投獄
やばい、どうしよう。案の定この鑑定石とか言う白い石は私の最も隠したかった秘密を暴いた。よりにもよって私の親友の目の前で。しかもLV29って私のだけ一際高いんですけど!たしか高いほど強いって意味だよね?今までで一番高かった数値は5なのになんで私だけ!?
混乱して、言い訳をすることもままならない私を現実に引き戻したのは
「衛兵、こやつを捕らえろ!」
態度を翻した王様の怒声だった。
途端に、近くにいた兵士の一人が私に向かって手を突き出す。反射的に躱そうとするがさっきまで惚けてた私は回避しきれず、腕を掴まれてしまう。鉄の籠手が逃さんとばかりに握ってきて痛い。
「はなして!」
腕を振りながら訴えかける。当然ながら兵士は聞く耳を持たない。それでもその兵士が手を話したのは、姫乃ちゃんが私を掴んだ兵士に突っ込んでタックルしたからだ。突然の衝撃に兵士は耐えきれず転んだ、姫乃ちゃんと一緒に。
「姫乃ちゃん?」
鎧を付けた兵士に突っ込んだ親友を心配するが彼女は
「ショウちゃん後ろ!」
私の後ろから接近してきたもう一人の兵士の存在を訴えた。慌てて振り向くと、見えたのは私に近ついてきた兵士を横から突き飛ばす男子生徒、坂木恭弥だった。
「坂木くん?」
思わぬ助けをもらった私に彼は倒れる事なく振り向き
「東雲さん、逃げてください!」
と告げた。偶に挨拶する程度の仲だが、彼の言う通り今は逃げないと!後ろの壁の方に通路が見える。あそこを通ればどこかに出られるかも知れない。追われる理由も何処へ逃げるのかも分からないけれど、ここにいちゃいけない、ってことだけは合ってる気がする。
部屋の出口、通路に向かって走る。当然兵士たちはそんな私を逃さんと向かって来るが、今度は二人の男子生徒私を追い抜き、兵士達の前に立ちふさがった。そのうちの一人、柊修斗は勢いよく、ヘルメットを無視するかの如く殴りかかり兵士を吹っ飛ばす。もう一人の小林春樹は兵士二人に掴み掛かり、体を使って意地でも通さんと踏ん張る。
「東雲!ここは俺たちが抑える!」
「姫、行ってください!」
姫?小林くんの私への呼び方に違和感を抱きつつ、出口へと走る。妙に体が軽い。これなら間に合うかもしれない!
しかし、柊くんに殴られた生徒が、倒れながらも私に手を伸ばす。横に避けて交わす。しかし朝からずっと肩にかけてたカバンのベルトに、指が引っかかる。私と兵士、双方向に引っ張られ閉じきってなかったカバンが開き、本が一冊飛び出した。
兵士の指は離れたが、私の足は止まった。自然と、私の目は飛びたした本を追った。カバンから飛び出した本は、よりにもよって間違ってカバンに入っていた、死霊術の魔道書だった。なんとしてでも隠したかったものが、最悪のタイミングで衆目に晒された。パタンと、地面に響いた音が、やけに大きく聞こえた気がした。そんな私の隙を突かれ、助けてもらった甲斐も無く、私は兵士に取り囲まれ、あっけなく拘束された。
私を助けようとした四人も捕まり、彼らは何処かに連れ去られた。全員最後まで私を助けようとした所を、兵士達の数の暴力でねじ伏せられた。魔道書は白いローブの老婆に拾われ、通路の向こう側に消えて行った。魔道書を拾う際に、老婆は自身に語るように呟いた。
「曽孫のような歳の子が、なんて邪悪なものを…」
邪悪、その言葉がまるでナイフみたいに私の心に突き刺さる。
別に、自分が善人じゃない事は分かってた。修行の為に野良猫などを殺した。肉体も魂も余すところなく弄った。血なんて見慣れてるし、今更匂いでむせかえったりしない。人だって殆どためらいなくやれるだろう。実際、三咲季さんをゾンビにした時は、自らの手で彼女を終わらせた。そんな私の所業は、一般の人から見れば血に飢えた殺人鬼にしか見えないと思う。
でも、邪悪なんて言われた事は一度もなかった。父は私のことを熱心で思いやりがあると褒めてくれた。母は自分の行きたい道を進みなさいと背中を押してくれた。三咲季さんも、苦しみから救ってくれてありがとうございますと、むしろ感謝までされた。だから、たとえ世間に決して見せられなくとも、これが悪いことだなんて思っていなかった。否、これは悪いことじゃないと自分自身に言い聞かせた。
違った。私を捕らえた王様は邪悪な私を処刑すると言った。兵士は、拘束され身動きできない私を危険物を扱うように運んだ。そんな私を、残ったクラスメイトは冷ややかな目で見ていた。これが現実。つまり、私が学んでいたのは邪悪な死霊術で、そんな私の正体は邪悪な死霊術師だった。それを自分の中で認めた頃には、私は独房のような場所に投げ入れられ、檻が叩き付けるかのように閉められた。
最後ら辺は、序章のシーンと一緒です。まあ、ここまでプロローグみたいなものです。