「ねぼけた鳥葬/鳥の顔のおじさん」
いやですよ、まじで。
爛々とした目がきもちわるい。
僕の足をなまあたたかい手が触った。
僕はたまらず、拒絶のことばを投げていた。
鳥の顔をしたおじさんは、なにかカミソリみたいな雰囲気をまとっているから、あんまり強くは言えない。
そもそも手当てをしてくれているのは間違いなさそう。
暁光がそらを叩く様にはげしく光らせている。出血のしみに見えるくらいのつよい光だ。
破損した自転車はその光のしたで骸をさらしている。
僕をはねた車のほうはキスがすんだ脣みたいに過ぎていった。
おじさんは動けなくなった僕をみつけた。
ふと気づいたらそこに立っていたから、もしかしたら僕の意識がとぎれたか、もしくはあの茜いろしたそらから降りてきたのかもしれない。
そんな妄想をした。
あまりキズはなさそうなのに、まったく体がうごかない。催眠術の犠牲者をおもわせる有り様だ。
それからいちだんと不思議なことに、いたみは殆どなかった。
デニムはパーカーはやぶれていて、血痕を連想させる不規則な破口をちらしていたのだが、いっしゅんのうちに超合金素材にでもうまれかわったか、僕の臓器や皮膚やほね、きんにくといったモノらは、僕の脳にいたみを告げないのだった。
やぶれ目からしらじらと僕の肌がまたたいていて、それは喩えではなく、すこし発光しているみたいに感覚される。
だから頭をうったのだとおもう。
視覚異常をおこしていそうだ。
それゆえにいたみだって感じらないのかも。
ともあれ、鳥のおじさんは僕を無感情にみとめると、僕のかたわらにしゃがみこんだんだった。
いま無感情と表現したけれど、どこか動物的な奇妙なねつが瞳にあり、それはがらんどうの宝石という感じで、ひとことで表すのが難しい表情をたたえていた。
だから、ただのにんげんというよりは鳥の顔をしたにんげんに思えたんだった。
おじさんの表情は細部がみとれない。
それも印象をあいまいにしている原因かもしれない。
これも視覚異常のためであるのか、長い髪をしたおじさんは背部にひかりをしょっているふうに感覚されて、あたかも逆光や不自然なハレーションをおこしたぐあいに、鳥の顔を糢糊ととかしているんだった。
だけれど目だけ爛々とするどい。
僕はうごけないために、おじさんの手を待つしかなかった。
いやですよ、まじで。
もう、なけなしのことばも役にはたたない。
僕は僕のこえがサーベルのかたちをした無数の分子になり、おじさんのクチバシを刺して破壊するといいなと思考した。
それから僕の構造はぜんぶ、おじさんの手のうちに捧げられた。
そらがあかく光っていた。
そらはだまって、ただ無言だった。
無言は、ただ赤色をうかべていた。