28話 星院祭、間もなく開催
起きて お兄ちゃん
「んー…… もうちょっと…… 」
起きてってば!
ぐえっ! 腹部に強烈な痛みを感じて目を覚ます。 薄めを開けると、菜のはが俺の腹に馬乗りになって眉を寄せていた。 やべっ! 寝坊したかと思って時計を見ると5時半を少し回った頃。 いつもイベント事の菜のはさんの朝はとても早い。
「起きた? 起きたよね? 起きないと間に合わなくなっちゃうよ? 」
お兄ちゃん、昨日寝たの夜中の2時半よ? もうちょっとだけ寝かせてください…… とタオルケットを被り直す。
「もう…… おーきーてー! 」
こらこら! 腹の上でポンポン飛び跳ねるんじゃない! 学校祭が楽しみで寝てられませんオーラ全開の菜のはを、無理矢理タオルケットの中に引きずり込む。
「あったかーい…… ってダメだよお兄ちゃん! 私まで寝ちゃうから! 」
「ふっふっふっ。 魔人スイマーがお前を呼んでいるのだ、観念しろ 」
「ネーミングダサいよお兄ちゃん。 ナイトメアメリーさんの方が可愛いじゃない 」
「可愛かったら魔人じゃなくなるだろ 」
そんな話で笑い合いながら結局ベッドから引き摺り出されてしまった。
「ご褒美に一緒にお風呂入る? 入っちゃう? 」
「いいから先に行ってこい! 」
機嫌がいい時に出るセリフを華麗にスルーして朝シャワーに送り出す。 朝のお兄ちゃんは色々とマズいのだよ妹よ……
少し早めの朝食を摂って、7時を過ぎた頃に俺達は家を出た。 三和中学校の前では、待ち合わせをしたという菜のはの友達二人が合流し、中学校を過ぎた辺りでタイミングを図ったように青葉が追い付いてきた。
「えー! そうなんですかー? 」
「そうそう、コイツ高校でもシスコン全開なんだよ 」
青葉は菜のはの友達相手にこれでもかというくらい俺をディスってくれている。 青葉…… シスコンと言う度に菜のはのお前への好感度は下がって行くんだぞ?
「でも菜のはちゃんはうらやましいですよー? ウチの兄貴なんか蹴り入れてくるしサイテー! 」
「えー? 私妹いるけどウザいよ? 」
ウザイとかサイテーとか言われないだけ俺は恵まれてるんだろな…… 気をつけよう。 と、俺達の横に黒塗りの高級車が横付けされた。 後部席のガラスが下がって二ノ宮会長が顔を出す。
「おはようございます、会長。 どうしたんですか? 」
「おはよう、燈馬。 君にプレゼントがあるんだが、受け取ってもらえるかい? 」
プレゼント? 何か嫌な予感はするんだけど、受け取らない訳にはいかない。 お礼を言って受け取ると、また後でと会長は先に行ってしまう。 包みを開けてみると、切り刻まれた衣装と似たようなタキシードだった。
「どうしたのお兄ちゃん、衣装忘れてたの? 」
「あ…… う、うん、そうなんだよ! 」
ホールスタッフだと知っている菜のはには、衣装が切り刻まれた事は言っていない。 裏方に変更になったんだと誤魔化し、菜のはと星院祭を堪能しようと思っていたけれど、そうはさせてくれないらしい。
「お兄さん! 今の人誰ですか!? 」
振り返ると目をキラキラさせた菜のはの友達。
「ウチの学校の生徒会長だけど 」
「「カッコいい!! 」」
ああ…… 親衛隊予備軍ですよ会長。 というか、この子達が入学しても会長は卒業してるか。
「おはよ燈…… わぁ! 菜のはちゃん! 」
「おはようございます! 藍さん可愛い! 」
教室に入ると、挨拶もそこそこに菜のはは藍に飛び付いていった。 開催一時間前だというのにほぼ全員が集まっていて、既に開店出来そうなくらいに準備が済んでしまっている。 気合い入りまくりだな……
「おはよう貝塚君 」
「お…… おはよう佐伯 」
真っ白なコックコート姿の佐伯に思わず見とれて片言になってしまった。 ワンポイントでコックタイが男は青で女が赤というお洒落な仕様だ。
「来て早々申し訳ないんだけど、味見してくれる? 」
両手には俺が教えたふわとろオムライスが出来上がっていた。 見た目少しとろとろ具合が足りない気もするけど、これくらいなら及第点だろう。
「菜のは、食べてみるか? 」
「あれ? これお兄ちゃんのオムライス? 」
佐伯は菜のはの前にオムライスを差し出して真剣な顔をしている。
「佐伯紫苑です。 試食、お願い出来ますか? 」
菜のはは俺の顔を一度見てから、佐伯に向き直って笑顔を見せる。 一口食べて目を見開き、美味しいと答えると佐伯もホッと胸を撫で下ろしていた。 菜のはからスプーンを奪い取って俺も一口。
「うん、いいね! 卵をまとめる時の火から下げるタイミングをもうちょっと早くしたらいいかも 」
「はい師匠! 」
師匠って…… 佐伯は俺に背を向けて小さくガッツポーズをし、厨房に下がっていく。
「藍、ちょっと菜のは達を頼めるか? 俺も着替えてくるよ 」
会長からもらった袋を藍に見せると、藍はぱぁっと笑顔になった。
「みどり先輩間に合ったんだね! 」
「んあ? どういうことだ? 」
「昨日、燈馬のタキシードなんとかならないか相談したのよ。 良かったぁ 」
そっか、藍が頼んでおいてくれたのか。 ありがとうとお礼を言って更衣室に向かう。 途中、親衛隊らしき女子生徒とすれ違った時には、目を合わさず頭を軽く下げていた。 もう盗難事件の事は周知されてるんだな……
「って…… これはやり過ぎだろ 」
吹石副会長が用意してくれたという衣装は、ゴリゴリの本格的なモーニング服だった。 ベストとスラックスだけでなく、しっとりとした黒の上着とウィングカラーシャツ付き。 サイズは測ったようにピッタリだけど、こんな高そうなの汚せないじゃないか!
「あれ? 」
これは着ていられないと着替えようとしたら、俺の制服が見当たらない。 代わりに一枚のメモが置いてあって、『学園祭終了後にお返しします』と書かれていた。 おいおい、そこまで計算ずくなのかよ!
仕方なく執事服のまま教室に戻ると、全員に唖然とされた後に大爆笑される。
「いいじゃん! 似合うよ燈馬 」
「お兄ちゃん気合い入れすぎ! 」
ですよねー。 ご丁寧に白手までポケットに入ってますよ。
ガラーン
大きな金属音にビックリして振り向くと、佐伯がこっちを向いて固まっていた。 フライパンを落としたらしい…… けど、そんな固まるほど似合ってないのか!? その微妙な顔はやめてくれぇ!




