路を急いだ。




