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60 罠

 エリカの携帯は電源が切れた状態で次の日になっても繋がらなかった。

 心配で一晩中眠れなかったサキは、少し早いが八時になるのを待ってエリカの家に電話をかけた。

 エリカは夕べから帰っていない。やはりエリカの身に何かあったのだ。

「今まで無断外泊なんて一度もしたことがなかったのよ」

 心配そうに言うエリカの母親は、どうやら男と一緒にいるのだろうと見当違いの心配をしている。いたずらに騒ぎ立てるべきでないと思い、サキは何も告げずに電話を切った。


 エリカは由香という女におびき出されたのか? 昨日、エリカのもとへ行かなかったことが悔やまれる。由香が天童の命を受けて本間をたらし込んだことはわかっていたのに。サキはエリカを止められなかった自分を責めずにはいられない。


 手掛かりを探してエリカが携帯に残したメッセージをもう一度聞いてみると、電車の音とホームに流れるメロディが聞こえた。微かにだがホームのアナウンスも聞こえる。

 駅だ。このときエリカは駅の近くを歩いていたんだ。サキは集中して背後の音に耳を傾けた。


 突然、うるさかった車の騒音が途絶えて、代わりにがやがやとした場所から大勢の声が聞こえてきた。ところどころ聞こえる口調から同年代の学生たちの会話だとわかる。何度か繰り返し聞いていると、「いらっしゃいませ……にようこそ」と、呼びかける店員の声が小さく入っていることに気づいた。店の名前までは聞こえないが、そこがエリカの好きなクレープ屋だと、サキはピンときた。

 霧島に連絡だけはしておこうと思って携帯を鳴らしたが、十時からシンポジウムが始まるので今はものすごく忙しいのだろう。霧島は電話に出ない。九時に開場し、講演時間は休憩を挟んで三時間半だ。いずれにしても霧島が動けるとしたら二時過ぎだと計算し、サキは独りでクレープ屋へ向かった。


 サキが霧島のメッセージにエリカのことを残さなかったのは、天童の罠かもしれないと思ったからだ。天童の狙いが霧島をシンポジウムから遠ざけることだとしたら、赤木教授が危険にさらされる。それにまだエリカは天童に連れ去られたと決まったわけじゃない。


 店に近づくに連れて、だんだんとエリカの失踪は思い過ごしのような気がしてきた。

 そんなことはあり得ないとはわかっていながらもエリカの無事を信じたくて、母親の言う通りにエリカは本当にだれかと逢瀬を楽しんでいるだけかもしれないと、サキの脳が無意識に思おうとしている。

 とにかく、ヒントはあのクレープ屋しかないんだ。すべてはあそこに着いてからだ。

 サキはそう心の中でつぶやくと、歩みを速めた。


 昼間は学生たちで賑わっている店も、まだ営業前ででひっそりとしていた。

 裏へまわってみると、業務用のゴミ箱が設置されているあたりでキーホルダーを見つけた。サキとお揃いのピンクのベルがついたキーホルダーだ。エリカはこれと同じ物を鞄につけていた。

 取り越し苦労じゃなかった。エリカはここで連れ去られたとみて、まず間違いない。

 エリカはどこへ連れて行かれたのだろう?

 サキが思いつくところはコスモワールドだけだ。コスモワールドへ行ってみるしかない。


 駅のロータリーまで行くと、コスモワールドのビルに電気がついているのが見えた。天童の部屋の辺りだ。もし、天童があの部屋にいれば、仕掛けた盗聴器で中の様子を知ることが出来る。今は少しでも情報が欲しい。

 サキが盗聴用の携帯から天童の部屋に隠した携帯にかけると、すぐに呼び出し音が聞こえた。

 おかしい、あの携帯は自動着信機能をオンにしているから呼び出し音はしないはずだ。サキの心臓が急に早くなる。

 五回ほどコールしてだれかが携帯に出た。携帯から相手の息づかいだけが聞こえてくる。サキは躊躇いながら、もしもし、と声を出した。

 すると、クスクス笑う男の声がした。サキの全身に鳥肌が立っ。

 男は笑いながら言った。

「おはよう、サキちゃん。さあ、ゲームを始めるよ」


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