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Ⅰ.遊興リスキー


 どくん、どくん、と心臓が脈打つ。


 どくん、どくん。耳の隣で鳴っているような大きな音に、かたかたと、ぬいぐるみを縫う手が震えた。

 赤い糸は血管を表しているとの一説もあるが、まったくよく言ったものだ。余った糸をぬいぐるみに巻きつけて結べば、かなりの不気味さに仕上がった。


 本来なら可愛らしいはずの猫のぬいぐるみ。ごめんね、私のために犠牲になって。



「最初の鬼はカンラだから、最初の鬼はカンラだから、最初の鬼はカンラだから」



 水の張った風呂桶に、ぬいぐるみを浸ける。見慣れた黒いそれはあっという間に浸水され、どこかみすぼらしい形に変容した。

 次は、どうするんだっけ。焦るな、私。落ちつけ、落ちつけ。ああそうだ、明かり。


 家中の明かりを全部消して、テレビだけ点けて。テレビは耳障りにも砂嵐だった。けどそれでいい。

 目を瞑って十秒数える。いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち、く、じゅう。


 目を開ける。

 相変わらず目の前ではテレビがざあざあとうるさくて、それでも私は台所に向かって包丁を取りだした。


 風呂には変わらない姿のぬいぐるみがいて、当たり前のことなのに妙に安堵する。



「ノンちゃん見つけた」



 ずぶりと、ぬいぐるみを突き刺す。

 ぬいぐるみの中からじわりと水が染みだして、まるで本当に人を刺したみたいで、全身の毛がざわりと逆立った。



「…………次はノンちゃんが鬼だから」



 でも、やめない。

 やめちゃいけない。


 私はすぐに踵を返すと、クローゼットまで走った。もとからそこに隠れると決めていたから、邪魔なものはすべてどけていたし、隠れやすかった。ただ、コップの中の塩水をこぼさないようにとは気をつけていたけど。


 どくん、どくん。

 心臓が跳ねる。違う。恐怖じゃない。私は緊張しているだけ。だから怖くない。

 こんなの、ただの度胸試しじゃない。怖くない怖くない怖くない、怖くないったら!


 ぎしり、と床が軋んだ。


 びくりと、肩が大袈裟に跳ねる。

 必要以上に息を潜めて、その音を聞いた。

 …………今、家には、私以外、誰もいないのに。


 その音はまるで探し物をしているような体だった。少し歩いては止まって、少し歩いては止まって、

 テレビがずっと、うるさい。


 ざあああああああ。


 ぎし、ぎし。


 ざああああああああああ。


 ぎし、ぎし。


 そうだ、塩水。

 終わらせよう、終わらせなくちゃ、もう外聞とかどうでもいいから、早く終わらせて、さっさと終わらせて、塩水を口に、


 ぎしり。


 ざあああああああああああああああ。


 止まって


 ざああああああああああああああああああ


 ざああああああああああああああああああああ


 ざああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

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