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拉致  作者: 影都 千虎
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04

1年ぶりの更新になってしまいました。忘れていたわけではなかったんです。

すごく久しぶりにチェルカを書いたので、違和感があるかもしれません。

アッ、呻いてるだけだから関係ないか!

「さて、ちょっと趣向を変えてみましょうか」


 焼けた刃を投げ捨てると、水葵はそう言って小さな麻袋を取り出した。そして、そこから数粒種のようなものを取り出すと、四つん這いの状態で床に縫い付けられたチェルカの背中にパラパラと蒔いた。


「な……にを、した……」

「勿論、事が起こってからのお楽しみですよ。僕の口からはとてもとても言えません」


 そう言う水葵の表情はどこか高揚しているように見えた。明らかに、今までとは違う。今からすることにとても心待ちにしていたかのようだ。

 だけどそんなものチェルカが気にするはずもなく、見ているわけでもなく。それどころか、水葵が何をしたのかも見えていないため、これから何をされるのか全く検討もつかないでいた。

 そんなチェルカの背に蒔かれた種は背中の傷口から真っ赤な水分を吸うと小さな芽を出した。随分と成長の早い種だ。


「宿り木って、知ってますか?」

「ぎッあァッ!?」


 言いながら水葵は肉切り包丁を取りだし、ぶつんとチェルカの右足の膝から下を叩き切った。そして、チェルカの身体から離れた足を持ち上げると、切り口を下にして先程蒔いた種の上に持ってきた。すると当然のことながら、切り口から血が滴って種に落ちる。まるで花に水でもやるように、水葵はチェルカの右足を如雨露のように使って真っ赤なシャワーを小さな芽にかけた。

 成長の早い小さな芽は、真っ赤なシャワーを浴びると背丈を伸ばし、根を生やし、その根を傷口からチェルカの体内へ伸びていく。


「ぐああああぁぁぁぁッ!?」


 ボコボコと皮膚の下に根が這っていく。その奇妙なこれまでに経験したことのない激痛と、皮膚の下を何かが這い回る気持ち悪さに、チェルカは狂ったように暴れながらもがき苦しんだ。お陰で右足以外に刺さったままの杭のせいで右足以外が全て千切れるか割けるかしたのだが、そんな痛みよりも背中の痛みの方が重大だった。

 何より、手足は千切れようが割けようが放っておけば再生して元通りになるが、宿り木はそうではない。放っておけばどんどん成長し、チェルカの身体を内側から侵食していく。


「あぁ……ッ、ぐ……ぅ……ッ」


 更にそれだけに留まらず、宿り木はチェルカの体内に張った根からチェルカの血と魔力を吸いとっていく。回復速度が宿り木の吸う速度に追い付かず、チェルカは緩やかに血を失っていく。

 一気に貧血状態になったチェルカを激しい頭痛が襲う。視界が赤や緑や白に点滅して、暴れられるほどの体力もなくなり、ぐったりとして動かなくなった。

 だが、そうしていられたのも束の間、チェルカの身体は無理矢理起こされることになる。


「ッう……ぐ……」


 成長した宿り木がチェルカの身体に絡み付き、上に向かって伸びながらチェルカの身体を締め上げていく。急速に成長していく宿り木はどんどん太さを増していき、チェルカの骨がミシミシと悲鳴をあげ始めるのにそう時間はかからなかった。

 万力のように締め付けてくる宿り木から逃れる手段をチェルカは知らない。こうしている間にも血は吸われ、骨は軋み、全身が痛みを訴える。

 気付けば首にも宿り木は絡み付いていて、ゆっくり、ゆっくりと身体と同様に締め上げていく。首が締まって息が出来なくなるのが先か、首の骨が折れるのが先か。どちらにせよ、一度このまま死んでいくであろうことは容易に想像できた。


「かッ……は……」


 無駄だと頭では分かっていても身体は喘ぐように酸素を求めて呼吸をしようとする。だが当然絞められた首には空気を取り入れることのできる気道はなく、パクパクと口を開いて終わるだけだった。

 やがて血流が止まり、脳の酸素も減り、意識が少しずつ遠退いていく。このままいけば先に気絶をして、その後死ぬことになるだろう。比較的優しい死に方だ、と諦めながら目を閉じたその時だった。

 首ではなく、先に絞められていた全身から嫌な音が響き渡る。とうとう骨が限界を迎えて砕けたのだ。


「────ッ!?」


 首が絞まっていて声が出ない。だが全身の骨が砕ける痛みに意識は覚醒してしまった。そして呼吸のできない苦しみもしっかりと味わうことになる。


「──ッ! ────ッ!!」


 目を見開き声にならない声をあげる。締め上げられたままだからなのか、折れた骨が内蔵を傷つけようと、背骨が折れてしまおうと中々死ぬことができず延々と地獄のような痛みを味わう。

 やっとその痛みから解放されたのは、ごきりと一層嫌な音をたてて首の骨が折れたときだった。

 だがそれも一瞬のことで、少しすれば時間が巻き戻り骨がもとに戻る。だが宿り木はチェルカの身体に絡み付いたままなので、またその圧力に耐えきれずに骨が折られていく。そして首の骨が折れて死ぬ。その繰り返しだった。


「んん……痛みにもがく姿は素敵ですが、身体の様子が見えないのはダメですねぇ……やっぱり傷ついたところがしっかり見えた方が美しいと思うんですよ。と、言うわけで次に移りますね」


 そんなチェルカの様子をしばらく眺めた後で、水葵はやや不満げにそんな事を言った。確かに、宿り木に絡み付かれてチェルカの身体は最早見えていない。見えるのは顔だけだ。

 水葵はどこからか黒い箱のようなものを取り出す。黒い箱のようなものにはボタンが二つついており、その内の片方押すと箱が変形して銀色の金属のようなもののパーツが二本、角のように生えてきた。

 金属のようなものは先が鋭利になっており、勢いをつければ人の身体程度のものには刺さるだろう。


「うーん、この辺かな」


 水葵はそう呟きながらチェルカの正面にくると、箱を持っていない方の手で床に投げ捨てた焼けた刃を持ち、絡み付いた宿り木をチェルカごと斬りつけた。


「ッ!?」


 突然やってきた別の痛みにチェルカは目を見開く。そして、余韻に浸る間もなく次の痛みがやって来る。水葵が黒い箱のようなものの突起を思い切りたった今斬りつけた箇所に刺し込んだのだ。

 突起にはかえしがついていたらしく、チェルカがどんなにもがこうと簡単には抜けない。その事を確認すると、水葵は先程押さなかった方のボタンを三回連続で押した。


「ぎッ──がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 次の瞬間、青白い光が走りチェルカの全身を粉々に打ち砕くような電撃がチェルカを襲った。

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