村落
「ほう、そりゃまた大変だったのぅ。何もない村じゃが、ゆっくりしてくとええ。」
「ご厚意、有り難く受け取ります。」
目の前の老人、村長さんにお辞儀をする。
生者探しの術が示す先にあったのは、今私がいる小さな村だ。山の麓に存在して、周囲に柵を張り巡らしている。出発してからそろそろお昼の為に休憩しようかな、と思った辺りで発見した。そのまま山を下って村の見張りと接触、不慮の事故で遭難したと言ったら見張りに村長宅へと案内され、今に至る。
つーはあのクマの体を離れ、私と一緒にいる。移動には便利だったが流石にあれを連れて村に入れるとは思えないし、また腐敗臭が漂い始めたので山に置き去りにした。魔術での単純な防腐は魔物には効果が薄かった。あのクマを本格的に使いたかったら内臓を取り除いて、防腐用の薬品を用意しないといけない。手間がかかるし準備も足りない。
「王都やサルヴィラの町と違ってあばら家ぐらいしか用意出来んが、すまんのぅ。」
「いえ、野宿でないだけでとても有り難いです。」
村長さんはやけに親切だ。彼から見ると私は山側から来た不審者、遭難したと言ったがどこまで本当か分からないのだ。そもそも私を助ける義理もないのに、何で?と疑問が湧く。
「ふむ、なぜこうも親切にしてくれるのか分からん、って顔じゃな。ワシが言うのもなんだが、ここは貧しいとこじゃ。金もない、物もない、行商も来ない。来るとすれば魔物くらいじゃな。みんなで助け合わなければ食いつなぐことはできん、だからこそここでは誰にでも手助けするんじゃ。」
村長さんが微笑む。山中から見下ろした時は分からなかったが、近くで見ると建物はどれもボロボロだった。木や石、粘土で作られている家は城下町と比べるとどれも質素で、ところどころ崩壊と修復の跡がある。見張りの装備も、城にいた兵士とは悪い意味で比べられない。その分屈強そうには見えたが。
「ただそれで其方の気が済まぬと言うなら、一つ頼みごとを聞いてくれんかのう?」
「頼みごと、ですか?」
「そうじゃ。たしか其方は薬師らしいのぅ。」
「…はい。」
流石に死霊術師とは名乗れなかったので見張りに職業を聞かれた時に、薬師と嘘をついた。薬師については城下町に「王国一の薬師が作ったポーション!」と看板に書かれた店を覚えている。だから薬師も職業の一つのはず、と考えた。遭難して持ち物をなくしたから薬師なのに薬を持っていない、ということにした。
「この村にも薬師はおるんじゃがサルヴィラへ薬を売りに行ってのぅ。あやつが旅立ってすぐ後に時期悪く村の子供が一人熱を出して寝込んでおるんじゃ。」
話が見えてきたが、雲行きが怪しい…
「ええと、つまり…」
「うむ、あやつの代わりに薬を拵えてくれんかのぅ?売るために村の薬は全部持って行きおったが、薬草類は残っておるんで大丈夫のはずじゃ。」
どうしよう。さりげなく材料が無いから作れない、という逃げ道を塞がれた。泊めてもらうのに嫌とは言えないし、かといっても本当は薬師じゃないし…
「…分かりました、材料がある場所へ案内してくれますか?」
「おお、引き受けてくれるんじゃな!案内を呼ぶんでしばしまっておれ。」
村長さんが席を外して離れて、私は部屋に残される。
『どうされるんですか?』
モーリスが聞いてくる。
『薬でしたら作ったことはあります。死霊術の、ですが。』
そう、薬品作りなら経験はある。だけど飲んだ人が安楽死してゾンビになる、なんて薬を出したら冗談じゃすまないだろう。
『とりあえずやってみるしかありません』
『主…』
モーリスが私に呆れているが、別に穏便に済ます手段は私には分からなかった。すでに引き受けたのだ、もう後には引けない。
『幸い、村長さんの話し方から察するに、そう深刻な症状ではない、と思います。治すのではなく、悪化させない事に専念するなら、心当たりがあります。』
後は村にある材料で代用できるかどうか、になる。




