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境界のリンカーネーション  作者: ジャック・ほ?
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境界のリンカーネーション 3話 後悔と懺悔

境界のリンカーネーション


3話 後悔と懺悔


 冒険者組合の朝は意外と早い。

 正確には昼夜を問わず常に誰かが詰めているため関係ないのだが、一般的には定時で閉まると言う認識だ。

 そろそろ日が昇ろうと言う時間、事務所内の書庫で書類を整理している人物がいた。彼女は勿論組合の職員なのだが、まだ彼女の出勤時間までは相当ある。にも拘らず、こんな時間に出てきた理由は――


「ん? ミホット? どうしたこんな時間に、お前のシフトまでは未だ大分あるだろう?」

「あ、お疲れ様ですドレアさん。仮眠中にすいません。うるさかったですか?」

「そんなことはないけどよ……それより何かあったのか?」

「いえ。ただ少し気になることがあって……」

「気になるって……どの道今日出てくることには変わりないんだから、それからやれば良かったんじゃないか?」

「それはそう、なんですけど……もうかなり過ぎてるから、探すのに時間が」

「過ぎてる? お前、まさか未完票を整理してたのか?」

「ええ、まあ」


 そう返したミホットに夜勤を務めるドレアは呆れた口調で返す。


 組合には幾つかの規定が存在する。

 今ミホットがこなしていた作業もそれに抵触する物の1つだ。

 冒険者とは言わずと知れたリスキーな仕事だ。当然依頼中に命を落とすこともある。それは冒険者も依頼を出す方も承知しているのだが、大切なのはそこではない。

 まず依頼を受けた冒険者が無事に帰ってくれば問題ない。問題は帰ってこなかった場合だ。

 通常依頼をする時には組合を通すことが多い。そして依頼の難易度は組合が設定するのが常だ。当然冒険者たちはその難易度が自身の実力に合ってるかを測った上で受けるのだが、前提として設定された難易度が適切であることが要求される。


 しかし往々にして冒険者が帰らないことがままある。


 もっとも遠方まで出向く類の依頼もあるため達成の是非が長期間判明しないこともある。時間的な問題で起こるトラブルを防止する目的でも使われるが、これにはもう一つ違う側面がある。

 それは依頼者の嘘か、あるいは偶発的に起こった不慮の事態によって依頼内容が大きく乖離していた場合だ。むしろ、組合的にはこちらの方にこそ重きを置いていると言える。

 何故なら対処が遅れれば人的にも経済的にも大きな痛手と成り得るからだ。それらを回避する手段として、組合は冒険者との依頼の授受が成立した時控えとなる未完票を一定期間保管する決まりがあった。


「そのためにわざわざ? 全く、お前ってホントに仕事熱心な女だな。待てよ……まさか男か?」

「……そんなんじゃないんです。ただ――」

「照れるな照れるな。ま、お前も年頃だしな」


 ミホットに最後まで言わせず途中で茶化すように遮るとドレアは踵を返して仮眠室へと入って行った。

 後に残されたミホットはその背中を静かに見送ると手に持った未完票に目を落とす。


「――そんなんじゃないんです、ただ私が、最後に見送った人、だったから」


 未完票の最後には『未達成』と記されている。報告者の名はミホット。

 日付は5年前のものだった。




 人でごった返す冒険者組合。

 その受付で依頼を終えた冒険者たちの対応をミホットが手際よくこなしていると俄かに出口の周辺が騒がしくなってきた。


(また喧嘩かしら?)


血の気の多い冒険者同士で諍いが起きるのはしょっちゅうだ。大方肩がぶつかっただの、目が合っただのの難癖から発展したのだろうと当りを付けたミホットは目の前の書類に集中する。喧嘩ならその内収束するだろうと思って。しかし騒めきは次第に大きく、いや、近づいてくる一方で、それが気になったミホットは一端手を止めて入り口付近を注視した。


 するとすっと人垣が割れ出す。そのことで原因をも察したミホットは一瞬帰還者かと考え思わず立ち上がってしまった。

 それが目を引いたのか、件の人物は真直ぐこちらへと向かってくる。そのことでようやく我を取り戻したミホットは今更ながらに恐怖心が湧き起こっていた。


(どうしよう……目立った所為で面倒なことになるかも……)


 その時ふと自身のスカートの裾を引っ張られる感覚を覚えたミホットはその先に視線を向ける。そこには同期の中では一番付き合いがあるエレノーアがいた。

 交錯した視線のお蔭で彼女の言わんとしていることを察したミホットはこくりと肯くとエレノーアもこくりと肯き、席を後にした。

 その際に掛けられた色付きの札を目にした冒険者の一部が静かに立ち上がるとゆっくりと、その人物の周囲に張り付く。


 しかしその人物はそれには構わず、と言うより気付かずミホットの方へと歩んで行った。


「すいません。これを……」


 自身と同じく薄汚れた包みを受付へとゆっくりと差し出す人物。粗末なカッパの下に服は着ていないのか、捲れた隙間からは中々引き締まった体が垣間見えた。免疫のないミホットの頬が赤くなる。が、逆に周囲の冒険者たちは気を引き締めた。


「討伐依頼の確認ですか? 少々お待ち下さい」


 一方毒気を抜かれたミホットは不審な人物ではあるが唯の冒険者であるようだと内心で胸を撫で下ろす。何時もの業務と変わらないと気を持ち直し、差し出された包みを受け取ると違和感を抱いた。


(何かしら?)


