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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 2 _ ステーション・ブラボー・トゥエルブ
12/91

#6

 ラズベリーはいい天使だった。


 多少気弱なところはあったし、射撃の腕に優れていたわけでもない。だが降下してから短い間に、アメリア達とすぐに打ち解けることができた。

 戦場において重要なのはムードメーカーの存在だ。降下のショックで少なからず不安になっていた双子を励ましたのも彼女だった。自身も不安ではあっただろうが、隠せる強さがあった。一日も経たない、ほんの短い間。アメリアはしかし、ラズベリーを心強い味方だと信頼した。


 死んだのは誰のせいでもない。ただ運が悪かっただけ。

 わかっている。わかってはいる。仲間の死なんて、これまでいくつも見てきた。

 それでも慣れない。やりきれない。それがアメリアの心境だ。


―――


「落ち着きましたか、アメリアさん」

「……大丈夫。なんとか」

 アリスに声をかけられ、アメリアは深呼吸をして向き直った。

 幸いにもアメリアの突撃が功を奏し、施設内へ侵攻することに成功した。外からの排除は達成しきれなかったが、後は二人でやるしかない。

 ミントは広場で待機。レイチェルは場所を変え、遠距離から迂闊な敵を仕留めるために狙いを定めている。

「予定では、私達アルファ班が一階を制圧。ブラボー班は裏扉から近い方の階段を上がって二階を制圧、私達と合流後に三階を制圧することになっています」

「あいつらはもう入ったんかな」

「銃声は聞こえませんが」

「もうアタシ達が侵入したことはバレてる。……どうすっかな」

 一階は静かだ。だがおそらくあちこちに獣人が潜んでいるだろう。

「……アリス。なんつーか、ごめん」

「何がでしょうか」

「勝手に突っ込んじゃって」

「いえ」

 アリスの本心は、表情から読み取れない。

「言いたいことあるなら、後で聞くし」

「特に問題はありません」

 不思議な奴だ、とアメリアは思った。


 進んですぐ、二体の獣人が横になった机に隠れ、攻撃を開始してきた。

 冷静さを取り戻したか、アメリアは机の薄さを見抜き、曲がり角に身体を隠しながら机に向かって射つ。アメリアの小銃は口径の大きいライフル弾を使用するモデルで、木製の机程度であれば簡単に貫通させることができる。

「クリア」

 バラバラになった机の向こうに折り重なった獣人の死体を踏み越え、先行したアリスがハンドサインを送る。施設内の廊下は狭く“A”の長所である羽を活かした高機動は不可能。慎重にいく他ない。

「アリス。こっち。無線機あったし」

 部屋を探索していたアメリアが無線機を発見した。

「私が持っていきます」

 30cmほどの大きさがある無線受信機だ。発信はできないが、島内で他に無線を発している者がいれば周波数を合わせて拾うことができる。

「無線を獣人達も使うことはあるのでしょうか」

「さあね。今まではそんなこと聞いたことねえし。まあ、お互いに言語が通じないから、受信したところで何言ってんのかわかんねーんだけど」

 アリスは無線機を肩にかけ、持ち帰ることにする。


 撃ち漏らしがないか、二人は一階を見てまわる。窓際に獣人の死体が一体転がっているのを確認した。頭部を撃たれて絶命している。先ほど外からアリスが仕留めたものだろう。

「合わせて3体。これが最後の部屋。扉がご丁寧に閉まってっから、多分誰かいるし。準備オーケー?」

 最後に残った部屋の前で、アメリアがアリスに声をかける。

「はい」

 3、2、1。

 扉を開けると同時に銃撃が始まり、二人は素早く物陰に隠れる。会議室か何かだろうか、広めの部屋の奥、ガラス窓の下、ソファと机で出来たバリケードの下。確認できたのは猪頭と豚頭の二体。その内、猪頭が持っていたのは――。

「アメリアさん」

「わかってる」

 狙撃銃。そして部屋の傍らには変わり果てた少女の死体。ラズベリーだ。

「グゥ。グガア! ガァ!」

 部屋の奥で猪頭が何事か叫んでいる。

「さっきアタシがあの銃を見て怒ったの、きっとあいつ見てたし」

「アメリアさん。挑発です」

「わかってる! ……大丈夫だし。ここで突っ込んだら思う壺だし」

 アメリアは小銃を構え、呼吸を整えた。二階から射撃していたあの猪頭は、アメリアを待ち構えるために一階に降りたのだろう。それもわざわざラズベリーの死体を横に据え、挑発を行う形で。

