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19話 諦めてたまるかよ

 翌日、いつものように菜のはを送り出し…… たつもりだったが、菜のはは中学校の校門に辿り着く間に何度も振り返って心配そうな顔をしていた。 菜のはを送り出した後に合流した青葉は俺の顔を見て絶句し、学校の裏門をくぐった所でいつも睨まれる二ノ宮親衛隊には目を逸らされた。


 「おはよう、燈馬! 」


 正面玄関に入ろうとした時、背中から少しくぐもった声で挨拶掛される。 この声は藍だ…… 無事登校出来たんだな。


 「おう、おはよ…… 」


 「どうしたのアンタ! 」


 俺を見てひきつるのがマスク越しでも分かる。 藍の後ろにいた佐伯も、口に手を当てて唖然としていた。 


 「いや、ちょっと寝れなくてさ…… 」


 顔を洗った時に鏡で見たんだけど、目の下に大きなくまが出来て頬がげっそりと痩けていた。 原因は藍の後ろで目をまん丸に見開いているお嬢様なんだけど。


 「まさかウチの風邪が移ったんじゃないよね!? 」


 「いや、大丈夫だから 」


 「何かあったの? 貝塚君 」


 藍の肩越しに佐伯までもが俺の心配をしてくる。 そんな切ない目で見ないでくれ…… 昨日のあの一言がまた頭の中に甦ってくる。


 「どしたよ? 菜のはちゃんとケンカでもしたのか? 」


 「菜のはとケンカなんかするかよ 」


 青葉と笑って話していると佐伯が何か閃いたようで、おもむろに藍の背中を押して俺の側に立たせた。


 「私、用事思い出しちゃったから先に行ってるね! 行こう、高垣君! 」


 佐伯は青葉の手を取って大急ぎで階段を駆け上って行く。 ああ…… そういうことか。 いいなぁ青葉…… 佐伯と手をつなげて。 今の俺には階段の窓から差し込む朝陽の中を駆け上がっていく二人がキラキラ輝いているように見えた。


 「ちょっと紫苑! …… って、なんなのよ、この『お二人でごゆっくりー』的な状況は 」


 「見た通りのままだよ。 佐伯さんは俺達を応援するそうだ 」


 説明するだけでもダメージを受けてしまいそうだ。


 「応援…… って。 バカね、どうしてそこでお前が好きなんだって告白しなかったのよ! 」


 「バスの中で告白なんてできるかよ! 満席だったし、そんな雰囲気もなかったし 」


 藍はハァ、と大きなため息を付いて力なく俺の肩に手を置いた。


 「ウチから告白しておいてあげようか? 」


 「バカ言うな。 他人に『好きみたいだよ、付き合ってあげて』なんて言われてハイそうですかと付き合うかよ? 」


 だよね、と藍は困った眉で笑った。


 「紫苑には私から言っておくわ。 燈馬は男として見てないから、いらないお節介はするなって 」


 それはそれで悲しく思うのはワガママだろうか? それでも佐伯の誤解が解けるのはありがたい話だ。 ちょっとだけウルっときてよろしく頼むと伝えると、情けない顔するなと怒られた。


 「まぁ…… 昨日のアレが原因なら、ウチにも責任あるしね。 とにかく教室行こうよ、予鈴が鳴っちゃう 」


 藍に言われて腕時計を見ると同時に予鈴がなった。 慌てて教室に向かうと、クラスメイト達が藍を中心に輪を作って激励し始めた。 俺はスッと引き下がって自分の机に座る。


 「なに泣いてんだよ阿笠 」


 教室の隅にいた阿笠は、輪の中心で笑う藍を見ながら目を潤ませていた。


 「藍さんが無事に登校したんだ! こんな嬉しい事、お前にはわからんのか! 」


 「わからんこともないけど泣くほどじゃないだろ。 ただの風邪って昨日説明しただろうが 」


 「藍さんがいないんじゃこの学校にいる意味がないんだ! 」


 阿笠はまた俺の胸ぐらを掴んでガクガク揺する。 俺に突っかかって来るのはお門違いだけど、自分に正直なこいつの言葉にハッと気付かされた。 俺も変わらないか…… 佐伯を追いかける為に必死で偏差値を上げて、中学三年の1年間死物狂いで勉強した。 佐伯が側にいなきゃこの学校に入った意味がないのかもしれない。


