#7
「各員! 対空砲に注視!」
アメリアからの情報を元に、アルマが伝令を伝える。
「スピードを上げろ! 対空砲の俯角は下には向かない! 懐に潜り込め!」
遠くからでも聞こえるほどの物々しい音。天使達に狙いを定めるべく、連装対空砲が動き出している。これに対処するには一気に近づき、対空砲の射線から外れるしかない。
「ロミーちゃん! 後続がスピードを上げてる! もうちょっと前に出れる!?」
コントロールできる速度はこれがギリギリだ。スピードを上げてATVの制御が出来るか。やるしかない。ロミーはアクセルペダルに置く足に慎重に力を込める。ATVのエンジンがさらに唸る。
「また中央! 基地からの射撃に注意して!」
シャロンが叫び、構える盾の位置をズラす。ドライバー席にいるロミーの視界が狭まる。
「もう少し右!」
「くっ!」
ハンドルを切る。タイヤがほんの僅かにグリップを失い、スライドする。シャロンはその動きを見極め盾の位置を再調整する。
中央からの射撃。軽機が3。それから何体かの小銃手。コントロールにブレが生じたか、全ての銃弾をシャロンの盾は受け止めきれない。いくらかの銃弾はシャロンの盾をすり抜け、その内の一発は1号車後部にいたそばかすの“A”の頭部に着弾。
「あっ……」
シャロンが振り向いた時には、“A”は力を失い、ATVから転げ落ちようとしていた。
「オードリー、前! 前!」
前にいた1号車から天使が転げ落ちるのを、エイプリルは見た。このままでは正面衝突してしまう。2号車のドライバー、オードリーも即座にそれを確認し、避けるべくハンドルを切る。
「だァらっしゃあ!」
ATVが土煙を上げながらドリフトし、間一髪で落下した天使を避ける。後続のATVもなんとかこれを回避。
「ああ、くそ、一人やられた!」
「オードリー。敵さんってば、まだ来るよォ」
「んがぁ! あと少しだってのに!」
「左! それから……中央! 同時に来るッスよ!」
距離が近づくにつれ、基地からの攻撃はいよいよ激しさを増していく。コツを得たのか1号車の防御も正確さを取り戻してはいるが、それでも全ての攻撃を防ぐのは難しい状況だ。
「1号車が中央の防御に回った! こっちはその隙に左を抑えるッスよ、エイプリル!」
「りょーーかィ」
中央に比べ左の火力は手薄。ならば先に左を潰す。ロジーナは咄嗟の判断で命令を下し、エイプリルと共に左への応射に移行する。ここで少しでも潰しておかないと、後続のATVが一方的な銃火に晒されてしまう。それは避けねばならない。
「オードリー、もーちょっと左! アタシ撃てない」
「わかったよ。無理すんじゃねーぞ!」
「誰にモノ言ってるかなァ?」
精度を高めるため、少しでも近づく。オードリーはハンドルを切り、左前に車体を向けたままATVを前へと滑らせていく。
射線が通った。ロジーナは身を乗り出し、狙撃銃をサイドドアに掛けてリズミカルにトリガーを引く。その背後では、エイプリルの手によって7.62mmが大量に吐き出されていく。
「エイプリル、そっち任したッスよ!」
「任されてェ」
距離が近ければ撃たれるリスクも大きい。だがその分、奴らの姿もよく見える。二人は危険も顧みず、瞬く間に獣人達を次々と仕留めていった。
―――
一方、基地の連装対空砲は俯角を水平まで落とし、いよいよ発射の準備に入っていた。どんな状況であれ撃つつもりだろう。数々の天使を屠り、撃ち落してきた脅威の兵器。今まさに、その重牙は再び天使達へ剥かれようとしている。
「来るぞ……総員、衝撃に備えろ!」
二門の大口径砲が天使達に狙いを定め、そして轟音と共に榴散弾が放たれる。天使達の頭上、空気を切り裂いて通過した榴散弾は山の斜面に着弾。山が抉られ、凄まじい衝撃波が背後から小隊へと襲いかかる。
―――
その瞬間、ちょうど体勢を立て直そうとしていた2号車へも衝撃波は容赦なく直撃した。
