17話 違和感
いつものように菜のはを中学校に送り出し、また菜のはに会えなかったと悔しがる青葉をサラッと流して星院東高校の裏門をくぐる。 この時期は星院祭の打ち合わせなんかもある為、各企業の人の出入りも多い。 今年はホテルヨネクラが技術指導をすることもあって、俺達は早速玄関前で新聞記者に掴まった。
「おは…… 」
俺達がインタビューを受けている最中に佐伯が登校して俺に声をかけてくれたが、新聞記者の取材許可の腕章を見るや否や、駆け足で玄関に駆け込んでいった。 どうやらこの手の取材は苦手らしい。
「あ、ちょっと君…… 」
雰囲気で佐伯が二年Aクラスだと気付いた新聞記者は、校内にまで立ち入って佐伯に食い下がろうとする。 新聞記者といえど、嫌がる生徒に無理矢理取材していい筈がない! ちょっとヒーロー気分で新聞記者の前に立ちはだかった。
「君へのインタビューはこれで終わりです。 ご協力ありがとう 」
「いやいや、聞いて下さいよ! お皿の持ち方なんですけどね、やっぱりプロは…… 」
新聞記者は佐伯を目で追いながら苦笑いを浮かべる。 とりあえずもういいかな…… 肩を落として他の生徒に取材に行った新聞記者を鼻で笑い、俺も上靴に履き替えた。
「お前のそういうところ、ホントヤバいよな 」
青葉は俺が佐伯を新聞記者から逃がした事に気付いたみたいだが、ヤバいってなんだよ?
「なにが? 」
と、わざと聞いてみる。
「佐伯は妹じゃないぞ? 菜のはちゃんだけじゃ飽き足らず、佐伯までシスコンの餌食になるのか? 」
「そんなわけあるかよ! 佐伯は俺の…… 俺の…… 」
勇気がその先が言えない。
「俺の…… なんだよ? 」
そうだった、コイツは超が付く鈍感男だった。
「…… 友達だよ…… 」
好きな女だとはコイツには言えない。 言えば即佐伯に伝わるだろうし、いらないおせっかいまでしてくるに違いなかった。 やっぱり告白は自分の口でしたい…… が、面と向かって言えるか分からない自分のヘタレさに朝からへこむ。
「そうだな、俺達の友達だもんな。 いやいや悪かった悪かった! 」
バンバンと背中を叩いて、青葉は先に階段を上っていく。 悪い奴じゃないんだけど、もう少し空気を読んでくれてもいいんじゃね?
始業の予鈴が鳴り、いつもの学校生活が始まる…… 筈だったが、何かが足りない。 なんだ? この違和感…… 自分の席に着いて周りを見渡す。 他のクラスメイトが不思議な表情を浮かべて俺を見る中、その違和感に気付いた。
藍が学校に来ていない
風邪かな? とりあえず毎日一緒に登校している佐伯に聞こうと思った時、タイミング良く担任の教師が入ってきてホームルームが始まった。 なんだか居心地が悪くて、机の影にスマホを隠して藍にメールを打ってみる。 返信を待つ間にホームルームが終わり、一限目が始まる前に佐伯に話を聞いてみたが、いつもの待ち合わせの時間になっても藍は来なかったという。
「うん…… 電話にも出ないし、待ち合わせの時間になったら先に行くって決めてたから、私だけ登校したんだけど。 心配だな…… 」
「単に寝坊でもしたのかもよ? メールは送っておいたから返信を待つしかないな 」
『うん』と佐伯は弱気な笑顔で答え、席に戻ると一限目の数学の授業が始まる。 藍が学校を休むなんて珍しいことだ。 体力には自信があると自慢するだけあって風邪を引いたところを見たことはないし、武道のたしなみなのか寝坊だって聞いたことがない。 通学中に事故に遭ったとか? 普段休まない奴がいないとなんだか不安になってくる。
「朝さぁ、環状線でバスが事故ったらしいよ。 怪我人いっぱいいたんだって 」
二限目の授業が終わって、休憩時間にクラスメイトの女子が話していた会話が聞こえてきた。
「ちょちょ!! その話、マジ? 」
「うん、マジだよ。 横からトラックに突っ込まれたらしくてさ、バスが結構ぐっしゃり潰れてたらしいよ 」
ちょっと待て…… 環状線を走るバスはいつも藍が通学で使ってる路線だ。
「藍は? そのバスに藍は乗ってなかった? 」
「わかんないけど…… 貝塚君、楠木さんの事名前で呼ぶんだ。 まぁ普段から仲いいもんね 」
言われて気付いてちょっと恥ずかしかったが、そんなことは今はどうでもいい。 佐伯にも聞こえたようで、俺と目を合わせるなりすぐに駆け寄ってきた。
「藍が事故に遭ったって!? 」
「いや、そうは言ってないんだけど 」
佐伯がクラスメイトの女子に叫んだことでクラス中がパニックになった。 その中でも発狂したのが阿笠だ。 顔面蒼白になって膝から崩れ落ち、この世の終わりな様な表情で俺を見た後、真っ赤になって怒って俺の襟首を絞め上げる。
「ああああ藍さんが! 藍さんが事故ったってどういうことだ! 無事なのか? 無事なんだよな!? そうだよな! 」
「ちょっ! ぐるじい…… 」
「貝塚! いや燈馬! 言ってくれ…… 藍さんは無事だと言ってくれー! 」
なんで俺に聞くんだよ! ユサユサと前後に揺すぶられて意識が飛びそうになる中、佐伯までが目を潤ませて俺を見ていた。 佐伯どころか他のクラスメイトまで真剣な眼差しで俺を見据え、藍と仲のいい女子は必死にメールを打ったりスマホを耳に構えたりしている。
良かったな、藍。 お前は皆に愛されてるぞ…… 俺はもう…… 意識が……
とその時、担任の佐藤先生が入ってくるのと同時に俺のスマホのメール着信音が鳴った。
「何を騒いでいるんだ? お前達 」
クラスメイトの視線が一斉に佐藤先生に向けられる。 俺だけがスマホの画面に目を落とし、ホッとため息をついて意識が遠退いていった。
ちょっと高い熱が出たから休むね(テヘペロ)




