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乙女ゲーム転生、三周廻って今ココ

作者: 北野皇海

ごめん魔が差した。

 自分が前世を思い出したのは、何時だかサッパリ判らない。


 何せ『設定』で良く有る、誰其れと出会った瞬間に思い出してぶっ倒れただの、転んだ拍子とか階段や木の上、崖の上から又は池や湖に落ちた弾みで思い出して高熱出して魘されて、なんて事は全く無く。

 更に言うなら、生まれた瞬間から意識があって、転生やったキタコレー! なんて思う事も無く。

 平穏無事にダラダラ元いスクスク育ち、思い出すとか共有するとかでもなく、気付いたら自分には前世の記憶が有って、でも現世の自分とも折り合いがついていて、二重人格と言うでもなく、ただの『記憶』と認識していた。


 其れでも一応気になって、それとなく調べた。何がと言えば現世の常識。


 其れと言うのも、前世の太陽系第三惑星地球の住人だった自分の常識とは全く異なる世界に生まれたからだ。魔法が存在し、竜や幻獣、妖精が存在する所謂ファンタジーな世界。


 嬉しいと思う反面、怖くもあった。所詮何の技術も知識も無い自分が、転生チートで成り上がるとは思えなかったし、何よりうっかりポロリと前世の記憶を漏らしたら、優しい両親や周囲の人間に拒絶されてしまうかも、と思うと怖かった。


 まぁ全くの杞憂だったんだけどね!


 幸いこの世界は前世の記憶を持つ人間――同一世界での記憶であり、自分のように異世界の記憶は珍しいらしい。居なくもないそうだ――が結構存在し、テンプレと思うが『迷い人』『異邦人』なんて呼ばれる、異世界人も多かった。

 勇者とか聖女と呼ばれて召喚されたり、偶々迷い込んできたり。元の世界に戻る事も出来るそうなので、それは良かったと他人事ながら胸を撫で下ろした。


 それで大丈夫だろうとは思いつつも拒絶されたらどうしよう、と言う不安を抱えつつ両親にカミングアウトしてみれば。


「知っていたわよ?」

「今更だなぁ。覚えてないか? お前、喋るようになったと思ったら直ぐに食事にダメ出ししてなぁ? 味が濃すぎるだの栄養を考えろだの……そのお陰で我が家の料理人が何れだけ苦労した事か」


 ……知らんがな。


 とまれ(ともあれ)、両親から拒絶されると言う危惧も無事に消え、それなら現世を楽しもうと勉強に魔法に剣の練習に励んだ。

 父が『我が家の料理人』と言った通り、我が家には使用人が居る。居ると言うか居ないと困るレベルの家だった。所謂貴族。然も辺境伯なんぞと言う、位で言うと侯爵とか下手したら公爵レベル。

『辺境伯』だなんて『伯』が付いているから、辺境に領地を持つ伯爵かぁ、田舎の伯爵って事ならあんまり偉くも無いんだろうなぁ等と思っていたが然に非ず。外敵から国を護る為に辺境の地に広大な領地を持つ、国王とも対等に話が出来る程の身分だった。若干地外法権有り。

 国防を担う訳だから、当然幼い頃から剣術は叩き込まれた。戦術も。楽しかったから良いけど、今にして思えば結構ハードだったと思う。そのお陰で成績優秀とされているので良いんだけど。



 さて。

 前述通りすくすく育った自分ことガーデナー辺境伯家嫡男、ヒース・ガーランド=ガーデナーの最近の楽しみは、ズバリ! とあるオモシロ連中の観察である。


 何が面白いって、自分は全く関係ないよ? 関係ないけど楽しむ分には問題ないかな、と思って観察してたんだけどね。

 二人のオンナノコ()見目麗しい貴族子息をめぐる攻防戦。これが傍から見る分にはものすっっっっごく面白い。

 一人は平民出身の子爵家庶子の少女。ふわふわした可愛らしい容姿の、守ってあげたい雰囲気の子。

 もう一人は侯爵家の末娘、凛とした雰囲気の将来美女間違いなし、容姿端麗な淑女と言って差し支えない、未来の王妃候補。つまり王太子殿下の婚約者候補の一人。

 その二人()めぐる貴族子息たちは、王太子殿下を筆頭に、以下、殿下の側近で侯爵家の嫡男、つまり侯爵令嬢の兄。宰相家の次男、将来の騎士団の有望株や魔術師団の秘蔵っ子等々。将来有望で当然美形な青少年たち。


 乙女ゲームかよ!


 ―――と思った自分は悪くない。


 因みに貴族、特に高位貴族に美形が多いのは、別段本当に乙女ゲームの世界だから、とか小説やマンガ、アニメの世界だから、と言う訳では無い。

 単純に遺伝子的にそうなる。

 だって良く考えてほしい。権力者は美形を欲する。当然その子供は高い確率で美形が生まれる。美形同士なら尚更。

 その理論で行くと何れは全世界が美形になるが、そうならないのは多分だけどその人の持つ性質に因るんだと思う。ブサイクでも性格良ければ可愛く見られる様に、美形でも性格悪ければ避けられる様に。(美形の場合は顔さえ良ければどうでも良い、と言うのが有るので一概には言えないけど)

 性格って顔に出るでしょ?

