暴露
「アレス君、…どうしてここに?」
私を助けてくれた人物、二度と会うことは無いと思っていたアレス君に、感謝でなく疑問の言葉を掛ける。アレス君は私がそう問いかけるのを分かっていたのか、
「貴方を探しに来たんですよ。」
と答えた。
「でも、どうやって?どうして私がいる場所が分かったんですか?」
宿を出る前に彼の意識は奪った。彼が起きる前に悪霊を滅ぼして、町から出るつもりだったが、思ったよりも早く目覚めたのだろうか。そうだとしても目覚めてからそう長くたっていないはず。短時間で私の居る場所を探し当てるのは無理がある。
「そうですね、ちょっと失礼します。」
そう言って彼は私の右腕へと向けて手を伸ばしてから、何かを取ってそれを私の前に出した。彼の手には、針のような形をした木屑があった。見ないと分からない程微かな魔力を宿していて、アレス君へ向けて微弱な繋がりがあった。もしかして、ローブの袖にこれがさっきまで刺さってたの?
「狩人の印をこれに付けたんです、本当は鏃に使うんですけどね。印が付くと、半日程それがある大体の場所が分かるようになるんです。」
「狩人の印?」
「ええ、狩人が使える業です。」
これは、魔術じゃない。魔術師でないと周囲の魔力を操れないが、中には自身の中にある魔力を使って、魔術に似たことが出来る人も居ると父から聞いたことがある。アレス君が業と呼ぶこれは相当の鍛錬を積んだ達人にしか使えないはずだが、この世界では違うようだ。恐らくこの世界の職業が与える何らかの補正が、業を使えるようにしてるのだと思う。佐々木さんも、多分彼の職業で使えるようになった業によって、あの動きが出来るようになったのだと思う。
「いつ、付けたんですか?」
「宿に向かうときに、手を握りましたよね、あの時です。」
そういえば、そうだった。アレス君のいつもより強引な行動、つまりあの時から、私が一人で離れようとしているのを気づかれていたんだ。
「それでもビックリしましたよ、追いついたと思ったらショーコさんが襲われてましたから。怪我は無いですよね?」
その言葉で、今私に王城からの追手が迫っていることを思い出す、これ以上話している場合じゃない。手遅れになる前に、早く別れないと。
「…ええ、ありがとうございます、アレス君。だけど、ここまでです。これ以上私と一緒にいると、アレス君も巻き込まれます。」
「嫌です、ショーコさんを放っておけません。」
私から離れるべきと告げるとアレス君は否と即答する。分かっていたけど、彼はいい人だ。だからこそ私なんかと一緒にいるべきじゃない。戦いの最中で外れてしまったフードを被りなおす。きっと、今の私の顔は、王城の牢屋に入れられた時のように酷いから。
「私を追っている人たちは、この国の兵士です。」
「…兵士、がですか?」
「はい…私は、国に追われています。」
「…」
知られたくなかった、私の秘密。アレス君を遠ざけるには、もうこれしかないと思った。もう一度気絶させても、彼はきっといなくなった私を探してしまう。目線を下げて、絶対に顔を見られないようにする。嫌だ、言いたくない。知られたくない!嫌われたくない!!
「私はっ、錬金術師なんかじゃあ、ないんです。私の、私の正体は、本当はっ、死霊術師っ、です!」
「…!!」
心が軋む思いに耐えて、口に出す。言ってしまった、一番知られたくない事を。よりもよって、自分から…
「…私は、邪悪な魔術師です。一緒にいちゃ、いけないんです!」
もう耐えられなくて、思わず逃げ出そうとする。だけどアレス君に腕を掴まれて失敗する。
「は、離して!」
「離しません。ショーコさん、前に言いましたよね?毒も正しく使えば薬になるって。」
確かに、確かそんな事を言った気がする。
「死霊術師って聞いて、少しビックリしました。だけどショーコさんは、妹の為に薬を作ってくれました。悪い人だったらそんな事しませんよね?」
「そ、それは…自分の、為に…」
「町までの道中も、俺を襲って荷物を奪えたり出来たのにしませんでしたし、一人で宿を出た時も何も盗んでません。今だって、俺の事を気遣って離れようとしてますよね?」
「…」
「例え死霊術師だとしても、関係ありません。ショーコさんはいい人です、放っておけない人です。だから、相手が誰だとして俺が味方になります。俺が、貴方を守ります。」
最後の一言で、私の中の何かが決壊した。ふと体から力が抜けて、倒れそうな所を抱き留められた。
「あっ、ああああぁぁっ!!」
涙が溢れ、感情のままに泣き出す。そんな私をアレス君は抱き留めて頭を撫でていた。私の泣声と雨の降る音だけが、辺りに響いていた。
業や魔術の違いは、その他の良く説明してない物とまとめて後々説明します。