「うわ、っと、と!」
ハンドルを取られ、スピンするATV。エイプリルは即座にトリガーから手を離し、振り落とされまいと銃座に捕まる。
「ッ……ど根性ォオ!」
オードリーは叫びながら咄嗟にハンドルを切り返し、素早く体勢を立て直す。だがこれにより、防御を担当する1号車との車間に僅かなズレが生じた。
「離れてるッスよ、中央!」
左の火線はおおかた封じた。オードリーはアクセルを踏み込み、1号車との車間を詰めるべくスピードを上げる。その直後、続けて頭上から迫撃砲が2号車に向けて降り注ぐ。スピンした2号車を狙ったか、砲弾は2号車のわずか後方に炸裂する。リカバリが少しでも遅れていれば、直撃していただろう。
「あっぶねぇ!」
「間一髪ッスね、オードリー、そのまま1号車の後ろに潜るッスよ」
「へっへへ、どうよエイプリル。俺のドライビングテクニックは」
返事はない。
「――エイプリル?」
オードリーが横目で見やる。エイプリルが後部でぐったりと銃座に身体をあずけていた。その後頭部と背中には砲弾の破片が大量に突き刺さっており、ぴくりとも動くことはない。
「迫撃砲……避けきれたとは言えなかったみたい、ッスね」
ロジーナが眉根を寄せ、悔しそうに呟く。二人目の死傷者だ。短い間ではあったが、安心して役目を任せることのできた、良い天使だった。
オードリーは何も言わず、エイプリルのゴーグルを外し、自らに着ける。
「オードリー?」
ロジーナが心中を察し、心配そうに声をかける。
「エイプリル。テメーの命は俺が引き継ぐぜ」
ゴーグルの位置を片手で調整し、オードリーは決意を新たに前方を睨む。
銃火を潜り抜け、基地は目の前まで迫っている。ここまで接近すれば迫撃砲からも死角となる。後は突入するだけだ。
「やってやるぜ。……喧嘩ァ、ジョーートぉーーー!」
オードリーはそう叫ぶと、1号車に続き勢いよくスピードを上げた。
―――
「もうすぐ基地ね。――怖い?」
「大丈夫です。シャロンさんがいてくれますから」
「ロミーちゃん、運転、とっても上手だったよ。ロミーちゃんのおかげでみんなが助かったんだから」
「でも」
ロミーが空になった後部座席を見る。
「……わかってる。考えるのは後にしよ。今は目の前だけに集中して」
「――はい!」
シャロンは盾を閉じ、自らの義手に収めていく。代わって右手で取り出したのはセミオートの散弾銃。シャロンの武器だ。
右手で狙いをつける。基地入口、ゲート側。迎え撃つは数体の獣人。突入の合図を告げるようにシャロンの散弾銃が火を吹く。小銃を構えようとしていた獣人が散弾を浴びて吹き飛ぶ。
「ロミーちゃん!」
「はい!」
ロミーはアクセルを踏み込む。勢いを増したATVはゲート前で怯む獣人を撥ね飛ばし、ポールを折って一気に突入する。
「立ち止まってなんかいられない。これ以上誰も死なせない。……必ず、生きて帰ってやるんだから」
こうして1号車に続き、後続の4台も次々と基地へと突入していった。
―――
基地に突入した5台のATVが急ブレーキをかけて停車していく。
「全員入ったか!? 負傷者を報告しろ!」
「1号車で一名、2号車で一名、死傷。計二名、ッス」
低い声でロジーナが告げる。
「……そうか。だが、悔やむのは戦いが終わってからだ。総員、戦闘準備!」
アルマがATVから小銃を取り出し、その他の天使達も武器を構えていく。
「目標は弾薬庫。そして対空砲のある建物の制圧。弾薬庫には1,2,3号車。建物の制圧には4号車と5号車のメンバーが向かう。おそらく弾薬庫側は混戦になるだろう。周りを見ろ。無理はするな」
「「「了解!」」」
5台のATVはアルマの号令を合図に、再び発車し、二手に分かれていく。
「皆の奮闘に期待する! オペレーション・ファイアスターター! 第二段階、開始!」