 ミホットの経験上感じたことのない感触に内心首を傾げる。しかしそれは包みを解いた後驚愕へと変わった。


「え!? し、少々お待ちを!」

「? ええ、ここで待っていますから――」

「ありがとうございます!」


 慌てて奥へと向かうミホットにその人物は首を傾げるが、そのまま大人しく待ち続けた。


 しばらく待っているとミホットはゆっくりと戻ってきた。

 その様子からは先のような慌ただしさは感じられず、極めて冷静に見えただろう。しかしその頬は少し上気しており、更に注意を払えば耳朶が赤くなっていることにも気が付く筈だ。


「……失礼致しました。依頼票の提示をお願いします」


 その言葉を合図に組合から一気に緊張感が抜けて行く。その人物の周囲に付いていた冒険者たちも力を抜くと静かに離れて行った。恥ずかしそうにそれらを見送るミホットだったが、その原因たる目の前の人物は気付いた風でもなく淡々としている。それに理不尽とは知りつつも苛立ちを覚えたミホットは今度は平坦な声で再度の提示を求めてきた。


「あー……これ、なんですが」

「拝見します」


 気まずそうに差し出された依頼票はかなり汚れており、内容を目で確認するのは困難だった。目の前の人物もそのことを気にしていたのかと納得したミホットは危険な人物ではなかったと確信し、今度こそ力を抜いた。

 完全にリラックスしたミホットは慣れた手並みで依頼票を受け取ると受付に備え付けられている器具を取ってその依頼票に押し付ける。するとその器具が光を帯び出し、次いで判別困難だった依頼票の日付と番号が浮かび上がる。

 見覚えのあるその数字にミホットは目を見開いた。奇しくも、自分が調べていた物と一致していたから。


「これ、は、あなたの……?」

「え? はい。間違いなく自分の物ですが」

「あの! あの時はごめんなさい! 私、何も分かってなくて、なのにあんな言い方して! 本当に、本当にごめんなさい!」

「は? あのー」

「あの後気付いたんです。私が何をしたのかを……だからもし会えたらちゃんと謝ろうと――」

「すいません。前にお会いしたことってありましたっけ?」

「え?」

「え?」

「「………………………………」」


 組合中の視線が集まる中、唐突に始まった独白は差し込まれた疑問によって呆気なく霧散した。


「あのー」

「……大変、失礼致し、ました。もうしばら、く、おじかん、を」

「それは構いませんが――」

「……、本当にごめんなさい」


 青い顔で奥へと戻るシホットを男は心配気な顔で見送った。




 しばらく待っているとミホットとは別の人物が現れ、対応を引き継いだ。

 先程流れた空気は微塵も感じさせないその対応は正しくプロのそれであり、その甲斐あって恙なく終了した。

 しかし組合側が用意した査定額が引き渡される直前になって、1つだけ問題が起きた。


「最後にこちらの書類を名前入りで記入して下さい」

「……名前を? 何故です」

「実は貴方が持ち込んだ証明部位には多くの魔物が混在してまして。貴方が受けていない魔物まで討伐していたために引き渡しの際にはこう言った手続きが必要になるんですよ」

「それは分かります。しかし普段依頼を受ける際には自身の名を記入する決まりはなかった筈。なのに、何故ですか?」

「確かに普段通りならそれで問題はありません。依頼票で釣り合いが取れているので。しかし今回のような場合は順序が逆となり、後々トラブルの原因となり得ることがあります。

 私共もそういったトラブルを避けるためにはこう言った手続きが必要不可欠何です。ご理解の程を――」

「分かりました」

「ありがとうございます。それではこちらにサインを――」


 如何にも気が進まない様子で書類に書き込む。

 受け付けは不備が無いかを確認した上で用意してあった報酬を引き渡した。


「それではセイさん、こちらが報酬になります」

「ありがとうございます。ところで、先程の人なんですが……」

「うちの職員が何か?」

「……特に何があった訳ではないんですが、その、あまり顔色が良くなかったようなので」

「そうでしたか。それは失礼を致しました。ですが、ご心配には及びません」

「そう、ですか。いえ、それならいいんです。不躾なことでお手間を取らせてすいませんでした。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。ちなみにセイさんはこれからどちらに?」


 丁寧な言葉遣いの中に何処か探りを入れるこの男に、セイは何だか気味が悪くなった。

 しかし特に隠し立てするようなことでもないと思い、正直に答えることとした。


「恥ずかしながら一文無しでして。今日報酬が貰えなかったら何も口に出来ない所でした。

 そうは言っても服とか防具とかを先ずは優先しなきゃならないので、やっぱり今日は何も口に出来そうもないですね」

「……ご冗談を。それだけ稼げば街で一番の宿に泊まって豪遊してもまだ余るでしょう」

「え?」

「え?」

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