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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 4 _ オペレーション・ファイアスターター
42/91

#6

「ワイバーン、飛び立ちました」

「取り巻きは?」

「戻りました」

「さっき爆弾がどこから運び出されたか、見てた?」

「ここから見て左に三つ目の倉庫です。平面の、横長のでっかい倉庫」

「んじゃ、きっとそこが弾薬庫だね。アルマに伝えて。突入後はそこと対空砲の制圧から始めよう。他んとこはとりあえず後回し」

「了解」


 H-9地点、軍用基地から南に1000mほど。

 小さな山の頂上付近の森に、5台のATV、そして18人の天使が、夜明けの薄闇に紛れて静かに潜んでいた。

「ワイバーンはこちらに気付かなかったか」

「大丈夫みたいです。多分いつも通りにあたし達の拠点を爆撃しにいったものかと」

「もうあそこには誰もいないのにね。馬鹿なやつ!」

「気を抜くな。第一段階が成功しただけだ。……各員に連絡。これより三分後、1号車の発進を合図として我々は突撃を敢行する。目標はあの基地――基地、と我々は呼んでいるが、見ての通り規模は小さく、軍用の倉庫街に近い。それでもあの場所にはかなり多くの獣人達が占拠し、潜んでいるだろう。気を引き締めろ……これが本番だ」

「了解」


「レミーちゃん」

「ロミーです」

「緊張してる?」

「……はい」

「何度も言うけど、レミーちゃんは運転に集中してくれればいいからね。何があってもあたしが全部受け止めてあげる」

「……はい!」

「いい返事」


「……」

「ロジーナさん、どーしたん? 腹でも痛いの」

「オードリー? あんたさァ、いい加減、失礼じゃないの?」

「うっせーな」

「何でもないッスよ」

 偵察に行ったまま戻らない“R”。夜明けの突入。通信施設奪還作戦とそっくりなシチュエーション。ロジーナはかぶりを振り、脳裏に浮かぶ光景を払拭する。今度こそ大丈夫だ。大丈夫。きっとうまく行く。


 一分前。1号車のエンジンが始動する。2,3,4,5号車のエンジンもそれに続けて始動する。

「ギリギリまでライトは付けるな。どこから何が飛んでくるかわからん。適切な距離を取り、冷静に対処しろ。以上だ。死ぬな。生きて帰るぞ」


 三十.

 二十。

 十……五……ゼロ。


 1号車が唸りを上げ、草木を踏みしだいて発進する。


―――


「ゴー! ゴー!」

「前のクルマについていって! 木にぶつかんないでよ」

「振り落とされるんじゃねーぞ、しっかり捕まってろよな!」


 山の斜面を勢いよく下りながら、5台のATVが基地を目がけて疾走する。間もなく森を抜ける。そこから先は基地まで遮蔽物はない。斜面の勢いを利用して一気に攻め込む作戦である。

 1号車を操るロミーは、ハンドルをこまめに操作しながら木々の合間を縫うように最適なルートを通っていく。森を抜けるまでは正確なコントロールが重要だ。

 その後ろ、2号車のドライバーをつとめるオードリーは、1号車の軌跡を凝視しながら、これもまた正確なハンドルさばきを披露する。

「ひゃっほう。やるじゃァん」

「うっせえ黙ってろエイプリル! オレは集中してんだ!」

 発進から一分半、5台のATVが森を抜け、目標の基地を視線の先に捉える。スピードを調整し、作戦通りに陣形を組み、敵の迎撃に備える。

 1号車の後部座席で、そばかすの“A”が双眼鏡を覗き、激しく揺れる視線の中、基地の動向を観測する。

「――敵、気付きました! 銃座多数!」

 それを合図にロミーがヘッドライトを点灯させる。後続の4台もまた同様に点灯させる。白く光る10の瞳が眼下に目標を見据えた。


 夜明けの空にサイレンが鳴り響く。


 1号車のシャロンはベルトでしっかりと身を固定し、助手席から立ち上がる。

「ロミーちゃん、右の視界ふさぐよ! 気を付けて!」

「はい! ……あっ」

「?」

「私の名前、初めて呼んで――いえ、何でもないです!」

 シャロンが前方に左義手を構え、大型の盾を展開する。唸るエンジン音に紛れてがしゃがしゃがしゃと金属音が響き、前方視界の3分の2を覆う。ロミーは体勢を左に傾け、視界を確保する。運転に支障なし。

