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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 4 _ オペレーション・ファイアスターター
44/91

#8

 基地中央、連装対空砲の設置された、五階建ての細く高い建物。アルマを中心とした4,5号車はその真下までATVを走らせていく。獣人達が体制を立て直す隙を突いたのか、抵抗は少なかった。


「全員、降車!」

 建物の入り口を守っていた獣人を速やかに射殺すると、アルマはひらりと助手席から飛び降り、叫ぶ。4,5号車はほとんどが“A”と“S”で構成されており、例外として“M”のマゴットが一名いるのみだ。

「4号車の天使は私と来い。地上階を制圧後、一気に駆け上がり対空砲の中まで攻め込む。階数は多いが一階以外のフロアは狭い。これは電撃戦だ」

「あたしはどうすればいいの」

「一階の制圧後に中に入ってくれ。そこで負傷者の救援に当たってほしい」

「武器なんて持ってないんだけど」

「そこはシアリィがお守りします!」

 手を挙げたのはシアリィだ。

「任せたぞ」

「はい!」

 マゴットが複雑な表情をする。

「大丈夫……?」

「平気です! マゴットさまのためなら、このシアリィ、全力で戦っちゃうんですから!」

「う、うん」

「それに、もし怪我しちゃっても、すぐ治してもらうんですから……えへ、えへへへ……」

 マゴットの心配をよそに、シアリィはそう言って気色悪い笑みを浮かべた。



―――


「……皆、耳を塞いで口を開けろ。怯むなよ」

 そう伝えてアルマが懐から取り出したのは閃光手榴弾フラッシュバンだ。ATVの響かせたエンジン音は、既に建物内の獣人達を警戒状態にしているだろう。何の策もなく突入させるほどアルマは愚かな天使ではない。

 3,2,1……。入り口から中へと投擲。甲高い爆音が鳴り響く。

「突入!」

 アルマの声を合図に、武器を携えた天使達が次々と建物へ侵入する。

「制圧! 一人も逃がすな!」

 ブルパップ式の小銃を構え、先陣を切る。アルマの予想通り、入口に控えていた獣人達は閃光と爆音により見当識を失い、悶え苦しんでいた。

「う……」

 天使の一人が無抵抗の獣人に銃を突きつけ、一瞬、トリガーを引くのを躊躇う。アルマはそれを見るや、即座に小銃で獣人を殺傷せしめる。

「……すみません、小隊長」

「命を奪うことに抵抗があるのはわかる。だが今それを躊躇えば、君だけでなく他の天使達も危険に晒されるだろう。いいか、目標の達成だけに集中しろ」

「は、はい!」

「良い返事だ」

 暇を見つけ訓練に励んだのが功を奏したか、初めての作戦ながら、天使達のチームワークはそれなりに質の高いものに仕上がっていた。アルマはその後も建物中を走り回り、新兵の援護に尽力する。ここで戦力を減らすわけにはいかない。

「ひ、ひぃい!」

 別の部屋から銃声と天使の悲鳴。閃光を免れた獣人の抵抗。アルマはただちに急行し、支援に加わる。

「痛い、いたーーいいい!」

 倒した机でカバーに入った獣人が二体。こちらの天使の一人は肩に銃撃を受け、苦痛に顔を歪めている。

「しっかりしろ! 致命傷ではない。外まで後退しろ、動けるか?」

 負傷した天使はこくこくと首を縦に振る。

「外にマゴットがいる。治療してもらえ。いいな」

「は、え……あ、あの治療、ですか……?」

 天使は怯えた声で答える。マゴットの治療の恐怖が傷の痛みを上回ったか。

「気持ちはわかる……が、彼女の腕は確かだ。死にたくないなら早くしろ」

 注射に怯える子供のように、天使はおずおずと後退していく。

 一方“M”の不在は倉庫側の陽動隊に影響を与えるだろう。制圧は迅速に行われなければならない。カバーの隙を見せた獣人の眉間を正確に撃ち抜き、その後もアルマ達は次々とクリアリングをこなしていく。

