返答
『主よ、その、無視し続けるのは如何なものかと。』
モーリスの言葉が聞こえ、思考を止めて改めて目の前を見る。反応が無かった私を覗き込むように顔を近づけたタニアさんが困った顔をしていた。私が意識を向けたので一瞬嬉しそうになるが、勝手に私の職業を暴いた(本当に暴いたのかはともかく)負い目で表情が曇る。
「本当に、ごめんなさい。ショーコちゃんが隠そうとしてるのは分かってたのに、魔術師は珍しいから、しかも錬金術師なんて滅多に見ないから本当にそうなのか知りたくてあんな真似をしちゃったの。私に出来ることなら何でもするから、許してほしいな。」
そうタニアさんは私に告げる。今回は何故か錬金術師と表れて助かったが、死霊術師と出ると思っていた私には思わぬ幸運だ。モーリスからはこの世界の基本的な常識、国の名前やモーリスの故郷の名前など色々教わったが、私にはまだ知らない事が多い。だから、これはチャンスだ。今なら普通は聞くと怪しまれるような質問をして、今度こそ嘘を暴かれないように、本当の正体を知られないように振る舞えるかもしれない。
「じゃあ先ずは、どうして私が薬師じゃないと分かったのか、教えてください。」
魔術で作った薬も魔力が多く含まれるが、それは魔術師でもない限り感知できない。タニアさんは人並み外れた力はあるが、魔力を操ってたりはしてなかった。本人の言いようからも、彼女自身は錬金術師ではないと分かる。本当は薬師であるタニアさんが戻る前に村を出る予定だったが、薬もタニアさんが知らないレシピと誤魔化せた筈なのに何故分かったのかを知りたい。
「…それは、あなたが魔避け花を使ったからよ。あの花は畑に植えると、獣や魔物から荒らされるのを防ぐの。薬として使うことは出来るけど、熱を下げる薬効にはならないわ。それこそ錬金術で捻じ曲げでもしない限り。」
私の質問を聞いて、タニアさんは真面目な顔をして、私に答えを返した。魔除け花は彼岸花の事だろう。アレス君から話を聞いたみたいだ。私の調薬経験は死霊術の為に限られたから、他の薬草の効果や使い方は知らなかった。彼岸花を使わなければどの道失敗していたと思う。つまり私では隠し通す事は無理だった。
だけどタニアさんは錬金術じゃないと薬効を変えられないと言っていた。だけど私が使ったのは死霊術、このままでは話が合わない。だけど、もし私のやった事が両方だったら?死霊術と錬金術は別の魔術、この世界の職業でも別に表れている。だけど、その両方を学ぶ事は不可能じゃない筈。死者直しのレシピは死饗祭典にあり、私もそこから学んだ。だけどあれがもし死霊術と錬金術の両方の分野に触れる薬であるなら、私は知らない内に錬金術も学んでいたかもしれない。
「私からも、聞いていいかしら?私はてっきり貴方は誰かに錬金術を教わっているのかと思ったの。でも貴方の質問は、少しでも薬師に教われば分かることよ?私は魔術師じゃないけど、錬金術でも同じだと思うの。もしかしてショーコちゃん、誰にも教わってないの?」
「…はい、私は錬金術を誰からも教わっていません。」
少し考えてから、そう答えた。父からは死霊術しか教わってないし、そもそも私に錬金術の経験があったなんて今初めて知った。だから嘘ではない。
「そうだったの…大変だったわね、ショーコちゃん。」
タニアさんが私の両手を握る。前みたいに動かないほど強い力ではなく、そっと触れるような、慰めるような握り方だった。彼女が私に対してどんな想像をしたのか分からないが、私は国から追われる身、家族と呼べる人たちは全員私が元いた世界にいる。モーリスもつーも私の使役霊だが、まだ出会ったほんの僅かだ。姫乃ちゃんは、巻き込まれないように私の方から突き放した。その想像は、今の私とそう違わないのかもしれない。




