55 ミス聖蘭の正体
「火事の後に、ミス聖蘭の審査員をしたときのスナップを誰かにいただいたような気がしたけれど、見つからないわ」
少しすると栄子は奥の部屋から出て、来てすまなそうに首を振った。
「無理を言って悪かったよ。探してくれてありがとう」
栄子が奥の部屋で写真を探している間にサキは冷静さを取りもどし、先走り過ぎたと反省していた。考えてみれば同じ大学を卒業したというだけで、ふたりを結びつけるのは安易すぎる。
「気にしないでくれ」と栄子に言って、純粋な興味から賞品はどんなものが貰えるのか訊いた。
「私のときは何だったかしら?」
栄子は広げたアルバムを片付けながら考える素振りを見せ、「けっこういい物だったと思うけれど、忘れちゃったわ」と笑う。
最近では携帯用ゲーム機やアミューズメントパークのペアチケットなどが多いらしいと栄子が言うのを聞いて、派手なイメージな割に賞品はそうでもないのかと、サキは思った。
「どこの大学も同じようなものなの?」
「学校によってまちまちよ。賞品に車や沖縄旅行を出すとこもあるわ」
「そんな高価なものを?」
「年々賞品が高価になっていく大学と、外見で判断するなんてけしからんと言ってミスコンを止めるところと、色々らしいわよ。そういえば、最近送って来た大学の小冊子にミスコンのことが……」
栄子は急に黙ると、次の瞬間、大きな声を出した。
「わかったわ! あれよ、あれ」
そう叫ぶや否や栄子は奥の部屋へ駆け込んで、小冊子を数冊抱えてもどってきた。
サキは黙って栄子の行動を見守る。
「やっぱり、これだわ」
栄子はその中から一冊を抜いて中を見ると、顔いっぱいに笑みを浮かべて、サキに渡した。
創立五十周年記念号と記されたその号には「聖蘭女子大の歩み」という特集が組まれていて、サキはその中の一枚の写真に釘付けになった。
ふたりの準ミスに挟まれて、ミス聖蘭がにこやかに笑っている。
ミス聖蘭にトロフィーを渡している女性が栄子だった。
「スナップ写真を探しても出て来ないはずだわ」
栄子はすっきりした顔で言う。
サキは目を大きく開けてミス聖蘭の顔を見た。写真が小さくてわかりづらいが、霧島の恋人とは別人のように思える。
「もう十五年も立つのね。この頃は私もまだイケてたわ」そう言って栄子は笑った。
サキは、彩から借りた写真を鞄から出してミス聖蘭と比べると、倒れ込むように身体をソファーに委ねて大きく溜め息をついた。
「私の一票が優勝を左右したのよ。私が票をいれたから、この子が優勝したの」栄子は得意そうにミス聖蘭を指でさした。「いい子だったのよ。何度かランチをご一緒したわ。名前はなんて言ったかしら。やあね、年を取ると忘れっぽくなって……」
こんなに楽しそうに話す栄子は見たことがなかった。もとは明るい性格なんだろう。
サキの頭にはもう栄子の話はぼんやりとしか入ってこなかった。
「大田さんって言ったかしら。確か昔のアイドルと字が違うけど同じ名前だった……やだ、そっちも名前を思い出せない。ほんと、年っていやあね」
その後もしばらくの間、栄子は学生時代の話を続けた。話を気がすむまで聞いてやったので、栄子は満足そうだった。ずっとストレスを抱えてきたのだと思うと、力になってやりたい。話を聞くだけで栄子の気が少しでも休まるなら聞いてあげたかった。
サキは家に帰る途中に携帯からエリカに電話をかけた。念のために十五年前のミス聖蘭の候補者、もしくはイベントを取り仕切るスタッフの中に霧島の恋人がいないか調べてもらおうと思ったからだ。栄子と彼女の接点と言えば、そこしか考えられない。
「サキがなかなか霧島さんに訊いてくれないから、直接訊いたよ」
エリカがふてくされた口調で言った。
「何が?」
「んっ、もう。霧島さんの恋人が、いのちの樹に入った理由だよ」
「ああ、ごめん、ごめん。忘れてたんじゃないんだ。いつかけても繋がらなかったんだよ」
「メールっていう便利な機能が、携帯にはついてるでしょ」
エリカは呆れた声を出した。
「悪かったよ。それで、わかったのか? 霧島は何て言ってた?」
「友達に誘われたんじゃないかって。霧島さんもすっかり忘れていて、もしかしたら、それがユミだったかもしれないとは言ってるけど、わかんないって」
「友達の誘いで入信したのなら、そいつがユミの可能性が高いよな。霧島の彼女が翼の母親と知り合いという線はなくなるか」
「十五年前のミス聖蘭に関わった人物でしょ。そんなの簡単だから調べとくよ」
「ありがとう。エリカが優秀で助かるよ」
サキは本心から言った。
「やだなあ、それほどでもないよ」
エリカの声が明るくなって、姿が見えなくても喜んでいるのが伝わってくる。
「霧島の恋人は幼稚園から聖蘭だった。友達に誘われたとしたら、そいつは聖蘭の学生としか考えられないんだけどな。何で聖蘭にユミって名の、それらしき女がいないんだろ」
「あのリストにあった人物を全員調べてみる」
エリカがはりきって答えた。
「七百人はいるんだぞ」サキは声を大きくした。
「エリカ様に任せなさい。七百人のデーターと聖蘭の名簿をパソコンに打ち込めばいいだけだよ。後は勝手にコンピューターが該当者をはじき出してくれる。聖蘭の名簿は、手で打ち込まなくても、ハッキングすれば同じものを手にいれられるかもしれないし」
「ハッキングって、エリカはそんなことも出来るのか?」
「エリカを見くびらないでよね、自分でするわけないじゃない。エリカの為ならデーターの打ち込みだろうが、ハッキングだろうが、やってくれる男の子は、ごまんといるよ」
「エリカ様様だな」サキは心底感心して言った。「こんどクレープ奢るよ」
「ほんとに? アイスクリーム付きのでもいい? 百円高いんだけど」
ああ、と言って、サキは微笑む。
「うっそ。これって……信じらんない!」
突然、エリカが大きな声を出した。
「サキと話しながらネットでミス聖蘭を調べてたの。驚かないでよ。いや、絶対、驚くわ」
「昔のアイドルと同じ名前なんだろ。おばさんがそう言ってた」サキが笑って答えた。
「んっ、もう。そんなことじゃないの。こんな偶然ってあるわけないよ」
「いいから早く言えよ。何がわかった」
「十五年前、おばさんが審査員をしたときのミス聖蘭って……」
エリカが口にした女の名を聞いて、サキは呆然となった。