「クリア!」

「こっちもクリア!」

「敵はいません!」

「……よし、残弾を確認しろ。続いて上階の制圧に入るぞ。狭い場所での戦いになる。私を先頭に隊列を組め。……訓練の通りにやれ。そうすれば必ず勝てる」

 アルマは凛とした表情で言い放ち、自身もマガジンを交換した。


「に、二階は敵はいません。その上に微弱な反応があります。……たぶん」

 アルマの後ろに付いた新兵の“R”が獣人の反応を受け、アルマに伝達する。

「いいぞ。助かる。君も一人前の天使だな」

 アルマは労うように“R”の頭をぽんと叩き、階段を駆け上がる。後に数人の天使達もアルマに続いていく。

 三階に入った瞬間、物陰から手斧を振りかぶって豚頭が襲い掛かってきた。アルマは強襲に微塵もたじろぐことなく、腰を低く落として構える。そして――。

「チェストォ!」

 腹部に向けて小銃の先――銃剣を突き出し、アルマは一突きに豚頭を貫いた。豚頭は鮮血を撒き散らし、その場に倒れる。

 背後に控えていた“R”が感嘆の声を上げた。

「こういった場合は、撃つよりも突いたほうが早い。射撃だけが相手を制圧する手段ではない。各々、自身の武器をしっかりと把握しておくように」

 度重なる戦いを潜り抜けた彼女の戦闘能力は群を抜いて高い。基本に忠実に、ただ純粋に磨き上げられたその技術は、咄嗟の判断において輝きを増す。

 生体“兵器”である天使の肉体は戦闘用に強化されたものだ。扱い方さえ把握し、使いこなすことが出来れば、決して獣人に遅れを取ることはない。それがアルマの持論だった。

 三階、クリア。続けて四階もクリア。

「最上階、敵反応は」

「何体かわかりませんが、それなりの数が。……すみません。こんなことしか」

「それだけで充分だ。各員、誤射に気をつけろ。トドメを刺すぞ」

 天使達の瞳に勇気が満ちる。


 こうして、アルマ率いる天使達は最上階の対空砲内部へと乗り込んでいった。


 ―――


 その頃、一階ではマゴットとシアリィ、そして治療を終えた天使の三人が控えていた。


「マゴットさま。あのう、なんか嫌な予感が」

 一階の窓から外を警戒していたシアリィが、不吉なことを言う。

「やめてよね……まさか、追手が来たとか言うつもりじゃないでしょうね」

「そのまさか、なんですけど」

「マジ?」

 シアリィは姿勢を低くし、短機関銃を構える。隣の倉庫から数体の影が見えた。遅かれ早かれ何らかの追撃があることは予想の範疇ではあったが、ここまで早いとは。

「大丈夫です。シアリィが守ります」

「わ、私も……」

 治療を終えて放心状態にあった天使も小銃を構える。さすがに二度目の治療で、あの感覚にも慣れたらしい。

「無理しないでよね」

 上からは小さく銃声が聞こえる。最上階に辿り着いたか。アルマ達が上階を早く制圧して、降りてきてさえくれれば。……だが、それを待たずして姿を現したのは四体の獣人。斥候か、あるいは先発隊か。

 ――その内の一体は、身体中が装甲じみた鱗で覆われた大型の獣人だった。

「しゅううううう……」

 一般的な獣人とは違う。長い鼻と鋭い爪を持ち、二本の足でどっしりと立つ獣人。あれも一種の特異種か。

「や、何ですかあれ、あのでっかいの! 堅そうなの!」

「さしずめ“アーマジロ”ってところね」

「なんです、それ!?」

「あたしが今考えた名前」

「あれじゃあ、私達の弾なんて」

「……でも、シアリィ達でやるしかないです!」

 まだこちらの位置は気付かれていない。ならば先手を取る。シアリィは短機関銃を握り、決心を固めるように頷くと、窓からその身を乗り出して射撃を開始する。

「このぉっ!」

 小気味良い音と共に短機関銃から銃弾が放たれる。隙を突かれた獣人のうち二体に銃弾がヒット。一体が頭部に被弾。ダウン。だが精度に劣る短機関銃の射撃では決定打にはならない。すぐさま銃を携えた獣人達によって反撃が行われる。シアリィは素早く窓辺に身を隠し、銃弾を防ぐ。

