起床
ゆっさゆっさと、誰かが私の体を揺らす、微睡みの底から意識がゆっくりと浮上する。
心地よい眠りをもう少し堪能したいと身をよじらせるとそうはいくかと私を揺らす力が強くなる。拙い抵抗もやむなく、朝日の眩しさを感じながら、じっくりと瞼を開く。血の気をを一切感じない青白い肌をしたメイド服の女性が私の顔をのぞいている。
「おはよう、美咲季さん」
しゃべることのできない彼女は笑顔で私の挨拶に返す。
「どうしたの、こんな朝早くに?」
私が問いかけると美咲季さんは首を横に振り、壁にかけてある時計を指差すので釣られるように時計を見て、時間を理解し、完全に目がさめる。
「ギャー、寝過ごした!」
まずいまずいまずい、このままじゃ遅刻する!ベッドから跳ね起き、急いで学校にいく準備をする。
「美咲季さん、教科書カバンに詰めて!」
彼女に命令を下し、うなづくのを見てから洗面所に向かう。身嗜みを整えて、部屋に戻って、制服に着替えるカバンだけじゃなく、着替えの手伝いもしてくれる美咲季さんには本当に大助かりだ。あとはちゃんと起こしてくれたらよかったのに…
準備を終えて一階に降りる。美咲季さんも玄関まで付いて来てくれるようだ。下まで行くとキッチンにいたお母さんが挨拶してくる。
「おはよう聖子、今日は随分遅いわね?」
「そう思うなら起こしてくれてもいいじゃん!」と返すと
「あら美咲季さんはちゃーんと朝早く起こしにいったわよ?夜遅くまで起きてたのはあなたでしょうに」
う、言い返せない。夜遅くまで起きてたのは事実だし。朝ご飯は食べないの?と聞いてくるので「そんな時間無い!」と言いつつ玄関で靴を履く。
「あ、美咲季さん」
出る前に声をかける。彼女は早く行った方がいいですよ、と言いたげな視線で私を見る。
「内臓の防腐手段が分かったから帰ったら施術するね、これで喋れるようになるよ!」
言い終わった直後に玄関から飛び出る。ちらっと横目で美咲季さんを見たが嬉しそうだった。美咲季さんの体には肺がない。肺だけじゃなく、他の内臓も血液も全て体から取り除いて地下の隠し部屋に保管してある
彼女は生きた人間ではなく私の僕、ゾンビと呼ぶべき存在だからだ。
私の名前は東雲聖子、どこにでもいるただの女子高生じゃない。
実の父より秘術を学ぶ、
今を生きる死霊術師である。