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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 1 _ ア・パッチワークス・スクアッド
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#3

 スカーへと迫りくるのは、豚頭と熊頭の二体。

 

 アリスは他方で豚頭と戦闘中。ミントは軽機の転回に戸惑っている。

 スカーに残された選択肢は、この二体を同時に相手にする他にない。


 義手が右腿の拳銃を引き抜く。

 両手で保持し、左右のうち豚頭に狙いをつける。

 スカーにとっては、組したことのある相手であった。

 豚頭の身体はその厚い脂肪に覆われており、貫通は無意味。だが。

「お前の弱点なんぞ、とうに知れてんだよ」

 射撃。三発。うち一発が豚頭の脇腹に命中。着弾点が炸裂。

「ギイイイーッ」

 豚頭が崩れ落ち、もんどりうつ。

 ホローポイント弾。貫通力と引き換えに、命中すると相手の肉体を引き裂く弾丸である。

 スカーは経験に裏打ちされた知識により相手の弱点を見抜き、異なる弾丸の装填された拳銃を使い分ける戦闘を得意としていた。

 豚頭は血の海に沈みながらも、まだ生きている。その頭を冷徹に撃ち抜いたのは、レイチェルの狙撃だ。

「はっ、キル数はあたしのもんだ」

「勝手にしろ」

「隊長、もう一体!」

 再びミントが叫ぶ。熊頭が襲いくる。


 完全に肉薄された状況だった。

 熊頭の手は鋭い爪を持ち、相手の身体を切り裂くことに特化している。豚頭を仕留めたスカーの側面から、無慈悲な爪が振りおろされた。

 スカーは爪を義手で防ぐ。と同時に左手で左腰の拳銃を引き抜く。

 だが熊頭もそれを見逃さず、もう一方の手で払い退けた。

 鮮血が舞い、スカーは顔をしかめる。

 続けて、全体重をかけて熊頭はスカーを押し倒した。

「!」

 他方で豚頭を仕留めたアリスはそれに気付き。熊頭に照準を合わせる。二者の距離が近い。無闇に発砲しても、貫通弾がスカーに当たるおそれがある。

 慎重に狙いを定めるアリスを、しかし頭上のレイチェルはにやりと笑い、制した。

「まあ、見てなって」

組み伏せられた形のスカーであったが、その目に諦めの表情はなかった。

 右義手に力をこめ、次第に爪の切っ先をそらしていく。

 熊頭の隙をつき、スカーが腹部に蹴りを入れる。怯んだ毛むくじゃらの身体から滑り出る。地面を転がったまま、スカーは先ほど払い退けられ、地面を転がった拳銃に手を伸ばす。

 しかし無理な体勢で手が届かない。体勢を立て直すのは、熊頭のほうが早い。やはりこちらが仕留めなくては。アリスがトリガーに指をかけた次の瞬間、スカーの義手の手首が弾かれたように伸び、がっちりと拳銃のグリップを掴んだ。

 左腰のホルスター。その拳銃に装填されているのは、貫通力を増したAP強装弾。

「てめえのド頭は固ェから、こいつが必要なんだよ」

 眉間に一発。後頭部から血と体液が噴出し、熊頭は絶命した。


 “S”。その特徴は一目でわかる義手である。彼女達は戦いの傷によってそうなったのではない。元から、どちらか、もしくは両方を義手に換装して送り出される。その役割は失った肉体と同等の働きをするためではない。局所での戦い、また破壊工作などの特殊な作戦行動に長けた彼女達は、その義手に様々なギミックを仕込んでいる。精密機械並の工作活動を行うため、戦闘の際の搦め手、奥の手として使うため。まさしく自らの腕が頼りの種と言えるだろう。

 スカーの義手は、最大で20cmほども伸びる特殊な機構を有する。作戦行動において「あと少し手が伸びたなら」。そういった機会は多い。一見地味なこの機構を、スカーレットは近接戦において相手の裏をかく手段としても用いていた。