「私の銃なら、きっと!」

 続いて小銃を構えた天使が横から支援射撃。獣人達は即座にアーマジロの影に隠れ、小銃の射撃をことごとく回避する。

「な、なんでぇ!?」

 初手に失敗したのが響いたか。警戒に入った三体の獣人は、アーマジロを先頭にじりじりと距離を詰めてくる。

「せめてっ、一体だけでも!」

「ちょっとアンタ、迂闊に……っ!」

 焦った天使は再び窓から上半身を乗り出し、獣人に向かって闇雲に小銃を撃つ。アーマジロは受け止めるように両腕を構え、これを全て受け止める。全身を覆う鱗甲板の中でも、腕部は特に分厚いようだった。

天使はマゴットの制止に構わず、さらにトリガーを引く。

「しゅうう……」

「あっ」

 その瞬間、アーマジロの影から獣人の一体が姿を現す。手にした散弾銃が天使を睨む。

「隠れ――っ」

 放たれた散弾が、天使に牙を剥いた。天使は勢いよく窓から吹き飛び、トリガーを引きながら地面に叩きつけられる。暴発した小銃の弾丸が数発、天井に着弾した。

「ま、マゴットさまっ!」

 倒れた天使を見やり、マゴットは黙って首を横に振る。頭部を吹き飛ばされている。即死だ。

「シアリィ、もういいわ。後退するわよ」

「だ……ダメです。シアリィはマゴットさまをお守りする役目があるんです」

「見たでしょ? アンタだけじゃアイツらに勝てっこない。ましてあんなデカいのなんて」

「でも」

「逃げるわよ」

「でも、やるんです……やってやるんですからっ」

 再び窓辺から身を乗り出し、左手で短機関銃を撃つ。アーマジロは立ちはだかるように構え、冷静に射撃を跳ね返す。息のあったチームワークで、背後の獣人が身を乗り出す。

「まだですっ!」

 シアリィは咄嗟に足元の小銃を拾い、もう片方の、義手に換装された右手で射撃を行う。不意を突かれた獣人の一体が直撃を喰らい、その場に倒れる。

「これで二体目!」

「まだあと二体!」

「これだけならっ!」

 ひらりと窓の縁を乗り越え、果敢に単身で走り出す。

「シアリィ!」

 アーマジロは銃を携行しておらず、動きも遅い。ならば残る一体さえ仕留めればいい。あとは何とかなる。何とかなるはずだ。

「シアリィは、ぜったい負けたりしないんです!」

 短機関銃と小銃を構え、アーマジロに対して一直線に走り、距離を詰める。途中で素早く地を蹴り、左にスライド。背後の獣人の側部を狙う。

「やって! やるん! ですっ!」

 見えた。右手の小銃を素早く獣人に向け、狙いを待たずに撃つ。ヒット。だがまだ倒れない。続けて身体を捻り、左手の短機関銃を構える。撃つ。撃つ。ヒット。ヒット。ダウン。

 一瞬の御業に、マゴットは息を飲む。シアリィの状況判断と行動タイミングは、新兵の動きのそれではなかった。単なるやぶれかぶれの愚行か、才能の開花か、はたまた本能の為せる技か。

だが。

「……!」

 その瞬間、取り巻きを倒されたアーマジロの動きが変わった。突如として地を蹴り、シアリィの側面に向け強烈なタックルを見舞ったのだ。小柄なシアリィの身体が衝撃で吹き飛ばされる。両手に持っていた二つの銃が手放され、地面に転がる。

「しゅううう……しゅうぅーーっ!」

 アーマジロは素早く倒れたシアリィの身体に圧しかかり、その体重でじっくりと押し潰さんとしていく。長い鼻先の下からちろちろと舌が伸び、両手の爪がシアリィの顔へと向けられる。

「ぎゃああああっ!」

「シアリィ!」

圧迫され、苦痛に悶えるシアリィの悲鳴を聞き、はっと我に返ったマゴットが叫ぶ。


「が、あぐ、ぐっ……逃げ、逃げて……下さい……マゴット、さま……っ!」


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