召喚
まるで、生きたまま体が宙にばらまかれた様な感覚。手も足も頭もなく、定かでない意識だけが飛ばされてゆく。不自然で不可解な、夢の中でも感じたことのない状態。私は、姫乃ちゃんは、他のクラスメイトはどうなったのだろうか。あるいは私たちはあの場で得体の知れない魔法に殺され、天に登ってるのだろうか。
いや違う。それはない。たとえ自分自身のそんざいが定かでなくとも、死者と生者の区別ぐらいはつく。自らの命の鼓動を感じなくとも、死霊術を学び始めて十数年もの間、数多の死者を見た私の魂にすり揉まれた感覚が、私の生存を肯定している。そもそもそんな私が天に召されるかどうかがすでに怪しい。
不意に、感覚が戻ってゆく。さっきまでの感覚が幻の如く消え失せ、私の体が地面に倒れているという信号を脳に送る。自分の体にに喝を入れ、起き上がる。辺り一帯は暗闇、いや離れた場所から明かりが見える。だがかなり暗く、今自分が抱きしめている姫乃ちゃんの顔の輪郭がおぼろげに見える程度だ。どうやら彼女も無事らしい。
「んっ、んん?…ん〜…」
姫乃ちゃんも起きたみたいだ。わたしと違い、まだ意識ははっきりしていない。
「姫乃ちゃん、大丈夫?、私の事がわかる?」
「ん?、聖…子ちゃん…?、ここどこぉ?」
そういえば何処だここは。私たちは教室にいたはず。こんな空間には見覚えがない。おかしな所はそれだけじゃない。あの光に包まれる前に感じた膨大な魔力。それが未だに周囲から感じ取れる。気分が悪くなる、ほどでもないが落ち着かない。借りられた猫の様な気分、とでも表現するべきか。
「おい、何処だここは!」
「誰かそこにいるの?」
「真っ暗で何も見えない…」
そうこう考えてるうちに周りも騒がしくなってきた。その声はクラスメイトのもの、彼らも私と一緒にここに連れてこらてたみたいだ。しかしどうやって、一体何の理由で私たちを攫ったそう考え始めた最中、
「おや、どうやら全員目覚めたようだね?」
「ああ、その様だな。では明かりを点けろ」
年老いた女性と、威厳のありそうな男性の声があたりに響く。その後、遠くにあった微かな明かりが強くなり、優しい光が目を眩ませる事なく私たちがいるこの空間を照らし出した。目の前に姿を表したのは輝く王冠を頭につけ、高級そうなマントを着けた中世風な初老の男と、その隣白いローブを身に纏い、しわくちゃな手で杖をもった顔の見えない老婆。この二人がおそらく先ほどの声の正体だろう。一見時代感を損ねた服装だがこの空間はではそうではなかった。
まるで何処かの神殿の内部の様な白に統一された純白の壁。床一面は真っ白な大理石が敷かれ、その上に私たちを囲むかのように魔法陣らしき模様が掘られている。窓はなく、明かりは空間の四方にある燭台らしきものが担当している。また男性と老婆を守る様に全身に鎧を着けた集団が部屋のあちらこちらにいる。この空間では、むしろ学生服の私たちの方が浮いてた。
初老の男が咳き込む。私を含む全員の視線が男の方へと向かう。それを待っていてかの様に、男は語り出した
「我らの召喚に応じ感謝する、異世界の勇者達よ!」
11/03:老婆の口調を少し変更しました。