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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 4 _ オペレーション・ファイアスターター
40/91

#5

「前の席、乗らせてもらうぜ」

「あーっ、ズルい! 私だって前に乗りたいのに!」

「バカ。後部の方が安全だろうが。俺が乗って、お前を守ってやるっつってんだよ」

「え……私を?」


「エー、前進がこれで、ブレーキがこれ。はっ! 思ったよりカンタンじゃねーの」

「しかし本当に動くのかなァ、これ? こんな小さいの。なんか不安なんだけど」

「これしか方法がないって言ってただろ? やるしかねーぜ」

「滅多なことにならなきゃいいんだけどねェ……」


「……ぼくたち、生きて帰れるのかな」

「大丈夫でしょ。なんとかなるって」

「銃だって、撃ったこともないのに」

「あたしもよ。むしろこれからバリバリ撃てるのよ。もっと楽しい方向にさ、ポジティブに考えなさいよ」


―――


 作戦決行を間近に控え、天使達の感情には高揚感と不安が混じっている。

「それでも皆、何だかんだでやる気だけはあんのね」

 白のペイントで“5”と書かれたATVの後部座席に座ったマゴットは、頬杖を突きながらそれを眺めている。5号車は後方に位置し、指揮車としての役割を果たすATVだ。

「こういう言い方は相応しくないのかもしれないが、我々に必要なのは気概だ。何としてでも勝って生き延びよう、というな。マゴット、よろしく頼む」

 銃剣の装着されたブルパップ式小銃を携えたアルマが応える。

「あんたも随分やる気みたいだけど」

「当然だ。何より、私自身が一番、この戦いに勝ちたいと思っている」

「星4つ、か。これで終わりなんだっけ」

「ああ。私は必ず戦いに勝ち、生きて帰るのだ。……ねこちゃんが私を待っているだろうからな」

 アルマは真顔で言う。

「……ねこちゃん?」

「ねこちゃんだ」

「……」

 アルマは真剣な表情でそれを語った。彼女が持つ前世の記憶は“自宅で飼っていた猫との思い出”であり、それのみを糧にしてこれまで奮戦していたのだという。

「……心配だ、ねこちゃん。腹を空かせてはいないだろうか。家に残った妹が世話してくれていると思うのだが、なにぶんこの目で見ないことにはな……」

 モチベ―ションにも色々あるな、とマゴットは唸る。マゴット自身の記憶は“生物学者としての知識と技能”のみであり、どう生活していたかは思い出せていない。それほど重要な事でもないが。

「あー! マゴットさま!」

 5号車の同乗者であろう二人の天使が、向こうから勢いよく走ってくる。

 そのうちの一人はシアリィだ。

「げ」

「げ、って何ですか、げ、って! ああ……シアリィは幸せです! まさかマゴットさまと同じだなんて!」

 くるくると回りながらシアリィは恍惚にふける。スリングで肩にかけられた短機関銃がそれに合わせて回転する。

「マゴットとも知り合いか。それは都合がいい」

「ちょっとアルマ、どうしてこのコなわけ!?」

「ドライバーとしての物覚えが早かったのでな。それに私とも幾度かの面識がある。信頼に足ると判断した」

 当然のようにアルマは頷く。

「大丈夫です! このシアリィにお任せ下さい! マゴットさまも小隊長も、この私が完璧な運転で華麗にサポートいたします!」

「ふふ、これではどちらが隊長か分からないな」

 子供を見るような目で笑うアルマと対照的に、マゴットはぐったりと座席にもたれかかった。


―――


 ATVは五台。陣形は前から1、2、1、1。5号車とは対照的に、先頭を務めるのが1号車。シャロンとロミー、そして残り二人の天使が乗るATVだ。

「す、すみません……私なんかがドライバーで」

「ほうら、またそういうこと言う! あたしは最初から君に運転を任せるつもりでいたんだからね!」

 シャロンが右手でロミーの肩をぽんぽんと叩く。1号車の役割は文字通りの“盾”だ。浴びせられるであろう銃撃を真正面から防ぎ、後続への被害を抑える。その運転には正確さと技術が要求される。シャロンはそれを任せる人材として、他でもないロミーを選抜した。

「ラビーちゃんは運転に集中して。後はあたしがまとめて守ってあげるから。後ろのあなたも無理に応戦しなくていいわ。後方の状況を逐次報告すること!」

「は、はい!」

 シャロンは後部座席に乗る一人の天使に声をかける。首に双眼鏡をかけたそばかすの“A”だ。拠点の観測手としてこれまで動いてきた。“目”としては心強いだろう。

 そして、彼女の隣にはいくつかのC4爆弾が入ったザックが置いてある。破壊工作用の切り札だ。突入時も突入後も、危険な役割であることは間違いない。その為の“盾”だ。シャロンはもう一度自らの義手を確認し、決意を固めた。



