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フォーリン・エンジェル  作者: 黒周 ダイスケ
Chapter 2 _ ステーション・ブラボー・トゥエルブ
10/91

#4

 3:30。


 持ち運びきれなかった降下物資を回収するべく、ロジーナとレイチェルは作戦時間前にキャンプを出て、物資のポイントまで向かっていた。

 主な目的は弾薬だ。双子のPDWに用いる5.7×28mm弾、ロジーナとレイチェルの狙撃銃に用いる7.62×51mm弾は回収していたが、使い手のいなかったアリスとミント用の5.56×45mm弾(アメリアの小銃は7.62×39mm弾を使用する)やスカーの拳銃に用いる9×19mm弾は、一度目では不要と判断し回収をしていなかった。

「なんでここまで武器がバラバラなんスかねえ。統一した方が楽だってのに」

「あたしは楽しいけど。色んな武器が見れるし」

「楽しいもんじゃないッスよ、こんなん」

 ロジーナは肩をすくめる。

「ところであんた、セミオートの狙撃銃なんて無粋なモン使ってるわね」

「悪いッスか」

「そんなんじゃ正確に狙えないじゃない。やっぱ一撃必中のボルトアクションよ、狙撃銃ってのは!」

 ロジーナは眉をひそめる。

「銃なんて当たればいいんスよ。大体、そんな遠くから撃つことなんてないのに」

「あんた、今までどうやって撃ってきたのよ。狙撃なのに遠くから撃たないってどーゆーこと?」

「……そんなに言うなら、試してみるッスか?」

 不遜なレイチェルの物言いに、ロジーナは少しだけ苛立っていた。

「何よ」

 刹那、ロジーナは振り返ると同時に狙撃銃を構える。

 コンマ数秒の間に、その銃身はぴったりとレイチェルの眉間に向けられていた。その距離は2mにも満たない。

「……」

 レイチェルは顔をひきつらせ、おどけたようにホールドアップした。

「わ、わかったわよ。突スナ、ってやつなのね、あんた」

 わけのわからぬ事を言うレイチェルに毒気を抜かれ、ロジーナは銃を降ろして再び歩き始める。

「とつ……? まぁ、とにかく、ボクだって、ボクなりにやってきたんスよ」

 ロジーナの右側頭部から生えたホイップアンテナは、レイチェルの角に比べて感知距離が大きく劣っている。代わりに、一度捉えた反応に関しては微細な動きすら遅延なく把握し続けることが出来る。ロジーナはこの特性を活かし、狙撃銃を用いた近接戦という変則的な戦法を習得していたのであった。


 キャンプから降下物資のポイントまでは歩いて約15分。その間の敵反応はなし。

 降下物資は他の天使にも獣人にも見つけられた痕跡はないようだった。

「5.56mmがこれに、9mmがこれ。あと……お、まだレーションあるじゃーん」

「さっきは全部持っていけなかったッスからね。あっ! それ、チョコレート!」

 天使は食事を必要としない。よってカロリー補給も不要のため、ここでいうレーション(食糧品)はどちらかといえば嗜好品の類が多い。ガム、タバコ、チョコレート、ゼリービーンズ(他にもナプキンや浄水剤など)。特に甘味は戦場のストレスに対し、大きな効果を発揮する。

「作戦前に、ちょっと皆にも分けてあげなきゃいけないッスね」

「じゃチョコレート、あたしのもんね!」

「嫌ッスよ。ボクだって大好きなんスから!」

 わいわいと騒ぐ二人。

「……そういえば、レイチェル、手榴弾見てないッスか」

 思い出したように、ロジーナの動きがぴたりと止まる。

 室内戦となる今回の作戦において、手榴弾は突破への大きな鍵となる。弾薬があるなら手榴弾もあるはず、そう考えていたロジーナだったが、いくら探しても見つからない。

「見てない。このパックには入ってなかったんじゃないの」

「……そういうもんスかねえ。まあ、無いならいいんスけど」


―――


 4:00。


 長い夜が終わった。

 ひとまず作戦前の景気づけにと持ってきたレーションを取り分け、作戦前の一服を済ます。結局、チョコレートはレイチェルとロジーナ、双子で分けた。スカーとマゴットはタバコ、ミントはゼリービーンズ、アメリアはガムを取った。アリスは特に何も求めなかったが、アメリアからガムを押し付けられた。