「左から発砲確認!」

 後部座席の“A”が叫ぶ。曳光弾の混じった銃弾の軌跡が、基地から天使達のATVに向けていくつも飛来する。ロミーはハンドルを切り返し、銃弾に割り込むようにATVを滑らせる。

「ロミーちゃん! “当たりにいく”感覚で行って!」

「了解!」

 太いタイヤが地面を噛み、1号車は力強いグリップで銃弾を受け止めに行く。シャロンの盾に当たった銃弾が火花のように散り、運動エネルギーを逸らされていく。

「言ったでしょ……あたしの盾は! 何だって! 通さないのよ!」

「次、真ん中! 倉庫の上に銃座が3!」


「うへ、盛大なお出迎えだねェ……」

 2号車の後部でエイプリルが呻く。

「エーイプリル! 準備しろやぁ!」

「わーァってるっ!」

 後部銃座に備えられた機関銃のレバーを勢いよくコッキングさせ、エイプリルはゴーグルを目元まで装着する。

「1号車が射線からズレる! そしたら最初の目標に向かって射撃開始! とにかく抑え込むのが目的ッスよ!」

 狙撃銃のスコープを望遠鏡代わりにして、ロジーナが基地側の射手を確認する。

「撃てぇ!」

 エイプリルがトリガーを引く。後部座席からけたたましい音と共に大量の銃弾が放たれ、基地倉庫の壁を薙ぎ払うように着弾する。

「ふッ!」

 ロジーナが小さく息を止め、セミオートの狙撃銃を撃つ。機関銃の掃射に射線を重ねていく。一発。二発。三発。薄闇の向こうで弾薬の交換に手間取っていた獣人の胸部にヒット。

「一体ダウン!」

 ひゅー、とオードリーが口笛を吹く。

「続けて中央! 同様に1号車が射線から離れたら応射! もうちょっと寄れるッスか!?」

「合点!」

 オードリーがアクセルを踏み込む。後輪が軽く空転し、背後に土を跳ね上げる。1号車が基地からの射撃を防ぎ、その隙を突いて2号車が応射。タイミングを合わせなければ難しい戦術ではあったが、ロミーとオードリーは驚くほど冷静にこれを成し遂げる。ここまでは作戦通り。だが次の瞬間、2号車の真横で地面が炸裂した。

「うわっぷ!」

 迫撃砲だ。曲線を描いて飛ぶ砲弾は1号車の頭上を越し、背後に守られた4台のATVを狙ってくる。

「うぎゅ……あんなもんまで持ってんのォ……?」

「あんなへっぽこ弾道、当たりゃしねえ!」

 怯むエイプリルにオードリーが檄を飛ばし、ハンドルを固く握り締める。


「各員! 車間を取れ! 迫撃砲の攻撃に注意しろ!」

 一方、迫撃砲の着弾を確認したアルマは、5号車の助手席から立ち、叫ぶ。凛としたよく通る声はエンジン音にもかき消されず、次々と前方のATVに伝わっていく。

「迫撃砲! 車間!」

「頭上に注意!」

「目の前で爆発しても慌てんなし!」

 5台のATVは緩やかに陣形を変え、迫撃砲の攻撃に備える。


 地面が再び爆ぜる。3号車と4号車の間に着弾。

「サーニャ!」

「っ……うん、大丈夫。当たってない」

「4号車! 走行に支障はないし!?」

 アメリアの状況確認に、並走する4号車の天使達は手を振って応える。4号車に乗っているのは新兵ばかりで、これの指揮も兼ねるのが3号車のアメリアだ。

「ヘタな応戦をしても無意味だし。アタシ達の役目は基地に着いてから……ロジーナ、ここは任せたし」

 2号車を睨み、アメリアが呟く。

「……?」

 ふと、その向こうにある異変に気付く。姿を現した基地の中にある、一際存在感を放つ代物……中央の建物上部に設置された連装対空砲。その砲塔が、ゆっくりとこちらに向けられている。

「アメリア?」

「……やっばいし」

 二門の砲身がその射線を次第に下げている。


「アルマ! 気をつけろし! あの対空砲……アタシ達に向いてる!」


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