 「そういえば貝塚、そんなにやつれてどうした? 」


 「何でもねぇよ、ちょっと女神に奈落の底へ落とされただけだから 」


 そう答えて阿笠の腕を振りほどくと、ちょうど教室の反対側の佐伯と目が合った。 藍を助けないの? とジェスチャーで言ってきた佐伯に、ほっとけとジェスチャーで返す。


 そうだ、フラれた訳じゃないんだ。 天然で鈍感な女神様に一筋縄でいく筈がないんだ。 こんなことで諦めてたまるかよ!


 


 

 授業が終わり、藍のおかげで佐伯の誤解は解けた…… はず。 朝とは違う佐伯の態度にホッとしつつ、俺は星院祭のホールスタッフの打ち合わせに参加していた。 藍も打ち合わせに参加すると張り切っていたけど、一週間後に弓道の大会も控えているし、大事を取って帰れと無理矢理帰宅させた。 代わりに打ち合わせの内容を後でメールで送れと怒られたけど。


 そんなことで、藍が佐伯に何を言ったのかは聞くことが出来なかった。 あまり派手に罵ってくれるとリカバリーするのに苦労しそうだな…… なんて考えていたりして、打ち合わせの内容なんて耳に入ってこない。


 「ちょっと聞いてる? 貝塚! 」


 「うぇ? 」


 気が付くとホールスタッフ代表の保木 紅葉(やすき くれは)が俺の前で仁王立ちしていた。


 「げっそりして疲れてるのは分かるけど、ちゃんと聞いてなさいよ。 アンタでいいのよね? ていうか、もうアンタに決めちゃったんだけど 」


 「何が? 」


 やべぇ…… ホントに何も聞いてなかった。


 「何がって、星院祭当日のグラウンドでやる模擬店紹介のリーダーよ。 一番のアピールポイントだからビシッと決めてよね 」


 「うぇ! リーダー!? 」


 星院祭では毎年、模擬店バトルというものがある。 生徒会主催で行われるこのクラス対抗戦は、各模擬店からチームを選出してポイントを競い合いがてら、それぞれの模擬店の宣伝をするというものだ。 学校理事長を含めた教師が審査員となり、ポイント獲得によって順位を決められる。 優秀模擬店には順位ごとに賞品が与えられ、去年の最優秀模擬店は有名温泉旅館二泊三日の旅だったっけ。


 「B組には負けられないんだからしっかり頼むわよ? 」


 「ちょっ!? 俺はやるとは一言も…… 」


 「貝塚でいいわよね、皆! 」


 保木が皆に同意を求めると、まさかの満場一致。 フフンと勝ち誇ったように保木は俺に振り返る。 


 「まぁいいけど。 結果はあまり期待するなよ? 」


 「何言ってるのよ! やるからにはトップを狙いなさい! 」


 腰に手を当てて上から凄んでくる保木に、努力はするけどねと答えたところ今日の打ち合わせは終了となった。 去年はクイズ大会だったけど、今年は何をやらされるんだか……


 「頑張ってね。 皆もアンタに期待してるんだから 」


 「いや、皆はやりたくないから俺に押し付けたたけだろ 」


 今まで俺がクラスの皆から期待された事なんて一度もないし、俺は平凡の中でも下の方だ。


 「そんなことないって。 だってアンタ、生徒会長に壁ドンするくらいなんだから 」


 「やめてくれぇぇぇ! 」


 楓の一件が終わってせっかく忘れかけていたのに! 俺は逃げるように教室を飛び出してそのまま玄関へ向かう。 厨房班の打ち合わせはもう終わったんかな…… 佐伯の様子を見に行けば良かったと少し後悔しつつも、俺は振り返らずに家路を急いだ。


 

 


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