―――


 1号車が“盾”なら、対になるのは“矛”の2号車だ。ロジーナは前部の座席に座り、狙撃銃のスコープを調整していた。役目は選抜射手マークスマン。定点狙撃ではなく常に動き回りながら撃つ状況は、ロジーナの得意とするところである。

 後部には座席の代わりに軽機関銃が装着されている。盾が防ぎ、矛が討つ。1号車と2号車の連携は作戦の鍵となるだろう。

「よろしくぅー」

 運転席に腰掛けたのは、額にゴーグルを着けた、褐色の肌を持つ“A”だ。金色と茶色の入り混じったような髪を後ろに流し、カチューシャで荒っぽく留めてある。

「どーも、よろしくッス」

「お、あんた、もしかして隊長サン?」

「まあ……分隊長ってことになってるッスけど」

「マジか。上司じゃん」

 軽薄そうな言葉遣いの“A”だ。

「オレ、オードリー。分隊長サンは?」

「ロジーナ」

「うぃーす。ロジーナさん、チース」

 右手でさっと敬礼の真似事をするオードリー。

「オードリー、運転、大丈夫ッスか」

「バッチリ。むしろガッツリ燃えるってカンジ」

 ハンドルを叩き、オードリーが笑う。本人が言うなら問題はないだろう。

「ちょっとさァ、オードリー。一応分隊長さんなんだから、敬意ってもんを持ったら?」

 後部座席についた天使がオードリーに口を挟む。

「うるせーなー、エイプリル。オレはオレなんだっつーの」

 エイプリルと呼ばれたもう一人の“A”は、後部でガンナーを担当する天使だ。

「やっぱり、アタシがドライバーやったほうが良かったんじゃないかなァ……」

「こんなちっちゃいクルマ信用できないって言ってたのはどこのどいつだよ」

「うっさいわねェ。あんた、やるって言ったんだから、ちゃんとやんなさいよ」

「テメーもな! 間違って味方を撃つんじゃねーぞ!」

 ぎゃーぎゃーと騒ぐオードリーとエイプリルをたしなめながら、ロジーナはこっそりとため息をつくのだった。


―――


 3号車と4号車は表立って攻撃を行わず、突入後に備える歩兵輸送の役割を務める。その内の3号車には、アメリアとサーニャも搭乗していた。

 後部座席の二人はまだ来ていない。先に二人が乗り込んだ形だ。

「サーニャ、大丈夫だし?」

「うん。なんとかいけそう。ちょっとハンドルが大きいけど」

「ガム、噛む?」

「うん」

 差し出されたガムを口に入れて、サーニャはもう一度運転席まわりを確認する。

「アメリアも」

「ん」

「アメリアも、あんまり無理しないでね」

「アタシは平気だし……」

 アメリアはそう応えてみせる。だが左目の損失と定期的に疼く痛みが動きに重大な支障を及ぼしていることは、何よりも彼女が一番自覚していた。それでも、生き残るため……守るためには、戦うしかない。

「無理しちゃダメだよ」

「サーニャもね」

 4号車は新兵ばかりが乗っている。実質、アメリアは3,4号車を統制する役目だ。無用な損失は避けなければならない。

 アメリアはこの間、忘れかけていた前世の記憶を徐々に思い出しかけていた。こんな世話焼きなのは何故だろう。それは本来の性分だ。自分はきっと、以前にもこんな風だった。自分の周りにいる人を守りたい。失うことは何よりも怖い。何故? 自分はどうしてそれを怖れるのか。

「……どうしたの?」

「あっ? いや、なんでもねーし。それより気合を入れろし。やるからにゃ余計な心配は後回しにするし!」

 ぱん、と自分の頬を叩いてから、続いてサーニャの両頬をつまむ。

「むぎゅ」

「サーニャ、アタシがついてるし」

「うひゅ……わかっひゃ」

 それでも、わかっていることが一つある。サーニャは自分が守らなくてはいけない。そうしなければいけない。


 サーニャは……あのコに似すぎている。


―――


 こうしてそれぞれの想いと決意が重なる中、天使小隊は作戦の開始を待つ。

 やがて空が薄く青みがかってきた頃、アルマの声が小隊に響いた。

「まもなく作戦時刻4:30になる。これより我々天使小隊は、敵目標に向けて進撃を開始する! 『オペレーション・ファイアスターター』……作戦、開始!」

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