兄妹
「良いんですか?泊めて頂いても?」
「うちの娘が世話になったんだ、最後までもてなすさ。村長から聞いたがそういう約束だったんだろう?」
日も沈んだ食事の後、私はアレス君のお家で泊まる事になった。
「ベッドなんて高尚な物は村の何処にもないが、一人部屋ならウチでも用意できる。むしろそれしか用意できなくてすまんな。」
「いえ、野宿でないだけでもありがたいです。」
「そういってくれると助かる、んじゃ案内するぞ。」
そう言ってアレス君の父親が案内してくれたのは、小さくシンプルな部屋だった。茣蓙のような敷物の上に枕と布団のような物が畳んで置かれて、壁にはガラスではなく木の板で蓋をしてある窓があった。一応棚もあるのだが片付けられたのか明かりの蝋燭が乗っているだけだ。しかし扉は内側から閂がかけられるし、私一人で寝るのに十分な広さはある。
「こんな質素な部屋で申し訳ないが今日はここでゆっくり寝てほしい。」
「いいえ、わざわざ用意してくださってありがとうございます。」
流石に私の自室とは比べられないが、つーの宿ったクマに抱きついて野宿、と比べれば文句なしだ。
「気に入ってくれてよかった。では失礼するとしよう、また明日。」
「ええ、また明日。」
私が返事をするとアレス君の父親は一人で去って行った。どうやらこの村では日没に寝て、登ったら起きる風習らしい。本音を言えばシャワーを浴びたいのだが今更追いかけてお湯をください、なんて言うのは気がひける。残念だが明日まで待とう。
『では私も寝ます。ここは安全だと思うのでモーリスもつーも楽にして構いません。』
僕たちに伝えてから寝る準備に入る。持ち物が入った袋を下ろして、扉の閂を掛けてから蝋燭の火を消す。部屋の中は十分暖かいので、毛布は使わずにそのまま横になる。ローブを脱げば毛布を被ってちょうど良いと思うのだが、着替えは別の服を手に入れるまでできない。制服についた汚れでこの部屋を汚すのは流石にダメだ。
『…どうしたんですか、モーリス?』
つーは私が使わなかった毛布の上で丸くなっていたが、モーリスはまだ直立したまま悩ましい顔を浮かべている。
『すみません、少し考え事をしていました。』
『考え事、ですか?』
彼の考え事について、少し聞いてみる。
『ええ、あのアレス君に、少し思う事があって…』
『そういえば、妹がいると言ってましたよね。』
『覚えてらっしゃったんですね。』
死霊術師にとって霊との契約はとても重要だ。支配と違い、お互いが納得いくまで続く関係なのだ、覚えない筈がない。
『妹が心配で空回りしていた姿が、嘗ての私に似ていると思ったのです。私も子供の頃、妹が膝を擦って怪我をした時にその場で背負って手当が出来る大人を探そうとした事を思い出しました。』
モーリスが、自らの過去、生前の出来事を語り始めた。
『あの頃は、とにかく妹にかっこいい所を見せようとして、失敗ばかりしてました。そんな私を見て彼女は笑っていました、「バカみたい。」と。』
『…』
私は一人っ子なので、モーリスやアレス君の思いを完全に理解はできない。だから今はただ、黙って耳を傾ける。
『父と母が事故で亡くなった時、母の親族に引き取られた時も、私が守らなければ、と思った。遊びだった剣を真剣に学び始めたのもその頃だった。同年代が相手なら負けなかったし、大人が相手でも三回に一回は勝てた。叔父の縁で騎士団に入った後もどんどんレベルが上がって強くなった私は、いつしか街一番の騎士と呼ばれるようになった。』
なるほど、と納得する。私は生前のモーリスを見た事は無いが、彼の魂を見て想像する事は出来る。肉体的は強さは魂の強さに繋がる所がある。健全な精神は健全な肉体に宿る、という言葉は間違ってない。だからこそ彼は肉体的が白骨化した後も魂は死んだままの姿でいたと思う。ただしそれだけでは足りない筈だが、この世界が魔力で豊富だからこそありえたのであろう。
『だけど私は、きっとそこで間違えたんです。』




