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2話 赤と紫と藍

 登校の準備を済ませ、俺と菜のはは一緒に家を出た。 俺の通う星院東高校は直線距離で2キロメートルで、通学途中に菜のはの通う三和中学校がある。 毎朝俺は菜のはを中学校の校門前まで送り、帰りは用事がない限り三和中学校に迎えに来て一緒に帰宅するという毎日だ。


 「どうしたの? お兄ちゃん 」


 「いや、なんでもない 」


 俺達の後ろには例の女子高生の幽霊がつかず離れずの距離でついてきていた。 名前を(かえで)と言うらしく、名字は『別にいいじゃない』と伏せられた。 菜のはには幸いこの幽霊女子高生が見えていないらしい。 訳あって、菜のはに幽霊話はNGなのだ。 後ろに幽霊がいるよなどと言うととんでもないことになるのは目に見えていたので黙っておく。


 「じゃあな。 帰りは迎えに来るから 」


 うん、と手を振って校門へ走っていく菜のはを、俺も手を上げて笑顔で見送り、友達二人と合流するのを見届けて中学校を後にした。


 「シスコン 」


 「なんとでも言え 」


 冷たい目線でボソッと呟く楓に、周りに聞こえない小声で言い返す。 シスコンは自他共に認めてるし、過保護と言われても仕方のないくらい俺は菜のはが好きだ。 いや、妹としてであって、決して恋愛対象ではない。


 「でも羨ましいな。 あたしは一人っ子だから 」


 「聞いてねぇよ 」


 楓を横目でチラッと見ると、腕を組んでムスッと膨れていた。 ちょっと冷たいかもしれないけど、変に同情して幽霊になつかれてもこっちが困る。 用が済んだらさっさと成仏して欲しい。


 「それで? その先輩って誰なんだよ? 」


 彼女の目的は、想いを伝えられなかった先輩に会いたいというものだった。 一つ上の先輩で、二年前の中学校の卒業式に合わせて想いを打ち明ける筈だったが、その当日に運悪く交通事故に遇ってしまったのだという。 彼女が俺と同級生という事と、2年間も想いを抱えている気持ちが分からなくもなく、その先輩にこういう子がいましたよと告げるだけならと引き受けたのだ。 俺もこの超進学校の星院東高校に進学先を決めたのも、佐伯を追いかけたい一心だったからなぁ。


 「うん、二ノ宮 蒼仁(にのみや そうじん)先輩なんだけど。 元緑苑中学校なんだ 」


 「二ノ宮…… 」


 どこかで聞いたことある名前だ…… どこだっけ。 楓は格好いいとか頭がいいとか運動神経抜群とか言うけど、そんな少女漫画的美男子いるかよ! と突っ込みたくなる。


 「燈馬! 」


 不意に名前を呼ばれて振り返ると、同じクラスの親友高垣 青葉(たかがき あおば)が息を切らせながら駆け寄ってきた。


 「早ぇよお前! 菜のはちゃんに会い損ねたじゃねーか 」


 誰にでも愛想が良くてさっぱりした性格の良き友人だけど、菜のはに惚れているらしくてあまり近寄らせたくない。


 「菜のははやらねーぞ 」


 「そう嫌うなって。 そうそうお前、数学と英語の宿題終わらせてきた? 」


 「またかよ? 菜のはに近付かないって約束するんなら見せてやるよ 」


 「ウンウンもうちかづかナーイ 」


 絶対ウソだな…… それでもまぁ本当に手を出すような事はないので学校に着いたら見せてやることにする。 駅前を通り過ぎ、近道になる中道を抜けると、ちょうど高校の裏門に行き着く。 俺達のいつもの通学路だ。


 「あれ? 」


 いつもは裏門から学校敷地内に入り、校舎の横を抜けて正面玄関へと向かうが、今日は裏門が閉められたまま。


 「しまった…… 今日は正門で風紀チェックだったのか 」


 風紀チェックとは、一ヶ月に2回抜き打ちで風紀委員による服装と持ち物検査が正門で行われる。 正門以外からの登校は許可されず、登校時間内にチェックを済まさないと遅刻扱いにされてしまう。


 「燈馬、走ろう 」


 青葉は学校の敷地を囲むフェンス越しに先行して走り出した。


 「なになに、どうしたの? 遅刻? 」


 後ろから楓がハプニングを喜ぶように話しかけてきた。 楓には構わずに俺も青葉の後を追う。


 「ちょっと! 説明くらいしてくれてもいいじゃない! 」


 楓に構ってる余裕はなかった。 フェンス越しにぐるりと回っても、時間内に正門には入れるが、風紀チェックは時間がかかる上に並び順だ。 生徒数が約600人とはいえ、正門に生徒達が集中すれば遅刻する可能性がある。 風紀チェックを受けていたという言い逃れは許されず、問答無用で放課後に反省文を書かされる。 そんなことしてたら菜のはを迎えに行けないじゃないか!


