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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 2 _ ステーション・ブラボー・トゥエルブ
13/91

#7

 ブラボー班は裏手からの侵入に成功し、素早く二階へ駆けあがっていった。

 一階から散発的に銃声が響く。アルファ班も入ったか。二階には状況に混乱した獣人が数体。スカーはストックと拡張マガジンのついた三点バースト式の拳銃を構え、壁を背にして叫ぶ。

「ロジーナ、何体見える」

「3体ッス、間近に1」

 隣でロジーナが応えた。後方の警戒は双子に任せている。

「かき乱すなら今の内だ。一気にやるぞ」

「了解ッス」

 頷くロジーナと目を合わせたスカーは、ふとある事に気付き、視線を下げる。

「……ところでロジーナ、お前、他に武器は」

 スカーの視線の先には、ロジーナの狙撃銃。

「ないッス。ボクはこれで」

 ロジーナが真顔で応える。

「まあいいや、それぞれ色んな戦い方があるわな……っと!」

 スカーが飛び出した。向かうは左前方の小さな部屋。勢いよく扉を蹴り、窓際で外を警戒していた獣人の隙を突く。背中に向けて三発。再び、三発。

「クリア!」

 ロジーナは部屋を通り過ぎ、奥の廊下へ。廊下にはバリケードが組まれ、熊頭の獣人が小銃を今まさに構えようとしている。撃たせるか。反射的に息を止め、狙撃銃を構える。その距離、6m。スコープは驚くべき早さで熊頭の眉間を捉える。一発。頭部が爆ぜ飛ぶ。

 ロジーナはすぐさまスコープから目を離し、バリケードを越えるべく走る。

 飛び越えた先、猪頭が大腕を振りかぶってロジーナに襲いかかってきた。

「ふッ!」

 ロジーナは呼吸を止め、攻撃をひらりと回避。そのまま右脇からストックを突き出す。猪頭は鳩尾に直撃を受け、痛みに身を屈める。ロジーナは身体ごと狙撃銃をくるりと返し、銃身の向きを心臓部にシフト。一発。

 狙撃銃を構え直したロジーナは小さく息を吐き、再び視線を先に据えた。

「クリア。……ッス」

 その矢先、ロジーナのアンテナに反応あり。

「真下、一階に動きを確認。……サニー、サーリャ! 下から2!」


「いくよ、サーリャ」

「うん、サニーちゃん」

 声を掛け合って、双子は同じタイミングで走り出した。階段の手摺に背を預け、二人は一階から迫り来る敵を迎え撃つ。

 最初に頭を出したのはサニーだ。獣人の影が見えたのを期に、下へ向かってPDWを掃射する。影は怯んだように止まり、横から新たな影が生えてくる。同時に来た。

 背後ではスカーとロジーナが二階のクリアリングと捜索をしている。出来るだけ時間を稼ぐのが双子の役目だ。片方が撃っては引き、もう片方が再び撃つ。間隔を開けることで“一人で防いでいる”と誤認させるのが狙いだ。射撃。カバー。リロード。合図などなくとも、二人は見事なタイミングの良さを見せる。

 ややあって、ロジーナが二人の元に滑りこんだ。探索終了。無線受信機を一つ確保。

 それを機会に、双子が射撃を止め後方へ引く。先ほどのバリケードの影に隠れたのはサニーだ。どたどたと音を立て、一階から獣人が二体追いかけてくる。相手は天使一人。そう思ったのだろう、獣人達はバリケードを見るや、揃って射撃を開始する。バリケードに使われたロッカーから火花が散る。

 やがて獣人二体のうち一人が射撃を止め、リロードを開始した。

 その刹那、サニーがバリケードから、サーリャが横の小部屋から、ほぼ同時に身を乗り出した。二つのPDWが火を噴き、射撃を行っていた獣人を蜂の巣にする。

 リロードを行っていた獣人も脇腹に被弾。マガジンが音を立てて落下。それを見逃すまいとサーリャは小部屋から飛び出しブレードを展開。獣人の胸を凪ぐように斬りつけ、絶命せしめた。


 ――二人で一人。息を合わせたコンビネーションは互いを支え、何倍にも力量を引き出す。二人に“前世の記憶”はない。本当に双子だったのか、それとも赤の他人だったのか、そんな事はどうでもいい。今この時、二人は確かに通じ合っていた。


