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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 4 _ オペレーション・ファイアスターター
43/91

#7

「各員! 対空砲に注視!」

 アメリアからの情報を元に、アルマが伝令を伝える。

「スピードを上げろ! 対空砲の俯角は下には向かない! 懐に潜り込め!」

 遠くからでも聞こえるほどの物々しい音。天使達に狙いを定めるべく、連装対空砲が動き出している。これに対処するには一気に近づき、対空砲の射線から外れるしかない。


「ロミーちゃん! 後続がスピードを上げてる! もうちょっと前に出れる!?」

 コントロールできる速度はこれがギリギリだ。スピードを上げてATVの制御が出来るか。やるしかない。ロミーはアクセルペダルに置く足に慎重に力を込める。ATVのエンジンがさらに唸る。

「また中央! 基地からの射撃に注意して!」

 シャロンが叫び、構える盾の位置をズラす。ドライバー席にいるロミーの視界が狭まる。

「もう少し右!」

「くっ!」

 ハンドルを切る。タイヤがほんの僅かにグリップを失い、スライドする。シャロンはその動きを見極め盾の位置を再調整する。

 中央からの射撃。軽機が3。それから何体かの小銃手。コントロールにブレが生じたか、全ての銃弾をシャロンの盾は受け止めきれない。いくらかの銃弾はシャロンの盾をすり抜け、その内の一発は1号車後部にいたそばかすの“A”の頭部に着弾。

「あっ……」

 シャロンが振り向いた時には、“A”は力を失い、ATVから転げ落ちようとしていた。


「オードリー、前! 前!」

 前にいた1号車から天使が転げ落ちるのを、エイプリルは見た。このままでは正面衝突してしまう。2号車のドライバー、オードリーも即座にそれを確認し、避けるべくハンドルを切る。

「だァらっしゃあ!」

 ATVが土煙を上げながらドリフトし、間一髪で落下した天使を避ける。後続のATVもなんとかこれを回避。

「ああ、くそ、一人やられた!」

「オードリー。敵さんってば、まだ来るよォ」

「んがぁ! あと少しだってのに!」

「左! それから……中央! 同時に来るッスよ!」

 距離が近づくにつれ、基地からの攻撃はいよいよ激しさを増していく。コツを得たのか1号車の防御も正確さを取り戻してはいるが、それでも全ての攻撃を防ぐのは難しい状況だ。

「1号車が中央の防御に回った! こっちはその隙に左を抑えるッスよ、エイプリル!」

「りょーーかィ」

 中央に比べ左の火力は手薄。ならば先に左を潰す。ロジーナは咄嗟の判断で命令を下し、エイプリルと共に左への応射に移行する。ここで少しでも潰しておかないと、後続のATVが一方的な銃火に晒されてしまう。それは避けねばならない。

「オードリー、もーちょっと左! アタシ撃てない」

「わかったよ。無理すんじゃねーぞ!」

「誰にモノ言ってるかなァ?」

 精度を高めるため、少しでも近づく。オードリーはハンドルを切り、左前に車体を向けたままATVを前へと滑らせていく。

 射線が通った。ロジーナは身を乗り出し、狙撃銃をサイドドアに掛けてリズミカルにトリガーを引く。その背後では、エイプリルの手によって7.62mmが大量に吐き出されていく。

「エイプリル、そっち任したッスよ!」

「任されてェ」

 距離が近ければ撃たれるリスクも大きい。だがその分、奴らの姿もよく見える。二人は危険も顧みず、瞬く間に獣人達を次々と仕留めていった。


―――


 一方、基地の連装対空砲は俯角を水平まで落とし、いよいよ発射の準備に入っていた。どんな状況であれ撃つつもりだろう。数々の天使を屠り、撃ち落してきた脅威の兵器。今まさに、その重牙は再び天使達へ剥かれようとしている。

「来るぞ……総員、衝撃に備えろ!」

 二門の大口径砲が天使達に狙いを定め、そして轟音と共に榴散弾が放たれる。天使達の頭上、空気を切り裂いて通過した榴散弾は山の斜面に着弾。山が抉られ、凄まじい衝撃波が背後から小隊へと襲いかかる。


