山中
木漏れ日が閉じた瞼を貫く。風に葉が揺れる音が耳に届く。
「んん、…んっ…」
今まで朝は美沙希さんに起こしてもらった弊害で私はここ最近自分が朝に弱い事を自覚した。起きようとする意思が睡眠を欲する本能に負けている。抵抗を諦め、二度寝をしようとして…
『主よ、起きてください。さあ、早く。』
僕の声で、眠気がかき消される。一度は負けながら再び自身に喝を入れて起き上がる。昨日『朝になったら起こして。』と言っておいてよかったと思う。そうでなければ、二日連続で寝過ごす所だった。目覚めの功労者へと挨拶する。。
『おはようございます、モーリス。』
『ああ、ちゃんと起きて良かった。おはようございます、主。』
モーリスがほっとしながら挨拶を返す。一昨日はやれ異世界だ脱獄だ奪還だと忙しくて、泥のように眠った。目覚めたのは日がほぼ真上まで登って居た。霊も眠る事は眠るが、必須では無い。生前よほどの睡眠好きでなければ短い時間で起きてしまう。
「んー、痛い…」
目覚めた場所は山中、クラスメイトとこの世界に連れてこられた二日後の夜明け。王城から遠ざかる為、来ると思われる追っ手から身を隠す為に森の奥深くを進むうちに、山道に変わっていった。一日中、日が暮れるまで進んで、そのまま2回目の野宿となった。
野宿になれない私にとって節々の痛みは避けて通れない。ただし本来負うべき苦難に比べればまだましだと思う。何せ夜は冷える。凍死とまでいかないが風邪を引くかもしれない。それを回避できたのは私が巨大なクマ、その毛並みに潜り込んで寝たからだ。
「つー起きて、朝だよ。」
4メートルを超える巨体。一口で私の頭を噛みちぎれそうな怪物を揺すって起こそうとしているのは、その中身は可愛らしい小動物の霊、私の僕でもあるつーが今の体の持ち主だからである。モーリスによるとこの魔物はイビルベアと言って、生半可な剣も魔術も紫色の毛皮が防いでしまうらしい。また本当は中位の冒険者(魔物と戦う傭兵のような人達らしい)が徒党をくんで倒すんだそうだ。実際、遭遇した時はかなり慌てた。何せつーと契約した時の光に誘われいきなり出てきたのだから。
「ウグ?…グアァァ…」
が、憑依による支配は防げなかった。取り付いて動けなくなったところを持ってたナイフで首の動脈を割いてそのまま出血死。薄く魔力で囲って腐りにくくなるようにして、つーをその巨体に入れて操る。これでクマの簡易ゾンビの出来上がり。移動も出来て暖も取れるのであの遭遇は大助かりだった。
「お寝坊さんだね、つーは。」
「グルゥ!」
当初いきなり大きなクマの体に入って困惑してたつーも、ようやく慣れたきたみたいだ。それこそ死んでいるのに私より寝入るぐらいには。それでも私を乗せて山道を走ってくれたので大助かりだ。さあ、そろそろ三日目の行動を始めないと。
まずは近くにある川で体を洗う。私は死霊術師だがそれ以前に女性だ。不可能なら諦めはつくが体を洗う機会があるなら逃したくはない。昨日辺りを探索して本当に良かった。つーが見つけてくれたのだがその時は既に日が落ちきって真っ暗で体を洗うのは危険と判断、明日へ持ち越しとなった。
『モーリス、つー、辺りを見張ってください…覗かないでくださいね?』
『わ、わかっています!』
霊とはいえ、モーリスは男性。見られないようにしっかりと言葉に魔力を込めて命令を厳守させる。つーは動物だがそれでも視線が気になるので同じく命令する。これで準備は終わり。ローブ、汚れた制服、下着と身につけた物を全て脱いで川の水に浸かる。
「つ、つめたい!」
思わず声が出る。座れば腰まで浸かる川の水は冷たい、だがせっかくの体を洗う機会だ、がまんしないと。水を手のひらですくって頭の上から掛ける。針を刺すような冷たさに耐え、石鹸なんて無いので擦って汗や垢を落とす。
「うう、川じゃなくてお風呂に浸かりたい…」
何度か愚痴る内に、大体の汚れは落とせた。髪も手櫛を掛けてなるべく綺麗にする。体は震え出したが、一応サッパリした。できれば服も洗いたいが残念ながら着替えがない。城下町で買えたが他の物を買ってて兵士から奪ったお金じゃ足りなくなった。綺麗と言えるのはこの灰色のローブくらいだ。ゴミが散乱する中で拾ったが、何故か汚れていなかった。山道を進んだ今もシミ一つ無い。魔術で編んだものだと思うが織物は専門外だ。呪われてる訳では無いので有り難く使わせてもらう。
城下街で買った布切れをタオル代わりにして、体の水気を取る。結局、無いものは無いのでもう一度下着と制服を着る。流石にローブだけを着る勇気はない。不快だが我慢しないと。
体を清めたら、今度は食事。献立は道中で採取した果実や木の実。モーリスから食べられると聞いたので齧り付く。果実は酸味が強く、木の実は苦味がある。だけどまだワイルドラットの串焼きよりおいしい。多めに取れたのでしばらくは食事の問題は無い。水も皮袋を買ってあるので川から組む。冷たさは身を持って思い知ったので体が温まってから飲むことにする。
食事は終わった。体も清めた。距離はつーが稼いでくれた。この場所ならあの王城よりもどこかに近くに人里があると思う。まずはそれを探そう。持ち物を入れた袋から私の魔道書、死饗祭典を取り出す。
次は出来れば月曜日に上げたいです。