 「うわ…… やっぱり 」


 正門前に回った時には既に長蛇の列だった。 これはヤバいかも…… 


 「青葉! 燈馬! こっちこっち! 」


 俺達の姿を見つけて列の中間辺りで手招きしている女子生徒が1人。 同じクラスの楠木 藍(くすのき あおい)と、その横には俺の憧れの佐伯 紫苑(さえき しおん)もいる。


 「ここ入ってよ! んでちょっと助けてくれない? 」


 少し男勝りなところもある楠木は、高校の合格発表の時に知り合ってから仲がいい。 佐伯と仲良くなるきっかけを作ってくれたのも楠木だった。


 「助けるって? どうしたんだよ 」


 「いやぁ、そろそろかなとは思ってたんだけど、今日が風紀チェックだと思わなくてさ…… スカート短いんだよね 」


 楠木はスカートの裾を押さえて苦笑いしていた。 短いんだよねと言われても俺にどうしろと?


 「メジャーで測られそうになったらさ、風紀委員の気を引いてくれない? その隙にスカートのチャック下げてなんとかする 」


 「そんな上手くいくんか? スカート下げてって、お前パンツ…… 」


 「バカね、ちゃんとインナー履いてるから見えないわよ 」


 楠木はケラケラと笑ってスカートをめくってみせる。 


 「ちょっと藍! 貝塚君もマジマジと見ないで! 」


 佐伯は慌てて楠木のスカートを押さえて真っ赤な顔で俺を睨んだ。 うーん、怒った顔も可愛い。


 「頼むよ、頼れる男子! 」


 「…… お、おう 」


 トン、と楠木に胸を叩かれ、俺は青葉と共に佐伯と楠木の前に並ばせてもらう。 佐伯の手前、勢い任せに返事をしたはいいけど…… どうしたものかな。 と考えている内に、風紀チェックは俺達の番になる。


 「バッグを開けて下さいね 」


 腕に風紀委員の証である腕章を付けた男子が俺の服装チェックを始めた。 俺自身は問題なく通過したが、隣で持ち物チェックされていた青葉が引っ掛かったみたいだ。 何を持ってきたんだか知らないけど、他の風紀委員の目も青葉に集まっている…… チャンスかもしれない。 俺は横で女子風紀委員にチェックされ始めた楠木の元に駆け寄った。


 「大丈夫か? 楠木 」


 「え? 」


 何事かと戸惑う楠木に裏膝をカックンして無理矢理座りこませる。 力なく崩れた楠木を大袈裟に支えて、驚く女子風紀委員に訴えてみた。


 「こいつ、朝から具合悪いんだ。 すぐ保健室に運びたいんだけど 」


 見たところ女子風紀委員は一年生らしく、少し強めに言うと慌てた様子でわかりましたとチェックを中断した。


 「燈…… きゃ! 」


 最もらしく見せる為に楠木をお姫様だっこして正面玄関口へと走る。


 「こ、ここまでやれとは言ってないよ! 恥ずかしいじゃん 」


 「いいから具合悪そうにしてろよ。 バレたら俺もヤバい 」


 ちょっと重いとは口が裂けても言えない…… 気合い入りすぎて思い切った事をしてみたが、佐伯の目にはどう映ったのだろう。


 「そう言えば、お前もきゃ! って言うんだな 」


 楠木の顔がみるみる赤くなっていく。 突然両手で両頬をつねられた。


 「ウチだって女だよ! きゃ! って言って何が悪いのさ! 」


 「いひゃいいひゃい! グメンなひゃい! 」


 とりあえず玄関に入ったところで楠木を降ろす。 上靴に履き替えて再び抱えようとすると、調子に乗るなと怒られた。


 「でもサンキュ! ホントになんとかしちゃうなんて…… やるじゃん 」


 少し保健室で寝てくると、楠木は一人笑顔で去っていく。 上手く逃れたかはわからないけど、俺も何事もなかったかのようにそのまま自分の教室へと向かうことにした。


 



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