―――


「あ痛てて、そっと動かせよ、そっと」

「か、恰好つけるからですよ……もう……」

 戦いが終わり、ミントは裂傷を負ったスカーに手当てをしていた。

「それじゃいきますね……と、その前に」

「?」

 ミントの手が止まる。アリスが首を傾げる。

「レイチェルさん、あっち向いてて下さい」

「なんで!?」

「だって、視線が気になるんですもん。あの……アリスさん、ちょっとあの人を押さえつけててもらっていいですか」

「はい」

 命じられるまま、アリスはレイチェルの頬を両手で掴み、締め上げるように後ろへ捻る。

「いっ、いひゃい、いひゃい! あはま、もげひゃうって! わはったはら!」

「私も、見ない方がいいですか」

「……アリスさんは……見ても見なくても……どっちでも、いいです」

「気に障らなければ、見ます」

「そうはっきり言われても……」

「いいから早くしてくれ。これ、けっこう深いみたいなんだが」

 ごめんなさい、と謝ってから、ミントはジャケットの胸元を大きく開いた。

 白い肌と共に、あの結晶が露わになる。

 そしてミントは、スカーの傷に文字通りの“手当て”を始めた。


 掌と結晶が淡く発光する。

「ッ!」

 スカーが何とも言えぬ感覚に眉をひそめる。

 傷口が小さく泡立ち、あっという間に瘡蓋になる。“手当て”をはじめて数分も経てば、その傷は後もなくすっかり元通りになった。

 アリスはその光景を不思議そうに見入っていた。無理な体勢にさせられ、軽く痙攣しはじめているレイチェルのことも忘れて。


 “M”の特徴は二つ。一つは軽機関銃などの重量物を容易に携行できる腕力と持久力。そしてもう一つは胸元に埋め込まれた結晶だ。この結晶は、保持者にとある特殊な能力をもたらす。それは“回復魔法”だ。生体兵器である天使の細胞を活性化し治癒能力を何倍にも高めることで、軽い傷なら即座に治してしまう力。羽がなくとも、彼女達は紛れもなく戦場の天使である。この優れた能力の行使には、使用者が結晶を露出することが求められる。第二の心臓とも呼べるそれはまた相手にとって分かりやすい弱点ともいえる。だからこそチームは彼女達を守り、それによって出来た傷は魔法によって治癒される。戦場とは戦い、死ぬことが全てではない。戦い、生き抜くことが最善の手なのだ。

 ミントが分隊メンバーの傷を癒すことはなかった。降下中、彼女を残して全滅したからだ。その代わりにスカーに拾われ、そして付き従った。この人についていけば安心だ。その為に自分はこの人を守ろう。ミントは弱気な性格ではあったが、決して臆病ではなかった。


―――


「現在時刻21:00。早速で悪いが、移動するぞ。おっつけ、ここも血の匂いで他の獣人どもに嗅ぎ付けられる」

「そうしましょう」

「ええ……今日はもう休みたかったのに」

 首をごきごきと鳴らしながら、レイチェルが露骨に嫌な顔をする。

「あてはあるんですか」

「ある。まずはここだ」

 スカーは地図に指をあて、現在地点からすっと差し指を移動させていく。

 止まった先は……通信施設。


 砲台。塹壕。トーチカ。重要拠点である中心部や対空砲近辺には、強固な守りが巡らされている。その守りを崩すのに必要なのは、それを上回る、大いなる火力。


 今回、海上には突入に備え、既に揚陸部隊が構えている。海岸には防御フィールドが展開されていて、上陸は出来ない。だが天使達が降下できたように、あのフィールドは島を包んでいるわけではない。高さには限りがある。そう考えた司令部は、天使達にかつての衛星回線を利用しているといわれる通信施設の奪取を命じた。通信の回復により外部との連絡が取れれば、海上からの砲撃支援を行うための位置伝達が可能となるからだ。


 それだけではない。対空砲火により予定していた作戦行動が取れない現状、残存部隊との連絡、再編成を図るためにも通信の回復は急務になる。設備がどれだけ活かせるかは未知数ではあったが、いずれにせよ、まず通信こそが立て直しの鍵となることは間違いない。


「現時点から近いのはこのB-12通信施設だ。いきなり突っ込むわけじゃねえが、とりあえずここを目指そう。いいな」

「はい」

「は、はい!」

「りょーーかい」


 こうして、寄せ集めの天使達で構成された即席分隊は行動を開始した。


 各々が、異なる思いを有しながら。


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