動植物神話体系―Eukaryotarum Mythologia―
オオトカゲの散歩
地下の洞窟の中、オオトカゲさんは鼻歌を歌いながら歩いています。岩に埋まった鉱石がオオトカゲさんの光を反射してキラキラしています。
「どーしよっかなー、クラゲと遊ぼうかなー」
オオトカゲさんは楽しいことが大好きです。特にクラゲさんとは仲良しなので、よく遊びにいきます。ただ、クラゲさんは気分屋なのでいつも遊んでくれるわけではありません。
この前はクラゲさんにこっぴどく怒られましたが、オオトカゲさんはもうそのことは忘れています。
「あ、そうだ。たまにはウサギのとこ行ってみるか」
オオトカゲさんは尻尾を左右に揺らして楽しげです。
ウサギさんとオオトカゲさんも仲良しです。時々、ウサギさんにオオトカゲさんは遊びを教えたりもしています。しかし、悪い遊びも教えるので、ヒョウさんに見つかって怒られることが多いのです。
問題は、ウサギさんの居場所です。
今は夜。昼間ならほとんど巣穴の中でじっとしているか世界樹で日向ぼっこしているかですが、ウサギさんは夜はとても元気です。
地上に出たオオトカゲさんは、まだ起きている生き物たちに訊ねながらウサギさんを探しました。
ゴツゴツした岩場のあたりで、月の光で銀色に輝く毛並みが見えます。オオトカゲさんは嬉しくなって元気に走りました。
「よっ、ウサギ」
「トカゲだ。どうしたの?」
「一緒に遊ぼうぜ」
「んー、いいよ。今日は特になにもないし」
ウサギさんはまん丸なお目々をパチパチとしました。
「この前は、追いかけっこだったけれど、なにしようか」
「ガキたちをびっくりさせるとかどうだ!リスなんかはノリいいじゃん」
桃色の可愛らしいリスさんは、きっと遊んでくれるでしょう。面倒見がいいリスさんのことを思い出したウサギさんは、首を横に振りました。
「リスは最近、住処を変えたから結構遠いよ」
好奇心旺盛なリスさんは刺激を求めて色々なところに住み着きます。ウサギさんには欠かさず便りを届けてくれるのですが、仕事のせいでリスさんのところに行く気力があまりありません。
「いーじゃねぇか。リスはいつもウサギのこと待ってるしさ」
「え、待ってるって?」
「だからたまには顔だしてやったらどうだ」
オオトカゲさんは尻尾を揺らしてウサギさんの首根っこを咥えました。オオトカゲさんが話を聞かないのはいつものことなので、ウサギさんは無言でされるがままです。
「そういえば、クラゲとは仲直りしたの?」
ウサギさんはヒョウさんから聞いた話を振りました。マイペースなクラゲさんがほかの生き物に怒る姿は見かけません。仲がいい分、遠慮がないのだろうとウサギさんは思っています。
一方のオオトカゲさんはなにも考えてはいません。ウサギを背中に乗せて、首を傾げました。
「喧嘩したっけ?」
「君、もう少しはクラゲのことも考えてあげて」
「もちろんクラゲのことは好きだぜ!」
噛み合わない会話に、ウサギさんはこれ以上触れるのをやめました。せわしなく前足で顔を撫でてオオトカゲさんの話を聞きます。
草原や森を歩いていても、他の生き物たちは寝静まっているのか見当たりません。
オオトカゲさんは昼も夜も関係なく動き回っています。いつ休んでいるのか、ウサギさんはもちろん、誰も知らないのです。
「風が気持ちいな!」
「そうだね」
オオトカゲさんとウサギさんは、のんびりと話しながら進みます。
その後、起こされたリスさんが二匹に説教する姿が他の生き物に目撃されました。