出発
結局、私はお昼を過ぎて、ようやく村を出ることになった。
私としてはもっと早く出たかったのだが、タニアさんは私に村に留まって欲しかったそうで、引き留められてしまった。何でも希少な錬金術師、それも若い女性を一人では放ってはおけないと。その誘いを断るのに、一度昼食を挟んでしまった。
決め手となったのは、私が帰る場所があると告げた事。私が異世界の人間だとは隠しつつ、私の帰りを待ったいる人がいると告げた。それを聞いたタニアさんは「良かった、貴方は独りじゃないのね…」と言ってようやく私が出ていく事を許可してくれた。
見送りの際、村の出口で私は二つの物を受け取った、否、受け取らされた。一つは、薬師であるタニアさんの調合本だった。薬草の見分け方、それぞれの効能、そして其れ等を使った薬の作り方を乗せた本、私が薬師として偽る為に必要な物だった。贈り物がこれだけならば、私はただ感謝して受け取っただろう。ただもう一つは、私にとっては有り難迷惑だった。そのもう一つとは…
「御心配なくショーコさん、俺が街まで守りますから!」
「は、はい…」
街までのアレス君の護衛だった。
村の人から見れば女性のひとり旅、危険が無い筈がない。魔物に盗賊、若い娘だと命がいくつ有っても足りないそうだ。私からすれば人も魔物もモーリスかつーのどちらかを憑依させれば済むし、仮に聞かなくともまだ打つ手はある。だがそんな事を言えば、折角隠せた私の正体がバレてしまう。
うまく断る言い訳も出来ず、やむなく街までの護衛を許可した。街までの道は整っていると聞いたのでで、途中で振り切って逃げることも考えたが、それであのタニアさんに追われるのは避けたいので止めておく。片道一週間の移動を走って三日で済ますような人だ、逃げきれる気がしない。
「でも、本当に良かったんですか?わざわざ私のために?」
「妹の恩人ですから、それに無事に送り届けるまで帰ってくるなって父に言われました。」
「そうですか、ありがとうございます。」
これでは言いくるめるのも諦めた方が得策だろう。街に着くまでに、いずれ現れる追っ手が来ない事を祈るしかない。
『仕方ないです。私たちの姿は主にしか見えませんから』
『魔物の体を奪って乗れば早く移動出来たのに…ですが貴方に愚痴を言っても仕方がありません。モーリスは辺りを警戒してください。』
私の命令を受け取ったモーリスは真上に上がり、辺りを見渡し始めた。つーは、僕はどうすればいいの?と言いたげな目線を送ってきた。可能なら撫でるフリでもしてあげたいが、さすがに宙を撫でるのを見られるのはよろしくない。だからつーにはアレス君より前に出て、人や魔物を見かけたら教えて欲しいと命令しておいた。頼られるのが嬉しいようで、喜んで前方に飛び出すつー。
街まで一週間、何事もなければ良いのだが。




