ドウソウカイ
3分で読める超々短編です。
ポケットの中でスマホが震えた。手に取ると見たことない名前がロック画面に表示されている。
「LINE
梅近:[ミンナのドウソウカイ]
~~~~~以下詳細~~~~~
第一小学校のドウソウカイを開催します。...」
ここまでが表示されていた。
「ほう、同窓会か懐かしい、小学校というと、実に32年ぶりじゃないか」
小学校時代はガキ大将を名乗って活発に動き回っていた小林も、今では44歳。会社では部長としての地位を持ち、容姿は普通だが愛嬌のある妻と2人の小さな子供を抱えている。
「どれどれ」
ロック画面を解除しLINEを開く。最近ようやくスマホの使い方に慣れてきた。小林は文面にざっくりと目を通す。
「梅近:[ミンナのドウソウカイ]
~~~~~以下詳細~~~~~
第一小学校のドウソウカイを開催します。
11/14(日)19:00より、第一小学校元6年1組の教室にてドウソウカイを行いたいと存じます。皆さまお忙しいとは思いますがお誘い合わせの上ご参加ください。つきましては、ノートにこちらの文面を貼らせて頂きますので、参加される方は是非、いいねを押されてください。
また当日は32年前に我々が残したタイムカプセルも掘り起こしたいと考えております。
何卒よろしくお願い申し上げます。
現在我々の6年1組の教室は準備室となっておりますので、お間違いのないようお気を付けください。梅近」
というのが内容だ。
「なるほど、教室で同窓会とはなかなか粋なことを考えるじゃないか。しかし梅近なんてやつは、同級生にいたかなあ。タイムカプセルなんてのもあまり覚えがないが」
少し小林は考え込んだが、結局は30年も前のこと。自分が忘れているだけだろうと思い直し、予定を確認する。
「2ヶ月後か、ちょうど出張から帰ってくる日じゃないか、少し慌ただしいが空港から直接向かうことにするか。これは楽しみだ」
そして、2ヶ月後
「懐かしい!」
スーツケースをガラガラ転がしながら、小林は第一小学校の教室へ入っていき、あたりを見渡す。
すでに人はまばらに集まっており、みんなそれぞれ固まって何やら懐かしい話にでも花を咲かせているような雰囲気だ。
「どれどれ俺も誰かと話したいな」そう小林が思っていると、後ろから突然声がかかった。
「小林か?懐かしいな。久しぶりじゃないか、俺だよ。小川だよ。」
小川と名乗る男の顔を見た。髪はしっかりジェルで固められあごひげを生やした精悍な顔つきだ。にわかに小川とは信じられない。
「小川?小川ってあのチビの小川か?」
「はっは、確かに小学生の時は小さかった。高校で一気に伸びたんだ。今背の順で並んだら、多分最後から数えるほどしかならないぞ」
「数えるまでもなく、一番最後って感じの身長だよそれは」
「はっは、ありがとうな」
と、そこで小川の顔が急に真面目になった。
「それよりも聞いたか?物騒な話なんだが、村上のやつな、子供が行方不明なんだって。俺も一度会ったことがあって、よしきくんって言ったかな確か。すごく心配だ。いなくなったのがつい先日の話らしくて、それで今日は急遽来れなくなったんだと」
「怖いな。俺も二人ガキがいるから他人事とは思えないよ」
「そっか小林にも子供がいるんだな」
「小川はどうなんだ?その感じだとかなりモテるだろう?」
「いや、奥さんも子供もいないよ」
「そうなのか」
なんてことを話していたら、教室に一人の男がふらっと入ってきた。そして入り口付近にいた小林たちに声をかける。
「どーもどーも、今日は来て頂いてありがとうございます」
小林はこの男を思い出せなかった。それに対して小川がさらっと答える。
「あ、梅近か?久しぶり」
「はい?」
「え?」
男と小川の間に一瞬の沈黙が流れた。
「では、楽しんでいってくださいねー」
そう言って男はまた別の人たちのところに挨拶に回る。
「あれが梅近さんじゃなかったのな」
と小川が言う。
「いや、完全に知り合いの感じだったじゃんお前」
「だって忘れてたとかなんか言えないし、知ってる感じ出したらミスったわ」
「なんか変な感じだな」
「まあいいさ、仲の良かったお前と久々に会えただけでも、来た甲斐があったよ」
そして小川は続ける。
「しかし、元俺たちの教室で同窓会とは粋なことをするよな」
「そういえば小川、お前タイムカプセルとか覚えてるか?」
「いんや全く、まあ言われてみればやったかもな、って感じだよ」
「やっぱそうだよなー。30年も前のことなんて、本当に何も覚えてないもんだな」
「そんなもんだ」
はっはっはと二人して笑う。
それから他にも何人か懐かしい知り合いと話し、だいぶ盛り上がったところで、さっきの男が教卓に立った。
「みなさん、こんばんは。今日はどうも来てくれてありがとうございます。それでですね、みなさんせっかく盛り上がって来たようなので、もう早速、行っちゃいましょうか。タイムカプセル。さあドウソウカイの始まりですよ!」
おー、と周りは盛り上がり、拍手も聞こえてくる。
「もうとっくに始まってるけどな、同窓会」
という誰かのツッコミには意も返さず男は続ける。
「実はですね、みなさん記憶にないかもしれないですが、私がこっそりみなさんから集めて、ここから見える、あの梅の木の下に埋めておいたんですよ!私早めにきて、どこを誰が掘ればいいのかわかるように、名前を書いておいたので、あちらにスコップが置いてあるので、好きに掘ってください!」
皆盛り上がったまま外へと雪崩出て行く。
小林の名前は小川の隣にあった。その小川の隣には村上の名前が書いてある。
「あれ、小林と村上は下の名前まで書いてあるんだな。俺なんて小川だけだぜ?あいつ忘れてんだろ〜なー。ま、俺もあいつのこと何も覚えてないけど」
「小林康太。いやこれ、俺の名前じゃなくて、息子の名前なんだよな。どういうことだろう」
「ん?まあなんでもいいじゃないか。とりあえず俺な、俺の掘る前に村上の掘っちゃうわ。あいつには悪いけど、来れないんじゃな。よしきくん早く見つかってくれよっと」
そう言って、小川はスコップを地面に突き刺した。
グニュ。
「あれ?なんか感触が」
手が出て来た。
「は?」
小川の顔が青くなる。そして村上の名前を指差して言う。
「これ、見ろよ」
村上よしき。と書かれていた。
「え?」
小林は急いで、小林康太と書かれた場所を掘り返す。
そして叫び。
「ーーーーーーーーーーっっッ」
あちこちで嘔吐の音や悲痛な叫びがこだまする。
そして男が言った。
「ああ、私、バイキンです。あなたたちに32年前、いじめられて、その梅の木のところの落とし穴に埋められた、バイキンです。あなたたちがつけたあだ名です。誰も覚えてないんですもんね。酷いですよ。ちゃんと、これからは覚えて置いてくださいね。それでですね、名前のない人たちは、産むことができないってことです。子供。あの、今ここで、切っちゃいますので、あんまり動かないようにしてくださいね。あなたたちのDNAは根こそぎ断ち切っていきますので。そうじゃないと、次の私みたいな可哀想な子ができてしまいますから。あ、小川さん。あなたからです。これは「みんなの童葬会」ですので、お間違いのないよう、お願いいたします。私は、梅近です」
定期的に書いていきたいです。