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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 3 _ キック・アス
24/91

#7

 鋼の塊が牙を剥き、12.7mmの暴力を絶え間なく吐き出す。

 固いコンクリートを踏みしめるスカーの足元に、飴色の空薬莢が次々と落下していく。


「ミント! 弾はまだか!」

 スカーが叫ぶ。

「はっ、はい! 持ってきました!」

 軽機を肩に下げ、両手でマガジンを抱えたミントが来る。力のある“M”とはいえ、これだけ持てば相当の重量だろう。ミントは息も絶え絶えに、大柄なマガジンをスカーに渡す。

 マガジンの口からベルトで繋がれた銃弾を引き出し、上部にセット。拳で叩きつけるように勢いよくフィードカバーを閉め、再びスカーは重機のアイアンサイトを敵へと向ける。残る獣人は7体。いずれも山羊の頭をした、細長く痩せた身の獣人。銃火器はなし。だがどれも動きが速い。

「ミント! お前も軽機を構えろ!」

「はい!」

「当てようとしないでいい。なるべく奴らの行く先を撃て。怯んだところを俺がやる」

 乾いた音と共に軽機から小口径の銃弾が放たれる。山羊頭達はしかし怯みもせず、亡者の如く一心不乱に突撃してきた。スカーは慎重に狙いを定め、トリガーを引き絞る。軽機のそれとは比べ物にならない質量が、そのうち二体をまとめて肉塊に変える。

 下からは狙撃銃の銃声が聞こえる。ルビーはもとより、レイチェルですらこの距離とスピードで当てるのは至難の業だ。

 なんとか戦力は集中させた。中には散弾銃を持ったサヴァナが待機しているが、室内戦に持ち込まれるのは避けたい。スカーは重機で丁寧に獣人を始末していく。熱をもった銃身が雨にうたれて蒸気をあげ、視界を遮る。

 狙撃銃の音が止む。代わりに建物から出てきたのは二人の天使。アメジスト、そしてアリス。アメジストは闇雲に小銃を乱射し、アリスは単身で飛び出していく。一瞬、アリスはスカーの方に視線を向ける。右。左。それから合わせて中央。ほんの数秒、無言のやり取りで連携を組む。

「ミント。俺の撃ったほうへ掃射しろ。どこでもいい。誤射にだけ気をつけろ」

「右側は」

「あの程度、アリスなら大丈夫だ。今のあいつは冴えてる。なにせ、たっぷり寝ただろうからな」

 スカーは左へ銃身を向け、トリガーを引く。ミントも合わせて射撃する。左側に固まっていた獣人達が銃弾の雨を浴び、まとめて薙ぎ払われる。

 アリスの行動も速かった。羽を巧みに使い、右側から襲いくる山羊頭を翻弄し、近距離で仕留めていく。身を翻すたび、水飛沫が周囲を舞う。本能に任せた獣人の攻撃を受けることもなく、紙一重のダンスを踊るように。