「開始時間は5:00。目標はB-12通信施設。扉は北と南に二か所。開けた土地のある南側を表とし、反対を裏とする。施設内は三階立て、地下はなし。獣人は約十三、四人程度と確認済。見慣れた豚頭に熊頭。それから打たれ強い猪頭がいる。また決行に当たり、九人を次のように分配する。アルファ班はアメリアを班長とし、アリス、ミント、レイチェル。ブラボー班は俺を班長に、サニー、サーリャ、ロジーナ。マゴットは後方で負傷者の救護に当たってもらう」

 暫定的に連隊長となったスカーが、地図を手に指示を行う。

 作戦はこうだ。まずアルファ班が表から進攻し、敵の注意をひきつける。その間にブラボー班が裏より侵入、アルファ班と挟撃を行う。スタンダードな作戦である。

「メインターゲットは三階にある送信室の占拠。サブターゲットは施設内にいくつかある無線受信機の奪取。中には残された自衛用の武器があって、獣人共もそれを持ち出してると聞く。自動小銃が中心で固定機銃等はないことは確認してるが、充分注意するように。質問は?」

 サニーが手を挙げる。

「一度強行偵察を試みたわけですし、向こうも私達がくることを知ってると思います。どういった対策を取ってくることを予測してますか」

「わからん。正直、出たとこ勝負だ」

「ただ、ボク達が調査した限り、指揮が取れてる感じはしないし、リーダー格となるような存在はいなかったッス」

「施設防衛に際して警備部隊が残されたか。だが数は向こうの方が上だ。油断するなよ」

「「「了解」」」


―――


 4:10。

 連隊はキャンプを解体し、最低限の物資を残して、残りは置いていくことにした。

 大きな赤い十字のテントは、ミントとアリス、アメリアが解体している。

 それを横目で見つつ、スカーと双子は作戦準備のため、武器や義手のチェックを行っていた。

「弾があってよかったね、サニーちゃん」

 紙製の弾薬箱から弾を出しながら、サーリャが言う。双子が扱うPDWは強力ではあるが、ほぼ専用の特殊な弾薬を使うため他人からの譲与(あるいは回収)で供給されることが少ない。今回のように支援物資からの補給が主で、それでさえ見つけられるかは運による。

「ついでにおっきなテントと、甘いものまであって。運が良かったのかな」

「……そうだね」

 朗らかに笑うサーリャに対し、サニーの顔はどこか物憂げだ。

「どうしたの?」

「ううん。なんでもない」

 キャンプにおあつらえ向きの大型支援物資。運が良かった。それだけだろうか。

「何か思うところがあるみてぇだが」

 横でマガジンに9mm弾薬を込めていたスカーが口を挟む。

「とりあえず今は目の前の作戦に集中しろ。俺だって他人の面倒見きれるわけじゃねえからな」

「はい」

 サニーは頷いて、再び武器のチェックにうつる。

 スカーはポーチからサプレッサーを取り出し、右腿の拳銃に装着する。

 思うところがあるのは彼女も同様だ。だが今は作戦に集中することが最優先。どんな状況であれ、活かせるものは活かし、臨機応変に対処しなければならない。

 ……さもなくば、待つのは死だ。


―――


 4:50。


 空が仄かに明るみを帯びてきた。既に班は二つに分かれ、ブラボー班は迂回しつつ裏手に移動している。

 陽動を担当するアルファ班は開けた土地の手前に待機中である。

「ミント、あんた隊長いなくて大丈夫なの?」

 木に登り身を隠したレイチェルが、足元のミントに訊ねる。

「な、何とか……やってみます」

 ミントは軽機のグリップを握る手に力を込め、頷いた。

「軽機持ちは狙われやすいから、隙を見て場所を変えろし。ついでにレイチェルもね」

「わーってるっつーの。伊達にキル数稼いでないわよ」

 アメリアの言葉にレイチェルは手を振って応える。

「アリス。あんたは私の援護に回って。あくまで陽動だから、あんま無理すんな」

「はい」


 やがてアメリアが時計を確認する。4:55。まもなくだ。ブラボー班はどうなっているか、無線もない状況では確認のしようもなく、ただ信じるしかない。

「ラズベリーのやったこと、無駄にはさせねーし」

 アメリアは静かにそう呟き、小銃を力強くコッキングさせた。

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