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22話 迷推理

 翌日、俺は佐伯に階段下に呼ばれて尋問されていた。 階段下という微妙な所だったけど、二人で話す雰囲気に俺の心臓はバクバクいっている。


 「藍はどうだった? カッコ良かったでしょ? ウチの学校も弓道部があって高体連に加盟してたなら絶対エースだよね! 」


 「あぁ…… でも藍は高校弓道の雰囲気が苦手らしいっていってたぞ? 」


 「そうなのよね…… 実力あるのにもったいないよね 」


 佐伯は藍の実力がもっと表に出てもいいと思っているらしい。 確かに俺もそうは思うけど、スポーツ志向の弓道を藍は好まないと思う。


 「それで、いい雰囲気になれた? 頑張れって言ってあげた? 」


 佐伯に苦笑いを返していると、情けないなぁとため息をつかれてしまった。 藍から話をしたんじゃないのか? なんだか佐伯は俺と藍をくっつけるのに気合が入っているように見える。


 「あ…… あのな佐伯、別に俺は藍の事なんとも思ってないから 」


 「そういうのはね、自分じゃ気が付かないものなのだよ貝塚君 」


 チッチッと立てた人差し指を揺らして佐伯は俺を睨め付けた。


 「私が見る限り、二人はとてもお似合いなの。 息もピッタリだし、阿吽の呼吸だし、他人が入る隙間もないのだよ 」


 名推理ならぬ迷推理…… 


 「いつも藍と話をしてる時は顔が赤いくせに 」


 それはお前がいつも側にいるからだよ…… とは言えず。 でもここでしっかり誤解を解いておかないとヤバいような気がする。 フラれてもいい! 今ハッキリ伝えよう!


 「聞いてくれ佐伯! …… いやし…… ししし…… 」


 「いやし? 癒し? 」


 うおーっっ! 面と向かって言うのはハードル高ぇよ!


 「あー! ここにいたのアンタ達! 一限目体育だよ? 」


 「うわはあぁ!! 」


 突然後ろから藍に話しかけられて奇声を発してしまった。


 「忘れてた! 私着替えてくるね! 」


 佐伯はじゃあねと階段を駆け上がっていく。 あぁ…… なんてこったい……


 「どうしたのさ? げんなりして 」


 「いや…… 佐伯お嬢様はボクとアナタをくっつけようと必死なご様子ですよ…… 」


 「はぁ? ウチはハッキリと男として興味ないって言ったよ? 」


 それはそれでグサッと刺さるような気がするのは気のせいだろうか。


 「自分で気付いてないだけって仰ってられましたよ…… 」


 「…… そうなの? アンタ、ウチの事好き? 」


 上目遣いで聞いてくる藍の顔が少し赤い。


 「好き 」


 ピクッと一瞬反応して、藍は深いため息を吐いた。


 「はいはい、友達として最高だとか思ってるんでしょ。 それはそれで嬉しいけど 」


 「お、お前はどうなんだよ? 」


 「好きだよ 」


 体がピクッと反応して顔が焼けるように熱くなる。 マジかよ…… 目が少し潤んでいる藍がメチャメチャ可愛く見えるぞ。


 「オトモダチ(・・・・・)として 」


 ニコッとした藍にパシっとデコピンされた。 なんだよ! メッチャドキドキしたじゃねぇか!


 とここで一限目の予鈴が鳴った。 ヤベっ! 俺も着替えないと体育の授業に遅れてしまう! 焦って階段を駆け上がった時にふと気が付いた。


 「って、お前体育大丈夫なんかよ? 」


 「しばらくは見学だよ。 無理するなって言われたからね 」


 急いでよ、と藍は後ろ手で体育館の方へ歩いていく。 ぞろぞろと階段を降りていくクラスメイトに笑われながら、俺は体操着に着替えに教室へ走った。




 「本当に君は保健室が好きね 」


 クスクス笑う柚月先生に頬を手当てしてもらいながら俺は苦笑いする。 体育の内容は4班に分かれてのドッジボールだったのだが、ボーっとしてて阿笠の剛速球を顔面で受けてしまったのだ。


 「ボールは顔で受ける物じゃないわよ? 今時小学生だってこんなベタなことしないわよ 」


 運動神経はない方だと自覚してるからまあいいけど。 尚も笑いが止まらない柚月先生にお礼を言って、足早に体育館に戻る。 これも藍があんな表情するから悪いんだよ…… 隣のコートで同じくドッジボールをしていた女子の中に、体育館の隅で見学していた藍を見つけてボーっとしていたからだった。 阿笠も藍が見てるからって気合が入っていたようだったけど、顔面狙いはないだろうよ……


 案の定、一限目が終わって更衣室から戻ってきた藍に大笑いされた。 佐伯も心配はしてくれたけど、未だ俺の顔に残っているボールの縫い目に顔を背けて笑っている。


 「どんくさ! 運動神経ないのは知ってるけどやり過ぎ 」


 目の前の席に後ろ向きで座って爆笑している藍。 チラッと阿笠を見ると、物凄い形相で俺を睨んでいた。 藍にいいところを見せようとして、逆に悪者になってしまったのだから無理もない。 すまんな、俺もわざとじゃないんだ。


  きゃああ!


 突然教室がざわついて黄色い声が響いた。 俺達が揃ってドアを見ると、二ノ宮会長が何人かの生徒を従えてドアから覗き込んでいた。 今度はなんだ? と、警戒して恐る恐る見ていると、どうやら今日はクラス委員長に用があったらしい。 阿笠にプリントの山を手渡すと、『よろしく』とさわやかな笑顔で会話を終えて、教室を見渡し俺に微笑んだ。 苦笑いで二ノ宮会長に返すと、会長は遠慮なく俺に近付いてくる。


 「絵に書いたようなボールの痕だね。 そんなに誰かに恨まれているのかい? 」


 「おはようございます、会長。 まぁ…… そんなところです 」


 ハハハと会長は気持ち良く笑うと、藍に目線を移した。


 「楠木君にはひとつお願いがあるんだが、引き受けてくれるかな? 」


 「へ? ウチ…… じやなかった、私ですか? 」


 藍に? 俺に用事じゃなかったことにホッとしたのは自意識過剰だろうか。


 「足の怪我が治ったら、みどりに射法八節の手本を見せてあげてくれないかな? 君さえ良ければなんだが 」


 「ウチがみどり先輩にですか!? 」


 「みどりが昨日の審査を見てとても感動していてね。 本人は迷惑になるからと自重しているんだが…… 彼女の為になればと思ってね 」


 「凄いじゃない藍! 」


 目を丸くする藍に、佐伯も自分の事のように喜んでいる。


 「喜んで! なんか恐れ多いですけど! 」


 「良かった。 みどりも喜ぶよ 」


 それじゃあと笑顔で軽く手を挙げると、再び黄色い悲鳴が教室中を包む。 半端なアイドルより人気があるなこの人は…… と思いながらその背中を見送ると、会長が教室を出ていった途端に阿笠がプリントを撒き散らして俺に食って掛かってきた。


 「藍さんが怪我をしたってどういうことだ!? 貝塚ぁ! 」


 「本人が真横にいるんだから直接聞けよ! 」


 藍の事になるとコイツはホントめんどくさい。 いつものようにユサユサと揺すられながら、二時限目の予鈴を聞くのだった。


 



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