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創作怪談――創怪

職務に忠実に……

作者: ユージーン


 中学校でできた新しい友達と買い物に行った帰り。その子の家が途中にあるからと寄り道してから家に帰った。少し遅くなり、いつもと少し違う道を自転車で走っていた。

 そこは自動車も歩行者も多いけれど、表通りから外れた場所のせいか信号機はない。

 道を渡るためにスピードを落とすと、交差点の真ん中に濃紺の制服を着た男の人が立っていた。

 両腕を左右に開いている。

 しばらくして頭の上に真っ直ぐに伸ばし、体の向きを90度回転させて再び両腕を広げる。

 それを繰り返しているようだった。

 まるで交差しているそれぞれの道を順番に通せんぼしているかのようだった。


 あとでそれは手信号による交通整理だと知った。

 新しい友達とは親しくなっていき、その道を通る機会が増えた。そして夜になると、その制服の男性がいる。毎回というわけではなかったが「そういえば」と思い出すと立っていた。

 右折する車が男性のいる場所を突っ切っていくが、男性は気にする様子もなく同じ動作を繰り返している。

 自分以外には見えていないらしいけれど、時々不思議そうな顔をして通り過ぎる人がいるから、自分以外にも見えている人がいるらしいとわかった。

 交通事故の犠牲者を出したくないという思いの強さに胸を打たれる反面、刺激することでこちらに興味を向けられるのも困る。

 それでもやっぱり気になって、暗くなるとその交差点を通って「今夜もいるな」と確認して帰るようになった。




 それから半年ほどして暑い季節が終わりかと思った頃。

 制服の男性が交差点の中央ではなく、曲がり角の一つの前にしゃがんでいた。

 そこには真新しい花束と線香が手向けてあった。

 翌日、ローカルニュースで別れ話のもつれから男性が逃げる女性を自動車で轢き殺したとの記事が出ていた。たまたま居合わせた人たちが興奮した様子でインタビューに答えていた。突然の出来事で彼女を救うことができなかったと強調していた。




 以来、その交差点はひどく交通事故が多くなった。

 彼の交通整理は誰にも見られることはなくても何らかの抑止力になっていたようだ。

 今では制服の男性は交差点の角でしか見ることができない。




 友人の家のリビングでジュースとお菓子をごちそうになりながら話をしていると、たまたま気の毒な女性と交差点の話になった。

 すると友人の母親が「あの交差点は昔はすごく事故が多かったんだけど、最近はずっと事故が起きてなかったのにね。呼び水みたいになることもあるのかしら」と教えてくれた。

 制服の男性の話をすることはできなかった。経験上、こうした話はネタにして笑われるか気味悪がられるだけだとわかっていたから。




 交差点に通りかかると、曲がり角に制服の男性が立っていて、その両隣にも暗い影が5~6個並んでいた。その中には傷つき、服が裂け、頭部から流れ落ちた血で顔を染めた女性もいた。暗闇の中で苦しみの表情で困惑したように左右を見回している。制服の男性が隣で空洞のような目で通りすがりの人たちをじっと見据えている。

 男性が自分を見ているような気がして仕方がなかったが、ともかくそちらは見ないように必死に顔を背けて通った。

 以来、その交差点は通らないようにしている。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 物語の構成とか文章の書き方は良いと思います。 [気になる点] 説明がちょっと不足してるかもしれないです。 [一言] 小説を投稿する際に、 名前欄を空欄にすると作者マイページへのリンクを 貼…
2018/12/02 20:23 退会済み
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