城下街
ワイルドラット→ラージラットに変更しました。
通路の先には扉があった。通じる先をモーリスに確認させたら、どうやら路地裏に出るらしい。あたりに人も居ないらしく、開けても問題ないみたいだ。
「ふーっ、んんっ!」
扉についた錆びたハンドルを必死に回す。硬いがなんとか動かせる。体重も載せて力一杯回す。ギギギと、錆びたハンドルが少しずつ周り、もうこれ以上回らなくなったので扉を押す。僅かに開いた扉から光が漏れる。
「んっ、眩しい…」
長い間暗闇に居た所為で、まともに前が見えない。瞼をぎゅっと締め、光に慣れるのを待つ。うん、もう大丈夫。扉を完全に開けて、外に出る。そこは確かに路地裏と呼ぶような場所だった。しかしそれは、コンクリートで固められた日本のそれではなく、タイルの敷かれた地面、レンガや木材の家で出来た見慣れない空間だった。上からくる太陽の光が、屋根の隙間を縫って地面を照らし、ちょこんと生えた雑草がその恩恵を授かっている。辺りには物やゴミがちらほらと散らかっている。横から、陽の当たる表通りが見えた。
『やっと…出られましたか…』
モーリスが呟く。彼も私と同じく、いや私以上に外を望んだのであろう。本来霊はあまり自由に動き回れない。動きも鈍く、そして動ける範囲には限界がある。抜け道を見つけても、彼はそこから先へ行けなかったのだ。
『主よ、私を暗闇から解き放ってくれたことに、感謝します』
モーリスが空中で私に一礼をする。
『一人では出られなかったのは私も同じです。ありがとうございます、モーリス』
ぐるるる、と返事したその場でお腹が今一度空腹を主張する。
『…まずは街で…食べ物を探します…』
恥ずかしさにモーリスから目を逸らす。ふと視界に飛び込んだのは、布の塊。拾ってみると、それが灰色のローブだと分かった。今私の格好は、ただでさえここだと見慣れないはずの制服が汚れている。鼻が麻痺しているが、おそらく匂いも酷いだろう。これなら匂いも少しは誤魔化せると思うし、少なくとも今の格好より目立たないはずだ。なのでローブを拾って制服の上から着る。ちょっと大きめのサイズだが、全身を隠せるので問題ない。通ってきた通路への扉を閉める。こちら側からは壁に見えるように偽装してあるようだ。いずれここを通ったことはバレるだろうが、遅くなるに越したことはない。
僅かな持ち物を懐にしまい、表通りに出る。そこは古風な家が並んでいる写真や絵の中でしか見いたことのないような光景だった。井戸と思わしきものが見え、そこから水を汲んでいる人が居た。家屋の間から青空と太陽が覗き、道の奥からはお城が見える。まるで中世のヨーロッパみたいな町並み、どうやらここは住宅街みたいだ。この辺りを通る人は見かけないが、井戸がある方から人の流れが見える。ここに居ても意味がないので人がもっといる方へ向かう。井戸から水を汲んでいる女性が一瞥されたが、すぐに女性は井戸汲みに専念する。横を通って、賑わってる場所に出る。
今度の通りは商店街のような場所だ。お店や屋台が並び、様々な格好の人が入り乱れる。今の私みたいに全身ローブの格好もあれば、上半身が裸の男性もいる。服装という点では、いまの私はこの空間に馴染んでいるだろう。兵士から奪った財布には、硬貨がそこそこある。ローブを今脱ぐわけにはいかないので、お店ではなく、近くにある串焼きの屋台で空腹を満たす。
「ラージラットの串焼き、一本40ルクだ」
無愛想な女性が目の前に来た私に対応する。ラット、つまり鼠!?だけど変に拒否して選り好みするのは目立つ。諦めて買うことにする。しかし財布にお金はあるみたいだが40ルクがどれぐらいか分からない。
『モーリス、40ルクって硬貨でどれぐらいか教えてください』
『はい、中銅貨が12ルクですので中銅貨四枚、それか大銅貨が60ルクですので大銅貨一枚で買えます。』
一番大きい銅貨を二枚だして三本頼む。一本がそこそこ大きいので三本もあれば十分だ。
「毎度あり」
串焼きをもらって、屋台から離れる。食べるのには少し抵抗があるが観念してかぶり付く。おいしくない。塩味は殆どないし、肉は硬くて血なまぐさい。吐きそうになるが堪えて喉に通す。こんなことになるなら、朝ごはん、ちゃんと食べとくんだった。自然と、目に涙が溜まる。帰りたい、お家に。
帰りたい、いや帰らないと。三咲季さんは私の魔力で動いている。ここに連れてこられてから彼女との魔力の繋がりがない。今頃ただの死体と霊体に戻っているはずだ。最悪父が代わりに魔力を与えると思うがそれでも心配だ。私は三咲季さんの主だ、帰ったら取り除いた声帯を取り付けて喋れるようにしてあげると約束した。父も母も、消えたわたしを心配してるはずだ。ならいつまでもこんな場所にはいられない。この国は私を助けないだろう。じゃあ自分で帰る手段を探すしかない。
やることは決まった。だがその前に取り戻さないといけない物が一つある。死饗祭典、未熟な私を支える死霊術の魔道書。あれがないと私が使える魔術は限られる。本来人が持ち歩いてはいけない物、それはこの世界でも同じだろう。たが私は邪悪な死霊術師だ。ならあれ以上に私の助けになるものは無い。
まずは奪われた、あの本を取り戻す。