 まぁそんなこんなで美形が生まれ易いのが高位貴族な訳だ。

 因みに自分も結構顔立ちは整っている、らしい。自分では良く判らない。茶髪に榛色の瞳で、結構平凡だと思うんだけど。雰囲気イケメン、と言うヤツだろうか?

 それはさておき、あの子たちは美形が多くて勘違いしたんだろうなー、と生温い目で見てしまう。


「え、これどのゲーム? 私ってヒロイン? それとも逆ハーしたらざまぁ系?」

「いやだ、どう考えてもわたくしが悪役令嬢じゃないの。でもヒロインざまぁして逆にざまぁされるパターンも有ったわよね? どうしたら良いの?」


 この台詞、其々が別々に呟いていたのを偶然聞いてしまい、思わず心の中で突っ込んだ。


 いや、二次元じゃなくて現実だと思えよ!


 と。


 折角今まで16年間、生きて来たのに何故そこでゲームだと思うのか。


 ヒロインだと思っているふわ子(ふわふわな女の子だからふわ子。本名はフロリアナだったと思う。フローラだったかも知れない)は、デフォルト名が無いゲームだと思っていたんだろう。

 どうやら幼い頃に前世を思い出し、自分の容姿の可愛らしさに、乙女ゲームのヒロインだと思い込んだらしい。で、ゲーム開始時までにフラグを回収しようとしたのか折ろうとしたのか、色々試したけどしくじったっぽい。

 まぁしくじるよね、ゲームじゃないんだし。


 悪役令嬢だと思っている侯爵令嬢(本名はローゼリーナだったかロザリンデだったか興味無いから違ってたらゴメン)は、自分の知らないゲームだと思ったのかな? 王太子殿下と初顔合わせの時に前世を思い出して倒れたらしい。うわぁ何そのテンプレ。

 そして倒れて以降自分の立ち位置を確認したら、攻略対象(の筈)の王太子は居るしやっぱり攻略対象(の筈)の侯爵家嫡男が兄だったりで、悪役令嬢、ヒロインの当て馬だと思ったっぽい。


 そしてそれぞれがどうやら『ざまぁ系』を回避しようと努力を始めた。

 お互いが攻略対象(仮)を押し付けあっている。

 押し付けあうものだから、却って色々関わっちゃってますます深みに嵌まっている。泥舟に乗ってずぶずぶ沈んでいる状態。逃げようにも既に周りは泥沼、足を踏み入れられない。


 件の攻略対象(仮)は、実力者で権力者で美形な申し分無い資質の持ち主なんだが、どういう訳かこの二人の少女が関わると、途端にヘタレな優柔不断男に成り下がる。王太子殿下なんて、ふわ子ちゃんに会うまでは侯爵令嬢にベタ惚れだったのに、今では二人の間を揺れ動き苦悩している。そこは侯爵令嬢にしておけよ。

 他の連中も以下同文。ふわ子ちゃんが苛められていれば、侯爵令嬢の取り巻きが勝手にやった事を本人の指示した事と誤解して、いやそんな子では無かったと悶々したり。その逆も然りで、平民出身でしかも前世の記憶のせいか誰彼無くフレンドリーなふわ子ちゃんの態度が、見る人が見ればっつーか、この世界の常識としてはまぁビッチ扱いされても仕方ない、と言うヤツなのでその点でも悩んでいたり。


 此処で彼女たちが協力するとか、又は関わらずにいれば恐らく攻略対象(仮)との関係は此処まで拗らせなかった。下手に双方で関わって押し付けあったりするものだから、泥沼状態になる。


 何だか誤解しても仕方無いのかな、と思うテンプレな悩みを持つ攻略対象(仮)のトラウマをわざわざ無くしてあげるのは、トラウマ無い方が良いってのは判るけど。そのトラウマ、実は自力で乗り越えないといけないもんだって判ってる?

 救ってあげたりするから、執着される。特別視される。

 其れなのに、「何で、どうして」って、こっちがどうしてだよ!


 いやぁ~、面白いわ。



「性格悪いな、お前は」

「いやだって楽しいじゃないか、クラッち」

「その呼び方は止めろって何度言えば」

「じゃあクーぽん?」

「うわやめろ悪化した」


 さて、この会話をしている相手は他国からの留学生で(ただし三ヶ月のみ)、クラスは違えど話が合うので早々に友人となった、御多分に洩れず身分はこの学校内では無きものとする、と言うテンプレ規則の為に家名は名乗れないので、仮にクラッちと呼んでおく。

 パッと見は無造作な髪型の普通の少年だが、実は梳かせばさらっさらの金髪に青灰色の瞳を持つ美少年で、多分だけど王子様。本人は美少年も王子も肯定はしないが否定もしていない。

 何故そんな短期留学生の彼と知り合ったかと言えば、入学してから此方、楽しく観察していたオモシロ連中をやっぱりその日も観察していたら、何気なく通りすがった彼が発した一言がきっかけ。


『何あの乙ゲー』


 ポツリと呟いたその台詞に、思わずガシッと肩を掴んで確認したさ!

