違い
今回から句読点を台詞の終わりから外しました。今まで投稿したのも誤字直しのついでに直そうと思います。
「無理ですね、俺の矢ではあのランプは打ち抜けません…」
結界の要らしきランプの破壊、アレス君は首を横に振って無理だと言った。
「門のランプはぶつかったり倒れたりしても壊れないように鉄で出来ています。この狩猟用の弓と矢じゃどんなに強く撃っても弾かれます」
「そうですか…」
弓での破壊は無理、ポルターガイストも結界で使えない、なら残った手段は直接ランプまで行って壊す手段だけだ。アレス君の言う通りランプが普通の鉄製の物なら、結界の要になっているのはその中に入っている光源そのもの。取り出して壊せば、結界も消える。
「ではアレス君、これを使ってください」
そう言って鞄から黄色い液体が入っている小瓶を取り出す。小さいながらも、今私が持っている奥の手だ。
「ショーコさん、これは何ですか?」
「確か、麻痺薬と呼ばれる薬品です。タニアさんから貰った調合本に乗ってあった薬です。これを鏃に塗れば、かすり傷でもしばらくは痺れて動けなくなる、はずです」
「は、はずって…」
「ポーションと違って自分で飲んで効能を試す訳にもいきませんでしたから、ですが一応正しく作れたはずです…兎に角、アレス君はこれで兵士の動きを止めてください。その隙に、私が行って要を壊します」
「っ!駄目です、危険すぎます!」
「これしか方法がありません、これ以上時間を掛ければ門が閉まります。私じゃ矢を打てません、お願いできますか?」
反対されるのは、今までの彼の態度を見て予想できた。だけど死霊術が有効じゃない状況で私が考えられる手段はこれだけだ。その思いを込めてアレス君の目を見つめる。彼は嫌そうな顔をしていたが、ため息を吐いて私から麻痺薬を取った。受けてくれるようだ。
「分かりました、やります。俺が合図を出したら行ってください」
「アレス君、ありがとう」
彼としては苦渋の決断だろうが、そうせざるを得ないの私のせいだ。悪いのは結界一つでほぼ何も出来なくなる私であってアレス君のせいではない。瓶を開け、筒から出した矢の束の上から麻痺薬を振りかけるのを見ながら、モーリスとつーに命令を出す。
『モーリスとつーはアレス君を守ってください』
『…御意。主こそ、どうかお気を付け。』
『…ぁ…じ…ぅ?』
二人とも、あの結界を通れないのを理解している。モーリスは肉体があったら血が出るほど手を握りしめて私の命令を受諾し、つーは私に前まで来て、初めて声を出した。微かにではあったが、確かに聞こえた。何と言っているのかは分からなかったが、それがつーにとって慣れない事で私の為に無理矢理出したのは分かる。
『ええ、分かりました。モーリスもつーも、ありがとう』
つーを撫でる振りをする。同時にアレス君の準備も終わったようだ。背負った鞄を地面に置いてから門の方へ向き、ナイフを取り出して、何時でも飛び出せるように準備する。
「…今です!」
アレス君の合図を聞いて飛び出す。目指すは結界の要があるランプ。そんな私に兵士が気づかないはずがなく、見張りの一人が直ぐに私を取り押さえようとする。
「何者っ!?、うぐあぁ!」
しかしその前に私の背後から飛来する矢に撃たれる。アレス君の放った矢は甲冑の隙間に刺さり、致命的な所に刺さらずともその場で地面に倒れ伏す。麻痺薬はちゃんと機能するようだ。
「敵襲!前方に一人、後ろにも誰か居る!」
残った見張りの一人が声を上げ、それを聞いた残りの兵士は事態を理解し腰の剣を抜く。既に私は結界の内部に踏み込んでいる、つまりポルターガイストによる防御は出来ない。清浄に感じられる結界の内部は私に死の恐怖を思考の片隅に過らせる。
だけど今更引けない。どれほど危険でも、今の私には駆け抜ける事しか出来ない。
「あぐっ、ああぁ…」
矢が更に別の兵士に当たる。腕の関節を撃たれた兵士は僅かに耐えた後最初に撃たれた兵士と同じように倒れる。私に一番近かった二人がやられ、、壁の上の三人は除いて残るは八人。全員距離は離れてはいるがランプまで間に合う距離じゃない。三度矢が放たれるが、今度はその兵士が背中から手に持った盾に弾かれる。
「くぅ、狙撃手に気を付けろ!当たるとやられるぞ!」
弾いた兵士が残りに警告を出す。彼が部隊長だろうか?他の兵士より素早い動きで私の行く手を阻む。更に壁の兵士達が矢を構え、脅威を感じたアレス君へ向けて撃ってきた。
アレス君は飛来する矢を避けようとせず、再び部隊長へと撃つ。その矢はまたしても防がれるが防御の為に足が止まる。その隙を突いて傍まで来た部隊長の横を通り抜ける。これでランプまでの障害は無くなった!
アレス君へと放たれた三本の矢はどれも正確に彼へと向かった。だが確実に当たるはずの矢は突如飛び上がった私の鞄に防がれ、弾かれる。私以外に想定してなかった事態にアレス君もビックリしただろうが、兵士達の驚愕の方が上だと思う。
「はぁ、はぁ、着いた!」
全力で走り、何とかランプへとたどり着いた。後はこれを開ければ…
「なっ、んんっ!」
だが蓋はガチガチと鳴って開かない、止め金が付いていて外れない!
「結界石が狙いか、させん!」
ランプを開けるのに手間取った私は部隊長に追いつかれ、剣を振り落とそうとする。咄嗟にランプを抱えて横に飛び、間一髪で躱す。
「っ!ショーコさん!!」
「ぐっ、ぬぅ…」
アレス君がもう一度部隊長へと矢を放つ。今度私の方に向いて防御が出来ず、首に刺さって倒れる。それでも既に残りの兵士に追いつかれてしまった。三本がアレス君へと向かい、残りの四人が私を囲む。地面に倒れ、背後は壁、私に逃げ場は無い。
ふと、初めてこの世界に連れてこられた時を思い出した。死霊術師とバレて、捕らえようとする兵士から逃げようとした。沢山の兵士相手に走ったり、助けてくれる誰かが居たりと少し似ている。最後に、こうやって兵士に囲まれるのも同じだ。
だけど、一つ違う所を上げるなら…
「これ以上抵抗するなら…止めろ!」
倒れた衝撃で、ランプの止め金が外れた。開けた蓋の中には光る石のような物があった。兵士が止めようとするがもう遅い。ランプの中へ、部隊長が結界石と呼んだ物に思いっきりナイフを叩きつける。
そう、一つだけあの時と違う所を上げるなら…
『憑りつけ』
要であった結界石がナイフに砕かれ、周囲にあった結界が消える。そして支配していた死霊の群れが兵士達に襲いかかった。
今回は、ちゃんと逃げ切れるようだ。




