25話 提案と宣戦布告
俺達が作ったオムライスは見事生徒会役員をうならせて、お代としてレストランのチケットをお代として貰った。 味付けはホテル・ヨネクラ直伝なのだから美味しいのは当たり前。 だけど生徒会の二人をうならせたのは、チキンライスにマッチしたふわとろ卵だったらしい。 それを聞いた佐伯は厨房の影に隠れて真っ赤な顔で喜んでいた。
「会長、ひとつ聞きたいんですけど 」
なんだい? と食後のコーヒーを楽しんでいた二ノ宮会長と吹石副会長は、俺を笑顔で見つめる。
「星院祭の豪華賞品なんて、いつから始まったんですか? 」
「僕が入学する前からあったよ。 なんだか気に入らないって顔をしてるね 」
「はい。 別にそんなものがなくても星院祭は楽しいんじゃないかと思うんです 」
「そうだねぇ…… 僕もそう思うよ。 優劣をつけてしまうとどうしても争いが生まれる。 君のタキシードが紛失したのもそのせいだろうからね 」
「うぇ!? 知ってたんですか? 」
もちろんさ、と会長はコーヒーカップをあおる。 クラスの誰かが通報したのか、会長の耳に入っているとは思わなかった。
「苦肉の策だったそうだよ。 超進学校である我が校は、他校に比べてイベントが少ないのは知ってるね? 今では唯一のイベントとも言える星院祭も、昔は開催してるのか分からないくらい廃れていたらしい。 生徒は勉強一筋だったそうだ 」
「…… マジですか 」
「高校生活の思い出も大事だと考えた、当時校長を務めていた徳丸理事長は、生徒の参加を促す為に星院祭に模擬店対抗イベントを組み入れ、優秀模擬店には温泉旅行を招待したんだ。 最初の数年は派手に叩かれたらしいけどね、何年もかけてなんとか定着したんだそうだよ 」
学校祭そっちのけで勉強とか、それはちょっと気が狂いそうになるな。
「豪華賞品なんてやめてしまえ! という君の意見も分からなくはないが…… 」
何も言ってないのに。 ホントこの人は怖いくらい心を読んでくる。
「理事長の信念があるかぎり難しいだろうね。 不正の愚かさも学んで欲しいという一面もあるようだ 」
「でも取り締まり自体が難しいんじゃないですか? 現にウチのクラスはもう被害に遭ってる 」
「それは私以下風紀委員会が全力で犯人を捕まえるわ 」
ニコッと笑う吹石副会長だったが、笑顔にそぐわない異様なプレッシャーを感じる。 怒らせたら怖いのは二ノ宮会長よりこの人かもしれない。
「いや、そんな大事にすることもないんじゃないかと…… 」
「ダメよ。 不正は不正、今回の事件は窃盗なの。 風紀委員会がナメられたんだもの、私がナメられたのも同然だわ 」
怖っ! 風紀委員会の統括は副会長らしい。 被害に遭った俺らだけの問題じゃないと知って、何も言えなくなってしまった。
「おはよー…… って、生徒会長!? 」
タイミングよく教室に入ってきたのは阿笠だった。 二ノ宮会長を見るなり、走り寄ってきて頭を下げて挨拶をする。
「ウチの貝塚が何かやらかしたんですか!? 」
「朝食を頂いていただけだよ。 オムライスはこの模擬店の看板メニューかい? 素晴らしいね 」
佐伯が作ったんだと阿笠に補足してやると、阿笠は唖然としながらも会長と話を合わせていた。 阿笠越しにウインクしてくる二ノ宮会長は、どうやら盗難事件を内密にしておきたいという事なんだろう。阿笠に続いて教室に入ってきたクラスメイト達も、皆阿笠と同じようなリアクションで挨拶をし、佐伯と顔を見合せた笑ってしまった。
「それじゃあ僕達は失礼するよ。 そうそう、スープはもう少し濃い目でいいと思うよ 」
そう言い残して、二ノ宮会長達は爽やかな笑顔を残して教室を出ていった。
「貝塚ぁ! 説明しろぉ! 」
阿笠はまたまた俺の胸ぐらを掴んでユサユサする。 会長と話をして興奮しているのか、いつもより揺さぶりが激しい。
「説明するも何も、朝飯食べに来ただけだって今お前が会長と話してただろうが! 」
「そうじゃない! どうしてお前と紫苑さんが二人で厨房に立ってたんだ!? 」
そっちかよ! 紫苑さんってお前がサラッと言うな! お前は藍だけ心配してろよ!
「佐伯が努力してるから少し手伝っただけだよ! あ…… お前に相談があるんだった 」
「相談? なんのだ? 」
俺はとりあえず阿笠の手を振りほどき、徐々に集まってくるクラスメイトを交えて佐伯のふわとろ卵の事を話した。 綺麗に包むホテル・ヨネクラのオムライスに対して、俺が佐伯に教えたのは被せるだけのなんちゃってオムライス。 模擬店としての商品はこれでもいいのかという相談だ。 作り手によって味が変わってしまってはマズいだろう。
「ヨネクラ直伝とふわとろと、二つのオムライスを出せば問題ないだろ 」
そう言ったのは赤西だった。 試食で残っていた俺のオムライスを一口食べて、これはイケると思ったらしい。
「焼きスタッフ足りるのか? 」
「何とかするさ。 せっかく紫苑が笑顔になったんだ、無駄にしたくないからな 」
ん!? どういう意味だそれ!
「なんか引っかかる言い方だな 」
「お前には負けられないってことだよ 」
「ってちょっと待て! 」
赤西の腕を引っ張って教室の隅に連れていく。
「まさかお前、佐伯の事好きなのか? 」
「ああ。 星院祭が終わったら告白するつもりでいる 」
うわ! マジかよ……
「へ…… へぇー…… まままぁ、頑張れよ 」
「お前もいい加減、紫苑に気持ちを伝えたらどうなんだよ。 好きなんだろ? 」
赤西の目は真剣そのもので、誤魔化しなんか恐らく通用しない。
「…… なんでわかったんだよ? 」
見てればすぐわかる、と呆れた顔で赤西はため息をついた。 俺はお前が佐伯に惚れてる事全然気付かなかったよ……
「なんでわざわざ教えてくれるんだ? 」
「後で恨まれても嫌だからな 」
赤西にとって俺はライバルだったらしい。 というか、佐伯を名前で呼んでいる時点で俺は負けているっぽい。 男らしい宣戦布告に、俺と赤西は揃って佐伯を見る。 仲間に囲まれて揉みくちゃにされている佐伯は、俺達の視線には気付いていないようだった。
「なーにこそこそ話してんのよ? 男らしくない 」
いつの間にか登校してきていた藍が俺達を見下ろしていた。 じゃあなと赤西は慌てて厨房に入っていき、俺は藍に詰め寄られる。
「そう言えば、二ノ宮会長がウチのクラスの盗難事件の事知ってたんだ。 誰か通報したのか? 」
わざと別の話題を振って藍の気を逸らす。 赤西が俺をライバルと言った以上、藍に言いふらすのは卑怯なんじゃないかと思ったからだ。 知らないよと答える藍の返事は予想済み。 だよな、と俺は答えて首を傾げて見せた。
「…… よし 」
星院祭が終わったら告白しよう…… もう一度佐伯の横顔を見て決意を固める。 とはいえ、赤西の方が佐伯と距離が近いし、俺に分があるとも思えない。 だけど言わなきゃ伝わらない…… 精一杯の想いを伝えて、ダメでもきっと後悔はしないだろう。 そんな事を考えながら、俺はホールスタッフの打ち合わせに混じっていった。




