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戦闘:路地裏の悪霊

それは夜が訪れるのを待っていた。


雨が降って、獲物にんげんは中に籠っているが日はまだ落ちていない。夜まで待っているのは奴等は光が無ければ見る事が出来ないのを知っていたからだ。見られるのは良くない、狩りは密かでなくてはならない。悪霊は芽生え始めた意思でそう思った。


一度悪霊になった魂は、元の意識を取り戻すことは無い。だが常に無知で本能的に魂を求める存在でもない。生まれて間もない泣くだけの赤子がやがて成長して喋りだすように、悪霊もまた存在が続けば、その時間と経験に見合った知性を得る。路地裏の悪霊は、何かに入れば自らの損耗が減ることを知り、自らを害せる存在がいることを知り、飢えを我慢すれば何時か狩りやすい時が訪れるのを知った。


だから悪霊が大きな魂を感じ取った時、それがとった行動は警戒だった。確かに大きい魂程飢えを満たせる、だが同時にそんな魂をもった存在は、無力な餌ではなく逆に自らを滅ぼせる力があることを学んでた。だからこそ狙うのはそんな危険な魂ではなく、小さく狩りやすい魂だ。大きな魂一つを狙うよりも、複数の小さな魂を狙った方が危険が少ない。幸いなことにその魂は離れていった。今、身近に自らを害せるほど大きな魂はいない。


今夜は狩りをして問題ない、と思っていた。しかし、自らの近くにいきなり大きな魂を感じ、悪霊は驚愕した。反応を感じた方を向いて色の無い悪霊の視界が写したのは、ローブを被った人間と、それと繋がっている二つの霊だった。霊の魂は両方とも自らより小さい、だが人間は自らより遥かに大きな魂を持っている。そしてその繋がりから、二つの霊はあの人間に従っているのを理解した。


駄目だ、あれは狩れない。


目の前の人間が自らを滅ぼせる存在だと理解し、逃走を図る。だがそれは人間が発した網のような束縛によって阻まれた。凄まじい力で縛り付けてくる。自らの入った入れ物が役立たずだと知り、鎖のような網を振りほどくため、悪霊は宿っていた死体から飛び出した。




_____________________________________





魔力の網から抜け出そうと、悪霊が死体から抜け出して、巨大な霊体が現れる。人の形は保っておらず、その大部分が細長い触手で作られ、残りの部分な脈打つ肉塊のような姿だった。やはりいままで出会った悪霊の中で一番大きい。魔力の網を通して支配しようとしてみたが霊体が捩るだけで効果が無い。思った通り使役は不可、滅ぼすしかない。


そのまま近づいていれば恐らく逃げられていたので魂隠たまかくしを掛けて良かった。魂を遠くから知覚されなくする術、人が持つ五感には影響を及ぼさないので使い道は限定的で、他の死霊術を使えば解ける頼りない術だが、霊に対しては極めて有効だ。


逃げ出そうと全身を振るわれる悪霊に対して、網に更なる魔力を込める。支配は出来ないが、巻き付かれた悪霊は逃げ出すことは出来なくなる。ここまま縛り潰すことも出来るが、霊体を砕いても魂が無事なら逃げられてしまう。確実に滅ぼすためにモーリスとつーにも行動させる。


『悪霊が私を狙います、モーリスは私を守ってください。』


逃げ出すのが叶わないと理解した悪霊が、私に向かって触手を伸ばす。その殆どは網に絡まって止まるか千切れて消滅するが、数本は私の居るところまで届く。だがそれらは私と悪霊の間に陣取り、防御の体勢をとったモーリスに弾かれる。本来なら霊体と魂、両方とも悪霊に劣るモーリスが吹き飛ばされるか捕まって食われるかのどちらかになるが、悪霊は私に縛られあまり身動きが取れず、逆にモーリスは私との繋がりを通して補助を受けている。この状況ならただ大きいだけの悪霊は私に触れることが出来ない。


『つー、アレに思いっきり突っ込んで。』


『!!』


そして攻撃に関しても同じこと。横に回り込んだつーが私の命令で悪霊に向かって突進する。頭の角が釘を打ち込むように突き刺さり、そのまま悪霊の霊体を貫いた。始め悪霊を見て震えて私の元に向かった時とは嘘のように、今のつーは闘志に満ちていた。悪霊へと向かう途中、初めはつーが戦えるか心配だったがつーは中を跳ねて大丈夫、とでも言いたげだった。見た目は角が付いただけの温厚な小動物だが、やるときはやる性格のようだ。


『ウオオオォオオォォォ!』


つーに貫かれ、悍ましい悲鳴を上げるが、私も彼等も怯まない。悪霊も滅ぼされまいと抵抗を続けるが、モーリスの守りを防げず、つーの攻撃も避けれず、刻一刻と終わりが近づいていく。手足替わりの触手が殆ど千切れ、胴体らしき肉塊も崩れ始めている悪霊。あとは魔力の網に力を籠めれば、魂を砕かれ消滅するだろう。だがそのまま止めを刺そうとした時…


『主よ、危ない!』


『え?』


モーリスが私を突き飛ばして、背後から迫っていた攻撃が間一髪で外れる。だが突然の事に受け身が取れず、突き飛ばされた私は雨で出来た水たまりにビシャ!、と音を立てて倒れこむ。


「痛っ、」


衝撃で魔術の拘束が外れ、悪霊は輪郭が崩れながらも逃げ出した。倒しきれなかった、あと少しの所で…


「…っ!」


悪霊を追いかけたいが背後の脅威は無視できない。起き上がりながら私を攻撃してきた人物を見る。金色の鎧に身を包んだ男性。右手には攻撃の手段であった長剣が握られている。彼は兜を被っておらず、代わりに顔に眼鏡を掛けていた。私は、彼を知っている。


「…年貢の納め時ですよ、東雲聖子さん。」


彼は私と同じく、この世界に連れてこられた勇者クラスメイトだった。




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