転性前の自分
プロローグ
「もし、この世界がゲームの中だったら、葵はどうする?」
クラスメイトからの突然の一言はその時の俺にはわからなかった。
ファイル1 転性⁈
「葵ちゃん‼︎」
と、言われるのが葵は嫌だった。この17年間親以外何度ちゃん付けされ、からかわれたことか……。こんな名前じゃなければもっといい生き方ができていたのに……‼︎と思っていたある日一人の少女が転校してきた。愛咲 美姫という少女はとにかく可愛いくて、綺麗だった。艶やかな黒髪に優しそうな風貌。もろ葵のタイプだった。美姫は大手企業会社の令嬢で社長である父親が出張のため、転校してきたのだという。彼女は誰にでも優しく、そのために誰からも愛されていた。葵はなんと嬉しいことに彼女の隣の席だったのだ。クラスの奴等の視線は怖かったが……(特に男子)
美姫は大きな瞳で葵をじっと見つめた。
「園崎 葵くんだよね!私は、愛咲 美姫。よろしくね‼︎」
にこっと可愛いらしく笑う彼女に葵は凝視できなかった。それに名前を覚えてくれていて君付けしてくれたのが何より嬉しかった。その時から彼女の虜になっていた。
それから二人は授業中など話すようになり仲良くなっていった。
「先輩がね、しつこく私に告白してくるの。それからね……」
と恋愛事情に葵はムカムカさせながら、話しを聞いてアドバイスをしていた。
(なんで、俺が恋愛話の相談相手にならなきゃいけないんだよ……)
深いため息をつく。
「ね、葵!聞いてるのぉ〜」
不機嫌に睨まれる。教壇では先生がわけのわからない公式の説明をしていた。
「っさいな。ちゃんと聞いてるじゃないか」
「嘘。だって、葵、ぼぉーっとしてたもん!」
ぷくぅっと可愛いらしく頬を膨らませた。
(可愛いすぎるんだよ……‼︎)
照れ隠しで相手は美姫から視線を離す。
「聞いてたよ……あれだろ?また、30人くらいに告白されたんだろ……」
「それはそうだけど……ちがーう。今日ね、また一緒に帰ってくれる?話しがしたいの」
当たり前だ!というのを抑え、平常心、平常心と自分に言い聞かせる。
「い、いいけど……。また、生徒会長とかに捕まらないだろうな」
イケメンしか入れないという(イケメンなんか嫌いだ)生徒会役員達は美姫によく絡んでくる。そのため、折角美姫と帰れるのに、放課後まで付きまとってきて最悪だった。
「大丈夫だよ〜!今日は生徒会の仕事が山ほどあるって言ってたから」
(よっしゃーァァァ‼︎)
心の中でガッツポーズ。
見たか、イケメンども!俺の勝ちだ‼︎
「あー……でも、明日は、一緒に帰ろうって言われちゃった……」
美姫はバツ悪そうに人差し指で頬をかく。
(イケメンなんか……嫌いだ……)