「やっぱり……アリスさん、すごい」

 軽機の照準ごしにアリスの戦いを見ていたミントがため息を漏らした。

「こっちと分担してるとはいえ、ほとんど一騎駆けだ。にも関わらず、ほとんど躊躇うこともない。頼もしい限りだが……何だろうな、たまに、俺はあいつが怖くなる」

 あまりに勇敢で、あまりに無感情。スカーは目の前で繰り広げられるそれを前に、小さな声でそう呟く。

「隊長、向こうから、また!」

 ミントが叫ぶ。森の向こうから、再び10体あまりの獣人。第三波。

「よし、体制を立て直せ。言いたいことは色々あるが、今はこの状況を打破するほかねえからな」


―――


 同時刻。エイミーは自室にこもり、ソファの上で膝を抱えていた。

「……うう」

 銃声が聞こえてくる。外はどうなっているのだろう。傍らには弾倉も入っていない小銃がひとつ転がっている。

「きひ、きひひひひ、聞こえる、聞こえる、きひひ、きひ」

 傍では、ぼろぼろになった爪を噛み続ける“ポンコツ”が不自然に身体を揺らしていた。銃声が高く鳴るたび、ひぃ! ひゅう! と奇声を上げている。

「エイミー、行く? きひひ! わたし達も行く!? お外!」

「やめて! やめてよ!」

 耐えかねたエイミーがヒステリックに叫ぶ。

 自分達の役目は建物内に入った敵の排除だ。間違ったことはしていない。

「役目……役目。役目ってなによ、リーダーはあたしなんだから……」


 スカーとの会話の後、エイミーのもとに、再びサヴァナがやってきた。

 彼女は言った。スカー達は自分達に助言をしているように見えて、実際は優位に立とうとしているだけなのだと。忘れないで下さい。リーダーはあなたなのですから、と。

 役目。そうだ。何故リーダーであるはずの自分がこんなザマになっているのか。これではただの厄介払い。今からでも出るべきか。違う。自分の役目はこの建物の中だ。役目? それはただの言い訳ではないのか? 自分がここから出ないのは――。

「エイミィイイ! わたし、やっぱりちょっと見てみたい! きひひ! お外! ね、ねね、いいでしょうううぅ?」

「や、やめてよ! 行かないで! あたしの傍を離れないでったらッ!」

 エイミーは立ち上がり、“ポンコツ”の腕を強く掴む。

「う……あ……」

「あんたの役目はあたしを守ること。これは命令なの。ここにいなさい。一緒に。あんたはあたしの飼い主よ。ずっと。そう……命令よ」

 命令。そうだ。いつだって自分は命令する立場にいた。何があっても、誰に対しても。それだけが、自分の記憶。

 エイミーは唇を噛みしめ、ただひたすらにこの状況が終わるのを待ち続けた。


―――


 第三波を退け、ようやく獣人達は撤退していった。これが全てだとは思えない。おそらく尖兵だろう。次の襲撃に備え、まずしなければならないのは……振り返りだ。


「さて」

 拠点の裏で、スカーは壁に背をもたれながら、タバコに火をつけた。

「……」

「別に責めようってんじゃない。今後のために、状況把握をしておきたいだけだ」

 横ではルビーが肩を落とし、怯えたように震えている。

「…………すみませんでした……」

「だから、謝罪はいいんだ。怒ってるわけじゃねえ」

「その……私が敵を見つけるのが遅れたのが原因で……」

「あの一件を見る限り、お前さんのレーダーは結構な感度があるみたいだ。あそこまで接近されてから気付くことになった、その理由はなんだ」

 非難しているわけではない。だが、どうしてもこういう時に声が低くなってしまうのは悪い癖だ。スカーは少しずつ、言葉を選ぶようにルビーへ問いかける。

「ですから……私の発見が」

「ああ」

「……私が……持ち場を、離れたから…………です」


 拠点を防衛するにあたり、出来得る限りの人員配置はしたつもりだった。間もなく獣人達の襲撃があった。それに気付いたのは歩哨のルビーでも見張りのアメジストでもなく、重機を構えていたスカーだ。目視が出来るまでに接近を許していた。もしルビーやアメジストが早めに敵を察知していたら、もう少し安全に対処が出来ただろう。


「離れていた? どこへだ」

「はい……アメジストのところに」

「お前達の仲がいいのは見りゃわかる。だから俺もなるべく近くに配置するようにしたつもりだ。……が」

「あの人が、調子が悪くなったみたいだ、って聞いて」

「調子が悪くなった? ――熱っ」

 驚いた拍子に、タバコの火種が指元に落ちた。

「それで私、つい、心配になって、その」

「俺が見る限り、アメジストは元気そうだった」

 言ってから、スカーは気付く。ルビーの見落としで接近を許すとなれば、目視とはいえそれだけの距離なら見張り台のアメジストが先に発見するはずだ。

「でも……」

 何か言いたげなルビーを前に、スカーはしばらく思案する。そして。


「なあ、その話、誰から聞いた?」


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