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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 2 _ ステーション・ブラボー・トゥエルブ
11/91

#5

 5:00。作戦開始。


 警備のためにベランダに出ていた豚頭の頭部が弾け飛ぶ。レイチェルの狙撃だ。

 それが開戦の合図となった。

「アリス、行くよ! ミント、とにかく弾をばら撒け!」

 残る三人は既に手前にある低い丘陵に忍び寄り、身を伏せていた。施設までは約100m。ミントは銃架で固定した軽機のトリガーを絞り、施設に向かって撃つ。コンクリの壁が直線状に砕ける。施設内の獣人もこの事態に気付き、窓や手摺から丘陵に向けて射撃を開始した。陽動の目標時間は約10分が目安。それまでに侵入するスカー達からどれだけ注意をそらせるか。アリスはマズルフラッシュを注意深く観察し、獣人の数を把握する。

「9、か、10」

「半数以上ってところね」

 銃撃の隙を見計らい、アメリアが頭を出して射撃する。アメリアの小銃は反動の強いタイプであったが、彼女はリズミカルな射撃でそれを巧みにコントロールしていく。

 タタタン。タタン。

「これで8、か、9!」

 アメリアが笑う。アリスもまた身体の向きを変え、丘陵から小銃だけを出し、最低限の乗り出しでトリガーを引く。制圧射撃だ。重ねるように、ミントも軽機で獣人の射撃を抑え込む。

「うっし、あと7秒で一旦射撃止め」

 アメリアの指示通り、二人は7秒ぴったりで射撃を止める。

 数秒後、再び丘陵に向けて獣人の射撃が開始される。

 ややあって、三人の背後から銃声。レイチェルの狙撃だ。三階の窓で小銃の乱射音が聞こえた。頭を撃ち抜かれた獣人が倒れ際にトリガーを引いたらしい。


 ――狙撃手がいる。

 この事実を分からせるだけでも、相手にとっては相当のプレッシャーになる。迂闊に射撃が出来なくなった獣人達の隙を縫い、アメリアとアリスは次のカバーポイントまで走る。

 走り際、アリスは小銃を構えたまま羽を用いて跳躍し、一階の影にいた獣人の頭頂部をかすめ飛ばした。カバーの甘さを見抜いたアリスの機転である。


 制圧射撃と狙撃を繰り返し、二人は距離を詰めていく。その間、狙撃地点に向けて射撃を試みる獣人もいたが、場所を移動していたレイチェルによって射殺された。

「推定敵数、残6ないし7。主に一階と二階にいると思われます」

「オーケー。次のタイミングでまた突っ込むかんね」

 アメリアが顔についた土をぬぐい、白い歯を見せて笑う。

 その瞬間、甲高い特徴的な音と共に、アメリアの背後に一発が着弾した。

 アメリアの動きが止まる。

「……アメリアさん?」

 アリスが問う。するとアメリアは施設をきっと睨みつけ、低い声で呟いた。

「アリス、今の音、聞こえた?」

「はい。おそらく獣人の狙撃銃の音かと」

「獣人の、じゃない」

「?」

「あれは“あいつらの銃”じゃねえし。……あれは……あれは、ラズベリーの銃だし」

 再び、甲高い銃声が響く。射撃地点は二階。ミントを狙ったのだろう、背後で悲鳴が聞こえたが、着弾点は数mもズレている。向こうから狙撃される脅威はないようだ。だが。

「――こんの、クソボケどもがぁ!」

 突如、アメリアが怒声と共に飛び出し、二階に向けて小銃を乱射しながら走っていく。予期せぬ事態に、アリスとミントはアメリアの援護に回りつつ後を追っていった。


「……何だってのよ、あのビッチ」

 スコープごしにアメリアの背を見ながら、レイチェルは毒づいた。予定にない行動。

 狙撃地点を変えるべく、木々の合間を駆ける。陽動を開始してから9分。このまま予定通りに完遂していれば、もう少しは引きつけられたはずだ。

「ったく、どいつもこいつも!」

 新たな狙撃ポイントにつく。――まあいい。それでも構わない。何があろうと、自分は獣人の頭をブチ抜ければそれでいい。レイチェルは一つ深呼吸をし、冷徹に弾を込めた。


 ―――


 5:10。


 建物の向こうで断続的な射撃音を聞きながら、ブラボー班の4人は静かに扉の前についた。足元には眉間から血を流した豚頭の死体が転がっている。サプレッサーのついたスカーの拳銃によるものだ。表側で異変があっても最低限の守りだけは残していたらしい。

