プロローグ
もはや説明不要のテンプレ内容。
あまり感想お返しはできないかも知れませんが、それでも頂けると作者が喜びます。
稚拙なこの作品が読んで下さった方々にとり、せめて時間つぶし程度にはなって貰えれば幸いに思います。
ならなかった方はゴメンなさい。
境界のリンカーネーション
プロローグ
冒険者組合。
比率の所為で男臭さ漂うこの建物には屈強な男どもが犇めいている。
内外を問わずあちこちで罵声が時に殴り合う音と共に聞こえてくるが、それもここでは日常の些細な出来事であり、それ故誰も見向きもしない。
今も受付から僅かな報酬を受け取った、周りの男たちと比べて小柄な青年が罵声と共に殴り倒されるのを、しかし誰もが無関心なままだった。
「おらぁ!」
「うぐっ」
青年が倒れ込むのと同時に手の中の銅貨が床にぶちまけられる。
歪ながらも円形なそれはコロコロと床を転がり、無軌道に散らばっていく。それを目にした瞬間青年は文字通りに飛び付いてそれを阻止しようと体で押し潰した。その姿は見ようによっては懸命にそのお金を守ろうとしているようにも見えただろう。そしてそれは悪いことに彼にとっても同じだった。
「なんだぁ? てめぇ……まさかこの俺様がそんな端金を分捕るとでも言う気か? このマントル様が! てめぇ如きの稼ぎを!」
男、マントルは言ってる内に興奮したのか直ぐに激昂すると蹲る様にして這いつくばる青年の横腹にその爪先を叩き込んだ。
それが腹にめり込むと同時に短い息を吐くと悶絶するようにして引っ繰り返る。無様なその姿に集まる周囲の嘲笑を含んだ視線に、しかし青年は気付く余裕は無い。
「何とか言ったらどうなんだよああ!」
尚も執拗に蹴り続けるマントルに彼の取り巻きも危うい物を感じたのか宥めるようにして声を掛ける。そこでようやく気が収まったのか、マントルは身動き出来ない青年に唾を吐くと最後に顔面を踏みつけてからその場を後にした。
少し顔を腫らした青年はのろのろと立ち上がると緩慢な動作で銅貨を拾い集めた。それを手に握り締めると拙い足取りでその場を後にする。建物内にいた者たちはその後ろ姿に一瞥をくれたがそれ以上の関心は抱かずに直ぐに視線を外すと目の前のことに取り組み始めた。
とぼとぼと歩く貧弱そうな青年。先程冒険者組合でマントルと言う男に絡まれたこの人物は名をセイと言う。
街の誰に聞いても誰もが“そんな名は知らない”と口を揃えるであろう彼は、この街に流れ着いて以来誰とも関わらずにひっそりと生きてきた。
しかし知られていないのは名前だけで彼はこの街ではちょっとした有名人である。無論悪い意味でだ。セイがこの街に辿り着いたのはちょうど5年前だ。何処からともなく現れた彼に対し街は無関心だった。しかしそれが悪い方向に向かうのに然程時間は要しなかった。
その理由はセイの態度にある。
セイは当初冒険者となるのを極端に嫌がったのだ。冒険者の大半が食って行くために仕方なく付いたと言う側面は確かにある。しかし同時に彼らがこの街を外敵から守っていると言うのも事実だった。そしてこの街は冒険者のための街と言っても過言ではない。それは経済的に大きく依存しているのも大きな理由だったが、それ以上に彼らとの関わりを大切にすることは住民の共通認識だった。だからだろうか、セイのその頑なな態度はこの街の住民たちにとって冒険者に対する嫌悪として映ってしまった。
そのことを知らずにいたセイには勿論そんな気は毛頭なかったのだが、結果としてそう誤解されてしまった。更に悪いことにセイが探し続けていた働き口はその悉くが断られた。それでも一縷の望みを捨てられなかったセイは冒険者になった後も必死に職を探し続けた。
その態度は冒険者たちにとってははっきりと自身の在り方の否定と受け止められてしまったのだ。
セイが諦観から肚を括った頃には誰も彼の味方になろうとする者は現れなくなっていた。
まだ冒険者として右も左も分からない、そんなルーキーを先輩が声を掛けて掬い上げる。そうして冒険者としての下地を作り上げるのだが、セイにはそれが出来なかったのだ。
それでも食って行くために最も安全なランクの仕事を何とか引き受け続けて現在に至ると言う訳である。
セイは重い足取りの中、人気の少ない路地へと進み続けた。そうして辿り着いた場所の隅に無造作に積まれた石を退けると薄汚れた麻袋が顔を出した。
それを逆さにして手を出すとそこから大量の銅貨が吐き出されてきた。丁寧にそれを数えると最後に今日の取り分である銅貨を足して満足そうに頷く。再び銅貨を袋にしまうとセイは路地を後にした。
やってきたのは武器屋だった。ここは街で唯一の武器屋であり、同時に修繕なども行っている。武器の手入れの知識など知らないセイは先日柄が壊れた唯一の武器の修繕にここを訪れていた。費用は全く足りていなかったが、手持ちの全財産を前金とすることで何とか引き受けて貰い、今日晴れて残りの代金が払える分の金が貯まったので足を運んだのだった。
「おういらっしゃ……なんだお前さんか」
「ご無沙汰してます。これ、代金です。足りなかった分、持ってきました」
「へえ、そいつはご苦労なこった。どれどれ、確認させて貰うぜ?」
「勿論です。どうぞ」
手にしていた麻袋を手渡すとセイは両手を頭に乗せてカウンターから一歩引いた。
その姿に苦笑を見せると店主はセイにも聞こえるように1枚1枚丁寧に数え始める。
「……っと。残り分確かに。ほらよ。預かっていた剣だ」
「ありがとうございます」
「おうよ。……ん? まだ何かあるのか」
「ありがとうございました。お金足りなかったのに引き受けてくれて。感謝してます」
「そうか。提案なんだが、お前さん、武器を取り換えてみないか? その剣、明らかに体と合っていないだろう? お前さんさえ良ければ適当に見繕ってやってもいいぞ? 金なら気にするな。サービスするからよ」
「ありがとうございます。ですが、お断りさせていただきます」
「……理由を聞かせてくれないか?」
「俺は1人です。仮に今ここで業物を貰ったとしても討伐任務はこなせません。討伐に用いない武器を持ってても意味がないんです」
「俺が誰か紹介すると言ってもか?」
「無理でしょう。俺はずっと最低ランクだけをこなしてきました。チームの役に立てるとは思えないし、きっと戦えないでしょう。最悪俺の所為でチームが全滅するかも知れない。そうでなくとも誰かが死ぬかも知れないからです。温情はありがたく受け取ります」
そう締め括るともう一度頭を下げる。セイはそのまま振り返ると店のドアを潜り抜けた。