 二階を制圧した四人は三階へ続く階段を前に、マガジンの残量を確認する。

 弾を込め終えたスカーがふと横を見る。ロジーナが怪訝な顔をしていた。

「どうした」

「やっぱり……まだ施設内には確かに何体かいる。いるんスけど、なんかアンテナの調子が悪くて。ノイズが走ってるような」

「通信施設の影響じゃねえのか」

「何しろ、ほんの数メートルくらいしか見つけられないもんで。施設のせい……だといいけど」

「仕方ねえさ。ひとまずここで二人を待とう。合流したら、一気に――」


 その瞬間、一階で炸裂音が響いた。


「カバー!」

 スカーが冷静に指示し、四人は素早く物陰に隠れる。

「なんスか、今の音!」

「手榴弾だ! おいロジーナ、アメリアは手榴弾持ってたか?」

「や、キャンプに来るまでに使っちゃって、持ってないはずッス……アリスさんは?!」

「あいつも持ってねえ! じゃ、誰のだ!」

「まさか」

 はたと気付き、ロジーナが汗を流す。

「どうした」

「……実は」


 ロジーナはレイチェルと支援物資の回収に行った際の事をスカーに伝えた。

「……伝えておくべきでしたッスね。ボクのミスで」

「今言っても仕方ねえ。俺はひとまず一階を確認してくる」

「それでしたら、私達が」

 咄嗟にサニーが手を挙げるが、スカーは首を振って拒否する。

「ダメだ。お前の義手に付いてる開錠機能が上で役立つかもしれねえ。お前達は揃ってここで待て。ロジーナも、敵が残ってる中でレーダーを失うのはマズい。消去法で俺だ」

「了解ッ……――あっ!」

 ロジーナが声を上げた。

「今度は何だ!」

「敵反応複数! 一階! って、これ……逃げてる!?」

 スカーが手近な窓から外を見る。数体の獣人が施設から撤退していくのが見えた。やがて一発、遠くで狙撃銃の音が響き、逃げ出していた内の一体がその場に倒れ込んだ。レイチェルの仕業だろう。

「ちっ……レイチェルのやつ、また無駄な殺しを」

 スカーが忌々しげに舌打ちする。

「な、何があったんスかね?」

「わからん……が」

 逃げている獣人達の背を注視する。一つの懸念がスカーの頭をよぎった。

「……なあ、お三方。このまま三階に突入できるか?」

「えっ!」

 声を上げたのはサーリャだ。

「でも、合流を待つって作戦じゃ」

「そうもいかなくなった。いいか、メインターゲットの送信室があるのは三階だ。だが撤退を始めたってことは、どっかの頭のいいバカが送信機をぶっ壊しちまうかもしれねえ」

「頭のいいバカ、って……」

「それと、下の二人の銃声が聞こえなくなった。何かあったと見て間違いねえだろ」

 スカー唇を噛み、眉根を寄せた。しばしの沈黙。確かに爆発音がして以後、一階から銃撃の音はぴたりと止んでいる。

「三階に反応は」

「相変わらずノイズがひどくて。もう少し近くに寄れば見えるかもしんないッスけど」

「考えてる時間はねえ。ロジーナ。それから双子。お前らで行け」

 そう言って走り出そうとするスカーに、サニーが声をかけた。

「私、サニーです」

「そうです。それから、私はサーリャですよ、スカーレットさん」

「……オーケー。ロジーナ、サニー、サーリャ。後は任せたぜ」

 三人とアイコンタクトを交わすと、スカーは下り階段へと駆けていった。


―――


 5:20。


「ロジーナ、どう?」

 前を行くロジーナに、サニーが小さく声をかける。

「まだ反応は掴めないッス。しかも、上……なんで真っ暗?」

 ロジーナがおそるおそる進んでいく先は、窓一つなく暗い空間であった。外から見た構造上、三階は下と比べ面積が狭く、送信室くらいしかないであろうことは確認している。だが何かがおかしい。ロジーナは不安を覚えつつも、己の感度に集中しながら静かに上がっていく。

「クリア」

 ロジーナが手招きし、サニーとサーリャを呼び寄せる。

 三人は抵抗もなく、三階へ到達する……その直後、背後で勢いよくシャッターの閉まる音がした。

「ッ!」

 サーリャが振り向くが、既にぴったりとシャッターは降りきっている。

「閉じ込められた!?」

 サニーが叫ぶ。

 三人が辿り着くのを見計らっていたかのようなタイミング。


「……ホロホロホロ……ホウ。ホッホウ」


 暗闇の奥から、不気味な鳴き声。と同時に、ロジーナのアンテナがそこにいる存在を捉えた。

 緑色に光る相貌。三人を嘲笑うかのような鳴き声。

 フクロウの頭に、特殊部隊じみたスーツ。ナイフのような両爪を携えた獣人が一体。


「サニー、サーリャ。ボク、もう一つ伝達ミスをしてたかもしれないッスね」

「ロジーナ……」

「偵察は完全じゃなかった。ここには間違いなくリーダーがいた。それで、その……どうもこいつが、ここの親玉みたいッスよ」


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