 そしたら案の定、彼も転生者でしかも自分と同じ国、殆ど同じ時代の出身だった。

 それ以来、会えば話して二人にしか通じない冗談を言い合う仲になった。同じ転生者の彼女たちとはそんな気にはならない。だって面倒臭そうだもの。

 自分の辺境伯子息と言う立場もあって、彼の側近らしき少年も最初は警戒していたけど今は黙認している。だって何だかんだで楽しそうだしね、クラッち。


「どうでも良いけど、良いの? クラッちの側近」

 実は彼の側近もオモシロ連中の輪に入っていたりする。本人は巻きこまれたみたいなんだよね、困惑しているのが多いし。でも相手が女性という事もあって拒絶するにもどうしたら良いか判らないみたい。

 彼女たちはどうやら側近が隠しキャラだと思っているみたいで、クラッちの事は認識しているみたいだけど、攻略対象(仮)とは思わなかったみたいだ。無理も無い話だけど、身なりが側近の方が良い物を着ているように見えるんだよ。良く見ればクラッちの方が上質な服だったり持ち物だったりするんだけど。

 クラッちに言わせれば、見てすぐ判るものに金を掛けるのは無粋なんだって。粋や風流は見えない場所で! だって。


 自分の問いに、クラッちは本を読みながら答える。

「俺に迷惑が掛からなくて、あいつが傷つかないならこれも経験だろ? …傷つけるなら容赦しないけどな」

「うわ男前! ステキ! 抱いて!」

「やめろ気持ち悪い」

 思わず叫んだら、心底蔑んだ顔で言われて自分でも鳥肌が立った。から、素直に謝罪する。

「うん、自分でも気持ち悪い。ごめんね」

「お前もなぁ……難儀だよなぁ。前世女で現世男(ヽヽヽヽヽヽヽ)って」


 ―――そう、実は自分の前世は女だった。

 乙女ゲーム云々してたんだから予想はついた?

 でも先に言ったけど、前世の自分とはとっくに違う人間だと認識しているので、自分の恋愛対象は女の子である。女の子可愛い。

 まぁ前世の知識で女の子の厭な部分も沢山知っているんだけれど、そう言うのは見て判るので問題無い。寧ろ男目線で見ると女目線じゃ普通だった行動が、きゅんきゅん可愛いかったりする。

 女の子可愛い。大事な事なので二度って古いギャグを言うくらい女の子可愛い。あ、これで三度目。


「まぁ楽しいよ? 男から女に変わるより良いんじゃないかな? クラッちだって厭でしょ? 男なのに男から告白されるとか」

「なってみないと判らないな」

 苦笑する彼は本から目を離すとオモシロ連中を眺めた。


 今、彼女たちはお互いを牽制してどうにか逆ハーレムを押し付けてざまぁでプギャーを回避しようと頑張っている。…牽制しないで素直に傍にいる一人を決めれば良いのにね。諦めなくても良いのに、と本当に思う。何で逆ハーに拘るし。


 前世で読んだ小説の中に、乙女ゲーム転生ヒロインと悪役令嬢の話が有ったけど。物凄く数多く有ったけど。

 その中の流れは、初めはゲームと同じ流れを体験するヒロイン。その後ヒロイン乗っ取りと傍観系。そして悪役令嬢が死亡フラグを回避する、ざまぁする、とどんどん派生していって、あのまま続いたらどんな話が出来たんだろう。


「多分今の流れって、三周まわってイマココ、的な所だよね」


 そう呟けば。


「三周どころか何周まわったって、この世界がゲームじゃないのは決まってる」

 脇役人生を楽しむのも良いけど、他人の人生の脇役じゃない。自分の人生の、脇役と言う名の主人公だ。勝手に他人の人生を決めるな。

 そう言って笑うクラッちがやっぱりオットコ前! なので、もう一度「ステキ! 抱いて!」と叫んだら、思いきり殴られた。

 ……冗談なのに。



 今日も明日も、彼女たちの楽しい空回りは続く。

 同じ様に自分の愉しい観察も続く。

 ―――平穏って良いね!

 

「…お前も本当は攻略対象(仮)だったんじゃ無いの?」

 あっさり離脱? 知らないよー。あー、あー、聞っこえないー!



連載の進みが悪くて逃避した。

楽しんでいただければ幸いです。


因みにネタバレタグ → TS転生


折角短編日刊ランキングに入ったので、記念にランキングタグつけてみました。邪魔だったらゴメン。作者思った以上に受かれてます(笑)


2016/07/12

久し振りに読み返したら誤字が有ったので修正。御多分に漏れず → 御多分に洩れず

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