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とあるところに、紅梅色のパーカーがトレードマークの少女がおりました。彼女は仲間内から「あかずきん」と呼ばれています
ときは戦乱。とある皇国が独断で発した魔女狩り令に端を発する、群雄割拠の大乱世。その中で中小国家ながらも豊かな資源と、いまだ荒れ果てていない大地を持つ国、彼女の生家はその国に置いて偉い軍人さんを数多く輩出する名家でした
彼女の祖母は女性でありながら総司令官を務め、戦乱の中も自国を守り続けたいわば英雄です。そんな祖母も今ではその席を娘に譲り、森の中で隠居生活を送っておりました。
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「あぁ、せめてこのパーカーは基地に置いて来たかったわね。人目につかないからいいものを・・・まったく、イメージ戦略も考えものだわ」
ため息をつきながら森の小道を歩くあかずきんは、パーカーの内側に町娘の着るようなクリーム色の簡素なチュニックにカーキ色のシンプルなスカートを着ています。目深にかぶったフードからは美しい栗色の髪がこぼれて雰囲気から愛らしさがにじむようです。そんな中ひもを内側に収納した膝までの茶色いレザーブーツがまるでそこだけ使い込んだようにアンバランスでした。
「でもまぁ、パーカー脱ぐだけで一般人にまぎれられるのは利点だわ、おばあさまみたいに全身白色で固めて戦場に行くなんてぞっとしないけど、トレードマークが有名ってのはわるい気しないわねー。腐れ上官様がいちいち突っかかってきさえしなければ」
周囲に誰もいないのをいいことに、普段はうかつに口にできないことをザラザラと呟いて歩きます。おもに上司と同僚への愚痴です
森の小道は柔らかな日光が差し込んで木漏れ日が揺れ、道の上に開けた空は抜けるような晴天。どこからか聞こえる小鳥のささやきに、ささくれ立っていた少女の心も軽やかになっていくようで、いつしか愚痴は止まり、ついには歌を口づさみ始めました。
「♪~♪♫~」
(天気いいわねー・・・どうせだからおばあさまに花でもつんでいきましょうか、森の中に華やかなものなんて有ったかしら、第一植物って何がどれだかさっぱり分からないのよね)
まぁいいかと軽やかな気持ちのまま懸念事項はぽい捨てし
歌を歌いながら少女はお目当ての花の群生地へと寄り道します。
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所変わって少女の後方100地点、小道わきの大木を背に一人の男が少女の様子をうかがっています。
彼は敵国に雇われた傭兵で、その昔は今は亡き国の、銃に喰らいつく狼のマークで知れ渡った名のある部隊の一員でした。
彼は今、隠居を名目にその姿をくらませた元総司令官である壮年の女性の暗殺任務についています。長い間の潜伏と情報収集で、今日女性の孫娘が女性あての荷物を届けに行くことを知ったのでした。
(あの少女、さすがは名門の出と言うことか、中々に隙がない)
しかしながら今日のターゲットは少女ではなくその祖母。警戒するに越したことはありませんが、少女自体はさしたる障害にもならないと彼は判断しました。
(ん?道を外れたな・・・気が付かれたか?)
彼はハンドガンのセーフティを解除し、スライドさせていつでも打てるようにします。本当はスニ―キングが得意ではありませんが、プロと言えばプロなので失敗する気はありません。プライドの高い狼なのです
(花・・・いや、たしかあれは止血用の薬草だな、あっちは木イチゴか・・・あーなるほど、花束か、へぇ・・・軍人とは聞いていたが所詮はこむす・・・・おいまて、おい、毒草ってあの譲ちゃんは何考えてんだ、どんなチョイスの仕方だありゃぁ、花束なんかじゃなく毒薬の材料でも見つくろってんのか?)
そうこうしているうちに見栄えだけはいい花束()を制作し終えた少女が
移動し始め彼もまた足を進めるのでした。
狼さんのハンドガンはオートマチックです。口を開けた狼のマークが印してあります