―――


 その瞬間、ちょうど体勢を立て直そうとしていた2号車へも衝撃波は容赦なく直撃した。

「うわ、っと、と!」

 ハンドルを取られ、スピンするATV。エイプリルは即座にトリガーから手を離し、振り落とされまいと銃座に捕まる。

「ッ……ど根性ォオ!」

 オードリーは叫びながら咄嗟にハンドルを切り返し、素早く体勢を立て直す。だがこれにより、防御を担当する1号車との車間に僅かなズレが生じた。

「離れてるッスよ、中央!」

 左の火線はおおかた封じた。オードリーはアクセルを踏み込み、1号車との車間を詰めるべくスピードを上げる。その直後、続けて頭上から迫撃砲が2号車に向けて降り注ぐ。スピンした2号車を狙ったか、砲弾は2号車のわずか後方に炸裂する。リカバリが少しでも遅れていれば、直撃していただろう。

「あっぶねぇ!」

「間一髪ッスね、オードリー、そのまま1号車の後ろに潜るッスよ」

「へっへへ、どうよエイプリル。俺のドライビングテクニックは」

 返事はない。

「――エイプリル?」

 オードリーが横目で見やる。エイプリルが後部でぐったりと銃座に身体をあずけていた。その後頭部と背中には砲弾の破片が大量に突き刺さっており、ぴくりとも動くことはない。

「迫撃砲……避けきれたとは言えなかったみたい、ッスね」

 ロジーナが眉根を寄せ、悔しそうに呟く。二人目の死傷者だ。短い間ではあったが、安心して役目を任せることのできた、良い天使だった。

 オードリーは何も言わず、エイプリルのゴーグルを外し、自らに着ける。

「オードリー?」

 ロジーナが心中を察し、心配そうに声をかける。

「エイプリル。テメーの命は俺が引き継ぐぜ」

 ゴーグルの位置を片手で調整し、オードリーは決意を新たに前方を睨む。

 銃火を潜り抜け、基地は目の前まで迫っている。ここまで接近すれば迫撃砲からも死角となる。後は突入するだけだ。

「やってやるぜ。……喧嘩ァ、ジョーートぉーーー!」

 オードリーはそう叫ぶと、1号車に続き勢いよくスピードを上げた。


―――


「もうすぐ基地ね。――怖い?」

「大丈夫です。シャロンさんがいてくれますから」

「ロミーちゃん、運転、とっても上手だったよ。ロミーちゃんのおかげでみんなが助かったんだから」

「でも」

 ロミーが空になった後部座席を見る。

「……わかってる。考えるのは後にしよ。今は目の前だけに集中して」

「――はい!」

 シャロンは盾を閉じ、自らの義手に収めていく。代わって右手で取り出したのはセミオートの散弾銃。シャロンの武器だ。

 右手で狙いをつける。基地入口、ゲート側。迎え撃つは数体の獣人。突入の合図を告げるようにシャロンの散弾銃が火を吹く。小銃を構えようとしていた獣人が散弾を浴びて吹き飛ぶ。

「ロミーちゃん!」

「はい!」

 ロミーはアクセルを踏み込む。勢いを増したATVはゲート前で怯む獣人を撥ね飛ばし、ポールを折って一気に突入する。

「立ち止まってなんかいられない。これ以上誰も死なせない。……必ず、生きて帰ってやるんだから」

 こうして1号車に続き、後続の4台も次々と基地へと突入していった。


―――


 基地に突入した5台のATVが急ブレーキをかけて停車していく。

「全員入ったか!? 負傷者を報告しろ!」

「1号車で一名、2号車で一名、死傷。計二名、ッス」

 低い声でロジーナが告げる。

「……そうか。だが、悔やむのは戦いが終わってからだ。総員、戦闘準備!」

 アルマがATVから小銃を取り出し、その他の天使達も武器を構えていく。

「目標は弾薬庫。そして対空砲のある建物の制圧。弾薬庫には1,2,3号車。建物の制圧には4号車と5号車のメンバーが向かう。おそらく弾薬庫側は混戦になるだろう。周りを見ろ。無理はするな」

「「「了解!」」」

 5台のATVはアルマの号令を合図に、再び発車し、二手に分かれていく。

「皆の奮闘に期待する! オペレーション・ファイアスターター! 第二段階、開始!」


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