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戦闘:熟練の聖術師

聖術、それは魔を祓う術。


聖術師には白魔術師ホワイトメイジ、神官や聖人等、様々な呼び名がある。それはいつの時代も聖術師は人の味方で、私のような悪の魔術師と戦う存在だったからだ。


死霊術以外の魔術は父からは大雑把な説明しか貰ってない。だけど例外として聖術だけはより具体的な説明、それに加え追加で警告をしていたのを覚えている。


格上の聖術師に会ったら逃げろ、と。


この世界に連れ込まれて父は正しかったと身をもって知った。使役霊では彼女の周りで渦巻く魔力の防御を抜けない。ゾンビやポルターガイストでの物理的な攻撃もさっきつーが撃たれた光弾で霊を弾いて防がれる。たった一発でつーがぐったりする程の威力、何度も当たればそれだけで消滅しかねない。


「…」


「はぁ、まただんまりかい。でも今回は、土くれの体って訳じゃなさそうだね?」


ゲルダが歩みを止める。まだ距離は離れているが、すでに私は聖術の射程に入っているのでこれ以上は近づいてこないようだ。手に持った杖の先端が光を帯びている。


「待ってください!ゲルダ様!」


ふと、私とゲルダの間にいる佐々木さんが声を上げた。


「一人で飛び出したのは謝ります!ですが彼女は僕が倒さなければならないのです!手をださないでください!」


「バカ言ってんじゃないよ、アタシが助けなきゃ危なかったのが分からなかったのかい?」


「あれは油断しただけです、僕は勇者なのですからまともに戦えば僕が彼女に負けるはずがありません!」


何故か佐々木さんが一人で戦わせるようにお願いしている。私はてっきり彼が囮になっている間にゲルダが私を倒す作戦かと思っていたのだが、違ったようだ。どうにも佐々木さんの様子がおかしい。


「…本気で言ってんのかい?」


「当たり前です!魔王を倒すために呼ばれたのですから、負ける理由がありません!」


困惑しているゲルダと、自分を信じて疑わない佐々木さん。彼の事は余り良く知らないがこんなに自信家だっただろうか?確かに切りつけは早いし、切り裂かれたら死んじゃうだろうけど、モーリスがいれば躱し続けられる。身に着けた鎧のせいで憑依は出来ないが、武器はただの剣なのでさっきみたいに奪える。恐らく職業で何らかの補正があるようだが、不意を打たれなければ彼に殺されることは無い。


『主よ、彼等は仲間同士で何故言い争っているのですか?』


『…分かりませんが、これは好機です。』


一番怖いのは王城でゲルダが放った閃光の魔術。あれに当たれば恐らくモーリスもつーも一発で消滅してしまう程の高位の術。隙があるとすれば詠唱が必要な事、それと光を何かで防げばその後ろには届かない事。今私とゲルダの間に佐々木さんがいる。人に当たった時の効果は分からないが、彼を間に挟めば閃光は届かないのは分かっている。


『彼を利用すれば逃げられるかもしれません、つー、もう一度おねがい!』


懐からナイフを取り出し、つーを宿らせて佐々木さんの肩を狙って向かって飛ばす。向かっていくナイフを彼はすんでの所で気づき、体を捩じらせて躱す。


「っ、卑怯な手を…ですが僕には通じません!」


「止まりな!小娘の思う壺だよ!」


佐々木さんはゲルダの警告を無視して地面に落ちてある剣を拾い私に向かってくる。これでいい、彼が向かってくるなら、その分だけ私は後ろに下がれる。下手に離れればゲルダの聖術に狙い撃ちにされる。私が逃げるために、佐々木さんを盾にする。


「ハッ!」


剣で私を切りかかってくるが、前と同じようにモーリスで私の体を後ろに押して躱す。佐々木さんが振るう剣よりもモーリスが私を動かす速度の方が早い。逃げ場所を誤なければ延々と躱し続けられる。


「っ!」


ゲルダから光弾が飛んでくる、しかし佐々木さんに当たらないようにずらしたそれは私を外して、後方を突き抜ける。よし、あとはどこかの路地を曲がって逃げれば…


しかし路地の真ん中、何もないはずの空間に背中がぶつかり、私の動きが止まる。


「えっ!?」


「そこだ!」


動きの止まった私の硬直を狙って佐々木さんが剣を振るう、避けられない。


『つー!』


だけどつーの宿ったナイフを目の前に戻して、ギリギリ防御に成功する。キィンと鳴り響き、宙に浮くナイフと佐々木さんの剣が顔の前で交差している。危なかった、あとほんの少しナイフが遅かったら…そこで私が後ろに下がれなくなった理由に気づく。いつの間にか背後の魔力が壁のように固まっている。これは、結界?


「今度は、逃がしゃしないよ。」


後方でゲルダが告げて、離れた距離を埋めようと歩き出す。さっきの光弾、あれは私を狙おうとしてたんじゃなくて、最初から私の背後が狙いだったんだ。結界で逃げ場を無くすために。格上だとは分かっていたけど、あんな遠くから一瞬で物理的な動きを阻害出来るなんて…


「逃げるのは終わりですか!?」


そう言って再び振り下ろした剣をまたつーの宿ったナイフで防ぐ。佐々木さんはゲルダが結界で私の逃げ道を塞いだのを分かっていないようだ。彼の剣は防げる、だけど逃げ場所が無い。後ろは結界で下がれず、回り込めば聖術に身を晒すことになる。辺りに迂回する路地は無い。つーで身を守らなければ剣で切り裂かれてしまうので使えるのはモーリスのみ。


奥の手は、一つある。使えば佐々木さんは無力化できるが、そうするとゲルダから逃げ切るのは不可能になる。だけどこの奥の手は距離が離れているゲルダには使えない。でもこのまま防御してるだけではいずれやられる。


「…っ!」


一か八か、奥の手を使おうとしたその時、剣を振り下ろそうとした佐々木さんの動きが止まる。顔を苦痛に歪めながら倒れる佐々木さん、彼の首筋には、一本の矢が刺さっていた。


「何がっ、ちぃ!」


ゲルダが自らの周囲に渦巻いていた魔力で結界を張り、上の方から飛来する矢をキィンと音を出して防ぐ。何者かの不意打ちを防いだゲルダ、しかし身を守る結界を張りながら遠くの結界を維持できなかったのか、背後の結界が解ける。


それと同時に私は後ろに向かって逃げ出す。どうやら誰かが私を助けてくれたようだ。その人物は路地の建物の屋根にいるようで、少し先にあった曲道で「こっちです!」と言って私を誘導する。私はその声に従って路地を曲がる、だけどこの声は…


そのまま誘導を受け、路地から抜け出し少し開けた空間に出る。どうやらゲルダは追ってきてはいないようだ。私を誘導した人物は、そこで屋根から飛び降りて私の前に着地した。彼は、この一週間で良く見知った人物だ。だけど、どうして彼が此処に?


「ご無事ですか?ショーコさん?」


私を助けた人の正体は、宿で別れたはずのアレス君だった。


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