「も一回、行くし」

「了解」

「今!」

 二人同時に身を乗り出す。右の猪頭はラズベリーの狙撃銃。左の豚頭は小銃。狙撃銃は散発的に撃たれ、狙いが定まっていない。本来はこの近距離で撃つ代物ではないからだ。ならば、とアメリアは小銃を持つ獣人に狙いを変え、動きを抑える。カバーに使われているのは鉄製の会議机で、撃ち抜くには厚みがある。

 アメリアの射撃がソファを抉り、背後のガラス窓を割る。

「そのまま抑え込んで下さい。私が出ます」

 アリスが飛び出す。会議室。この広さなら跳べる。アリスは低く構え、羽を使い前へと大きくステップする。推進力を得た跳躍からの強襲。豚頭はその動きに照準を合わせることが出来ない。

「撃ったれ、アリス!」

 手前から奥へと薙ぎ払うような銃撃は、照準に戸惑いカバーのタイミングを失った豚頭の頭を吹き飛ばす。

「ダウン!」

 残るは狙撃銃を手にした猪頭。アメリアもまた前に出る。

 その瞬間、猪頭は狙撃銃をアリスに投げつけ、背後のガラス窓を乗り越えて外へと逃げ出した。投げつけられた狙撃銃が当たりアリスはよろめく。

「逃がすかっ!」

 アメリアが窓際に立ち、猪頭の背中を狙う。すると猪頭が振り返り、再び何かを投げた。……それは――。


「グレネード!」


 放物線を描き窓から飛び込んできたのは、本来天使側が持つタイプの破片手榴弾。

 アリスはバリケードの影に身を隠す。アメリアも気付き、咄嗟に伏せる。

 ごん、と重い音が部屋に響きわたり、炸裂する。大量の破片が部屋中を切り裂き、吹き飛ばす。壁、扉、家具、ラズベリーの死体、そして――。


―――


 隠れた位置が適切だったのか、アリスは無傷であった。素早く立ち上がり、猪頭が逃げていった窓の外に向けて小銃を構える。木々の間に入ったのか、その姿はない。

 足元を確認する。頭部から血を流したアメリアがうつ伏せで倒れていた。

「アメリアさん」

 アリスが声をかけるが、動きはない。脈を図ろうと腕を掴むと、ぴくりと動いた。

「…………まだ死んでねーし」

 くぐもった声をあげ、アメリアはゆっくりと姿勢を変えて仰向けになる。

 ――その左目に、大きなガラス片が刺さっていた。

 絶え間なく血が溢れている。手榴弾によって吹き飛ばされたガラスが直撃したのだろう、アメリアは歯を食いしばって立ち上がり、窓の外を見た。

「あいつは」

「逃走しました」

 アリスが答えると、アメリアは頷くでもなくよろよろと動き始める。

「出血がひどいです。動かないほうが」

「うっさいし!」

 背中ごしにアメリアが叫ぶ。向かった先はラズベリーの死体だ。破片の直撃を受けズタズタになった死体の傍らに立ち、アメリアは呟く。

「……ごめんね、ラズベリー」

 声を絞り出し、アメリアは膝から落ちた。アリスが素早く支える。

「後退しましょう。その傷では作戦継続は不可能です。私が同行します」

「わかってるし! アタシは一人で動ける。アリスは作戦を継続しろし」

「外に出れば残存戦力の銃撃に晒されます」

「……了解。とりあえず、外まで、お願い」

「はい」

 大量の汗が埃や土と混ざり、アメリアの顔を汚している。興奮のせいか痛みを感じていないようだが、もうしばらくすれば激痛が彼女を襲うだろう。

「アリス。あの狙撃銃、どこいったし」

「あります」

「持っていって。……あれは、形見だから」

「わかりました。撤退します。気を確かに」

 アメリアの左目に刺さったガラス片は一際大きなもので、かなり深くまで突き刺さっていた。眼球破裂、眼窩損傷。致命傷ではないが、失明は免れない。ガラス片を無理に引き抜けば出血がひどくなるおそれがある。手持ちの救急キットで対処しきれる負傷ではない。まずはミントのところに向かい、そこでの応急手当を受ける。手に負えないようならミントに同行を任せ、マゴットのところまで運ぶ。

 アリスは狙撃銃を担ぎ、もう片方でアメリアの肩を支えてその場を後にした。


 アメリアは痛みを訴えることはなかった。代わりにぶつぶつと、うわ言を呟き続けていた。

「まただ、アタシは……こんな風にして…………また……」

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