「扉の向こうに生体反応。数、2、ッス」

「まず俺から突っ込む。サニーとサーリャは援護。ロジーナは制圧後に続いて入れ」

「「はい」」

「了解ッス」

 扉に右手をかけ、左手で三本指を立てるスカー。

 3、2、1。

 勢いよく扉を開ける。目の前には小銃を持った熊頭が一体。

 固い頭蓋はサプレッサー拳銃の弾では貫通出来ない。スカーは照準を肩から腕に向け三発射撃する。左肩に二発ヒット。

 構えようとしていた熊頭は動きを抑え込まれ、くぐもった声と共に怯む。

「サニー!」

 スカーが叫ぶやいなや、その右脇から低い姿勢でサニーが飛び出る。熊頭の視線がサニーに移り、残った右手で小銃を構えようとする。だが片手でのホールドでは、小柄で素早いサニーに照準を向けることはかなわない。

「サーリャ!」

 続いて左脇を走り抜けたのはサーリャだ。左腕からブレードが展開。狙いはサニーに気を取られた熊頭の首。サーリャは勢いよく身体を捻り、ブレードを振り抜く。熊頭は叫び声を上げることすらできず、一閃で首を刎ねられた。

 あと一体。スカーは瞬時に周囲を見渡す。曲がり角から身を乗り出す影。獣人だ。扉を開けるわずかな音で気づいたらしい。小銃がこちらに向けられ、構えることもなく腰だめで撃ってくる。

 双子は同時に左右に分かれ、これを避ける。スカーは腰を落とし、銃弾をかいくぐって獣人へと走る。サプレッサー拳銃を投げ、義手が右腿の拳銃を掴む。おそらく銃声は施設に響いた。サプレッサーは不要と判断。近距離からのホローポイント弾で仕留める。

「ふっ!」

 勢いのまま獣人に蹴りを放つ。だが獣人はよろけない。猪の頭をした、2mはあろうかという巨躯の獣人。

 スカーが胸部に照準を合わせた瞬間、トリガーを引く手が一瞬止まった。……防弾ジャケットだ。AP弾の拳銃に変える時間も、狙いを変える時間もない。ためらわず射撃を行う。だが貫通力のないホローポイントでは――。

「ぐっ」

 ジャケットごしの衝撃力に怯むこともなく、猪頭は銃床でスカーを殴りつける。左肩にハンマーで殴られたような痛みが走る。

「「スカーさん!」」

 猪頭に小銃を突きつけられるスカーの背後から双子の声。左右から二つのPDWが軽快な射撃音を響かせる。ジャケットで守られていない側部をついたクロスファイアだ。叩き込まれる5.7mm弾は猪頭の臓腑をかきまわす。

 それでも猪頭は倒れず、小銃をスカーに向けて撃たんと試みる。しかしスカーは双子の同時射撃の隙をつき、既に左手の拳銃を猪頭の眉間に向けていた。

 血走った目をした猪頭と視線が交錯する。

 スカーは微塵も臆することなく、冷徹に引き金を引いた。


「だ、大丈夫ですか。怪我はないですか、スカーさん?」

 スカーの打撲痕を心配そうに見ながら、サーリャは声をかけた。

「問題ねえ。だがもうちょっと強く殴られてたら、骨くらいはやられてた。あいつ、ご丁寧にジャケットを着込んでやがったな」

 スカーは痛みに汗をかきながら、拳銃のサプレッサーを外し、左胸元に納める。それと入れ替えるように後腰部から取り出したのは、拡張マガジンと折り畳みストックのついたモデルだ。

 追手はない。猪頭との交戦で銃声は響いたが、陽動のおかげか気付かれることはなかったらしい。

「無茶するからッスよ」

 ロジーナが釘を差す。

「ミントと同じこと言いやがる。俺にはこういう戦い方しかできねえのさ。散弾銃も短機関銃も試したが、ダメだった」

「それで、そんなたくさん」

「格好良いだろう?」

「はあ……」

 スカーがそう言って笑うと、ロジーナはただぽかんと口を開けた。


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